シナリオの方程式(三):三幕構成への拡張

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シナリオの方程式(三):三幕構成への拡張2016-11-29T09:04:57+00:00

Project Description

概要

このページでは、「シナリオの方程式」において、テーマを三幕構成に適用する方法を説明しています。

  • スムーズに全体を構成できる「三幕構成ごとの対立関係」とは?
  • 深い感動を作る「抑圧」のメカニズムとは?
  • 変化のきっかけを導き出す「トリガー」と「昇華」とは?

三幕構成への拡張

さて、前の章ではテーマとなる対立関係を作りました。ここからは、作った対立関係を三幕構成という構成方法に対応するように拡張していきましょう。この三幕構成に割り当てることで、物語全体の流れを作る足がかりになります。この辺りから少しずつ具体的な物語の全体像が見えてくるでしょう。

三幕構成とは、一つの物語を三つの部分に分けて考える構成方法です。その三つの部分をそれぞれ第一幕第二幕第三幕とします。「物語とは、問題を解決する過程である」という観点から見て、それらは以下のような区切りになります。

第一幕:問題が発生して、その問題への対処をすることを受け入れるまで

第二幕:問題を解決するまで

第三幕:問題を解決して、元の状態に戻るまで

例えば竜退治の英雄物語なら、城のお姫様が竜に連れ去られて、その町の若者である主人公が竜退治を決意して旅に出るところまでが第一幕になります。仲間を見つけて、洞窟に入り、竜を退治して姫を助け出すまでが第二幕。崩れ始めた洞窟から脱出して、姫を連れ帰り英雄になって、姫と結婚するまでが第三幕……という流れだと思えばいいでしょう。

スペシャルワールドとは、「特別な世界にいる状態」

ここで、「問題への対処をすることを受け入れてから、問題を解決して、元に戻るまでの部分」スペシャルワールドと呼びます。文字通り、主人公が問題に対処している特別な世界にいる状態を指します。場所で言うと、第二幕の最初から第三幕の最後付近までを指します。

先の竜退治の例で言うと、竜を退治すると決意して旅に出てから、洞窟が崩れ落ちたところまで(旅から戻るまで)がスペシャルワールドになります。注意点としては、問題を解決した(竜を退治した)としても、洞窟から抜け出して日常に戻るまではスペシャルワールドに居続けるということです。

三幕構成で起きる対立関係

さて、三幕構成においては、それぞれの幕において対立関係が生まれます。前の章では対立関係を作りましたが、あれは「テーマの対立関係」になります。ここでは、三幕構成のそれぞれの幕においての対立関係を導き出していきましょう。

三幕構成では、テーマに対して次のような対立関係が起こります。

第一幕:スペシャルワールドに入るかどうかの対立

第二幕:テーマの対立

第三幕:スペシャルワールドから出るかどうかの対立

これも竜退治の例で言うと、第一幕では、ヒーローは竜退治の旅に出るかどうかで対立し、克服することで旅に出ます。第二幕ではテーマの対立ということで、例えば勇敢さを試されたりして、自分の問題(テーマ)を克服します。第三幕では、ヒーローが竜退治の旅を終えようとするのを妨げる相手と対立、克服します。「物語とは問題を解決する過程」と捉えると、物語はこのような構成になっているのです。

実際に対立関係を実際の物語として機能させる前に、さらにいくつか要素が必要になります。それを見ていくことにしましょう。

対立関係から物語を展開(トリガーと昇華)

対立関係から物語(問題解決をする過程)を作ることができますが、それを導き出すにはもう二つほど情報が必要になります。その二つが、「トリガー」「昇華(止揚)」になります。

まずは昇華(止揚)について説明しましょう。

ヒーローとシャドウはある一つの事柄において対立をしていますが、最終的には問題を解決しなければなりません。二つの対立した問題を解決する一つの答えを得ること、その答えを得ることを昇華(止揚)と言います。

昇華の具体例

例えば対立関係において、次のような「孤独・人気型」があったとしましょう。

  • ヒーローの長所:一人でいることで、人から傷つけられずに済む
  • ヒーローの犠牲:一人でいることで、人との喜びがなくなる
  • シャドウの長所:一人でいないことで、人との喜びが得られる
  • シャドウの犠牲:一人でいないことで、人から傷つけられてしまう

この場合、例えば「この人になら傷つけられてもいいと、自分よりも相手を想うこと」で、ヒーローにおいてもシャドウにおいても長所と犠牲の双方を満足する考え方を得ることができます。この答えにたどり着くことが昇華という過程になります。

昇華とはいわば、今までの議論の次元ではなく、「一つ次元の上の理解」を得るということになります。「もっと大切なことを知ること」や「心の成長」と言い換えられるかもしれません。そしてこの昇華こそが、感動を引き起こす要因になります。

トリガーとは、昇華を起こすための引き金

しかし対立関係があったとしても、変化のきっかけが何も起こらなければ、ヒーローとシャドウは対立したまま安定してしまって昇華を起こすことができません。そこで昇華を起こすために必要になるのが、トリガー(引き金)です。

トリガーとは、変化を起こすきっかけのことになります。通常の場合、対立しているヒーローとシャドウに対して、さらに問題を振りかけたり、一波乱を起こすことになります。いわばトリガーとは、「雨降って地固まる」の「雨」の役割と言えるでしょう。「地固まる」が昇華ということになります。

トリガーは、ヒーローとシャドウの片方もしくは双方にとって、苦しみや痛みを引き起こすような出来事になります。それは場合によっては、ヒーローが欠点を持つようになった原因である、過去の抑圧を再現する出来事になるかもしれません。

トリガーの典型

トリガーの典型的な例を、以下に示します。

  • 病気になる。体をこわす。
  • 死を目の当たりにする。
  • 夢が破れる。
  • 大好きな人と別れる。
  • 嫌な人、嫌いな人と時間を共にしなければならなくなる。
  • 嫌なこと、嫌いなことをしなければならなくなる。
  • 耐え難い痛み、苦しみを味わう。
  • 人から嫌われる。
  • ……etc.

これらは、仏教で言う「四苦八苦」と覚えておけばいいでしょう。そういう「人にとっての苦しみ」が、変化を起こすきっかけになるということですね。

トリガーの具体例

先述の例で言うと、傷つけられるのを恐れて一人でいたがるヒーローの主人公と、一緒にいたいと思っているシャドウのヒロインがいたとしましょう。主人公はヒロインから逃げますが、ヒロインは近づこうとする、その状態を繰り返して、「近づいては逃げる」の状態で安定してしまいます。そこで例えば、「ヒロインが事故を起こして近づけなくなる」という全く別の問題(トリガー)を引き起こします。そうすることで主人公はヒロインのいない世界を知って、どれだけヒロインに助けられていたのかを知り、変化(昇華)を起こすことができるようになります。

他の例では、「風邪を引く」「襲撃を受ける」「今まで支えてくれた大切な人が死ぬ」「大切な心のよりどころのものが壊れてしまう」など、多くの場合、対立関係の問題とは全く関係ない否定的な問題が降りかかります。

いわば、対立関係という問題に対して、さらに問題をかぶせるのがトリガーだと思っておけばいいでしょう。

なお、このトリガーを引き起こす人物をトリックスターと言います。

これからは、ヒーローとシャドウの対立と、このトリガーと昇華を合わせたものをまとめて「対立関係」と呼ぶことにします。

各幕で起こる昇華の典型例

第一幕、第二幕、第三幕ではそれぞれの対立関係が起こりますが、テーマに則して言うならば、以下のような典型例が多く用いられます。

  • 第一幕の昇華:「使命感」「仕方なく」「同情して」「妥協」など。問題の根本解決はしない昇華の仕方。
  • 第二幕の昇華:「喪失の克服」「心のレベルアップ」といった、問題の根本解決。
  • 第三幕の昇華:「素直になる」「感謝する」「行動に移す」といった、問題解決した後の新しい次元での初行動。

片方の「完全勝利」では、感動できなくなる

なお、昇華した後には新しい思想(一つ次元の上の理解)を得ますが、その思想は対立関係と同じ次元の物にしない方がいいでしょう。つまり、片方が完全勝利するという形にはしない方がいいでしょう。もし同じ次元にしてしまった場合、昇華が起こらない(感動できなくなる)ためですね。もしそうせざるを得ない状況であれば、シャドウ側で成長を見せるといったフォローが必要になります。

例えばスポーツの野球ものの物語で、ヒーロー(主人公)とシャドウの間で「勝つことが全てだ」と「負けた方は傷つく」という対立があったとしましょう。主人公が「負けた方が傷つく」という立場に立っていながら、勝負に勝って、負けた方が傷ついたとしましょう。その場合、主人公は自分の考えは正しかったことになり、主人公には昇華が起こらずに感動できなくなります。

ヒーロー側が昇華できなければ、シャドウ側を昇華させる

この場合の対処法は、シャドウ側で昇華をさせることです。負けた側である「勝つことが全て」だったシャドウは、「負けて落ち込んで傷ついて、だけどその時初めて仲間に救われた。勝ち負けよりも大切なものがあったんだ」と気付くことで、シャドウは昇華を起こし、感動できるようになります。

注意点としては、第一幕の昇華で、勢い余ってテーマである昇華を起こさないことです。これをやってしまうと、第二幕で昇華が起きず、第二幕が全く面白くなくなる危険があるためです。第一幕では、使命感や仕方なく、妥協してといった流れの方がいいでしょう。

第一幕の対立関係:スペシャルワールドに入るかどうかの対立

それではこれから、これまで作った情報を元に、第一幕、第二幕、第三幕のそれぞれにおいて対立関係を作っていきます。

まず最初の第一幕で起こる対立関係を作っていきましょう。

第一幕での対立関係は、スペシャルワールドに入る、つまり問題解決に対処するかどうかという対立になります。

第一幕の対立関係は、に示すような内容になります。ここでも、「世界観(象徴:目に見えるもの)」と「心の状態:目に見えないもの」の両方を一対一に対応させて作り込みます。

前の章で作ったテーマの対立は第二幕で用います。第一幕の対立関係は、同じ初期状態の問題を抱えつつも、テーマの対立関係とは異なるものであることに注意しましょう。

ヘラルド(使者)が、第一幕のシャドウになる

「(3-1y)シャドウである対象」は、第一幕でのシャドウになります。第一幕での対立関係におけるシャドウのことを、別名「ヘラルド(使者)」と呼ぶこともあります。ヘラルドは、物語全体において、主人公を問題解決の旅へと誘う使いとして現れます。

ヘラルドは人ではない場合もあります。それは手紙だったり、依頼だったり、敵の襲来だったりする場合もあります。ですが、これも人を割り当てた方が読み手には分かりやすくなります。

探偵もので例を挙げると、スペシャルワールドは「事件解決を決意してから事件から離れるまで」だとしましょう。すると、探偵の元に事件解決の依頼が来ます。これがヘラルドになります。注意が必要なのは、依頼そのもの、もしくは依頼を説明する人がシャドウになるということです。この例では、この後事件について話を聞くでしょう。その依頼は今までになく困難で危険なもので、主人公は引き受けるかどうか悩みます。悩んだままでは安定して止まってしまうので、ここでトリガーが発動して何か別の問題が起きて、引き受けるという流れになるでしょう。

第一幕の対立関係を作り込む

「(3-1b)スペシャルワールドへの態度」は、ヒーローがスペシャルワールドに入りたいと思っているのかどうかを記述します。ここではテーマ作成時に作った「(1-a)初期状態」「(1-b)スペシャルワールド」をそのまま用いて、そこに入るか入らないかを記入します。「(3-1b’)スペシャルワールドへの態度」はシャドウの態度になるため、(3-1b)とは反対の内容になります。

「(3-1A)ヒーローの長所」「(3-1B)ヒーローの犠牲」「(3-1B’)シャドウの長所」「(3-1A’)シャドウの犠牲」は、対立関係の項目で説明した通りのものです。これを第一幕に当てはめて考えます。ヒーローはスペシャルワールドに進んで入ろうとはせずに、現状にしがみつこうとします。そのため、第一幕でのヒーローの長所については、テーマである象徴(2-A:S)(2-B:S)とのみが異なっていて、心の状態(2-A:M)と(2-B:M)については全く同じである場合が多いでしょう。

「(3-1t)トリガー」「(3-1c)スペシャルワールド突入」では、トリガーと昇華の内容を記します。トリガーにはどんな問題が発生するのか、昇華にはそれによって得られた内容を記します。

第一幕は「スペシャルワールドに入るかどうか」での葛藤

第一幕の場合、「○○のために、スペシャルワールドに入ることを受け入れる」といった書き方になるでしょう。

例えばトリガーが「大切な人が傷つく」のであれば、「これ以上、大切な人を傷つけないためにスペシャルワールドに入る」といった形になるかもしれません。また別の例では、トリガーが「落第の危機が訪れる」のであれば、「落第しないために、スペシャルワールドに入る」という形になるかもしれません。

スペシャルワールドに入ると決断することは、ヒーローにとって自分の犠牲を克服するための第一歩になります。ヒーローが弱気なのが問題(テーマ)だった場合、初めて勇気を出さざるを得ない状況が第一幕のトリガーと昇華になることが多いでしょう。

✎ 作成例:第一幕の対立関係

こちらは具体例を見た方が早いので、実際に見ていきましょう。前の章で説明した「片思いクラブ」ネタを引き続き使っていきます。

スペシャルワールドは「学園文化祭での『生徒会長への告白権』を手にする戦い」なので、第一幕では「学園文化祭での『生徒会長への告白権』を手にする戦いに入るかどうか」という対立が起こります。

スペシャルワールドに対する対立を組み込む

実際にスペシャルワールドに対する対立を記入した後の第一幕対立関係を、次に示します。

第一幕のシャドウ(ヘラルド)を決める

まずは第一幕でのシャドウ(ヘラルド)を考えましょう。ここでのヘラルドは、「文化祭で行われる戦いへのエントリー通知書」でしょう。ヒーローやシャドウの象徴には物や概念などの抽象的なものを入れるよりも、人物を割り当てた方が読み手にとっては分かりやすくなります。なので、「(3-1y)シャドウである対象」は、「エントリー通知書に記入を勧める、主人公とは気心の知れた親友(主人公が生徒会長に憧れていると知っている友人)」にしましょう。まあ記入には短縮して「親友」と入れることにしましょう。

対立関係を作り込む

「(3-1A)ヒーローの長所」「(3-1B)ヒーローの犠牲」「(3-1B’)シャドウの長所」「(3-1A’)シャドウの犠牲」については、第一幕では次のような対立が起こります。通知書を受け取ったヒーロー(主人公の女の子)は、申込書を提出すれば参加権を手に入れることができますが、もしうまくいってあこがれの生徒会長に告白したとしても、だめだったらどうしようと思って、その両者が対立します。

なので、心の状態についてはテーマの対立関係と同じになります。告白権ではなく、参加権を手にするという部分が変わっているだけですね。

象徴については、スペシャルワールドに入ることの象徴を使います。ここでは「参加権」ですね。

トリガーと昇華を作る

そして、このままでは対立したまま進まなくなるので、「(3-1t)トリガー」を発動して、「(3-1c)スペシャルワールドへの突入」で昇華を作ります。トリガーと昇華は、考えてみるといろいろとあるでしょう。以下に適当に例を挙げてみます。

  1. 主人公が生徒会長と偶然話をして、生徒会長が現在の参加者リストを眺めながら「こういうのは趣味じゃないし、誰が勝ち取ったとしても断ることになるから、人を傷つけるのが嫌なんだ……」と、悩みを打ち明けられる。
    →このトリガーによって、主人公は「なら私が参加して優勝します! 私なら断られても平気だから、誰も傷つけることもありません!」と嘘をついて、参加するという流れ(使命感の昇華)に持って行ける。
  2. 同じく生徒会長と話をして、「盛り上げないと、収益がなくてこのままでは生徒会は破産してしまう」と打ち明けられる。
    →このトリガーによって、主人公は「なら私も盛り上げるために参加します!」と勢いで言ってしまうことで、参加に持って行ける。
  3. 生徒会長が倒れてしまう。
    →このトリガーによって、主人公は「参加すれば、自分が生徒会長の影武者になって、生徒会長に休んでもらうように促せるので、そうしよう!」と参加に持って行ける。
  4. 主人公が生徒会長に憧れていると知っている友人が、勝手に登録してしまう。
    →「仕方ない」と達観することで、参加できるようになる。昇華内容は、「実際に入ってみると、それほど緊張するほどのことでもなかったかも」と安心すること。

先に図示した作成例では一番最初の案を採用しています。

これで第一幕の対立関係ができました。トリガーと昇華はいろいろと案を出すといいでしょう。そしてくれぐれも、第一幕では昇華部分で根本的な解決をしないことに注意をすることが大切ですね。第一幕では「スペシャルワールドに入るかどうかの対立」であることに注意して、作り込みましょう。

第二幕の対立関係:テーマの対立

第二幕では、テーマそのものの対立が起こります。

テーマの対立関係は、ここまでで作ったものをそのまま使うので、後はトリガーと昇華について作ればいいだけです。ただ、そのトリガーと昇華について、少し詳しく見ていく必要があります。

第二幕でのトリガーは、テーマそのものを解決するためのトリガーになります。さて、対立関係を説明した最初で、感動の定義を説明したことを覚えていますでしょうか。

「感動とは、心の抑圧を解放することである」
第二幕で、これを使うことになります。

感動を引き起こす「抑圧」とは何か

それでは前準備として、抑圧について少し説明しましょう。なぜ、人には長所と犠牲という性質ができてしまうのでしょうか? 生まれたばかりの赤ん坊にはないことなのに、私達人間はいつの間にかその長所と犠牲という対立関係を胸に抱えてしまっています。

その原因が、実は抑圧によるものなのです。抑圧とは、癒されることなく残った心の傷のことを言います。通常、人は抑圧のことは胸の奥に閉じ込めておいて、意識には登ってきません。つまり抑圧した出来事というのは、普段は完全に忘れていますし、思い出そうとしても思い出すこともできないものです。

人は心の傷を負って抑圧した時に、その傷を無意識のうちに回避しようとする性質があります。例えば幼い頃に高いところから落ちて傷ついて、その恐怖を完全に癒すことができなかった場合、それが抑圧となって、それ以降は高いところが苦手になり、その後は「低いところを好む」という長所と、「高いところが苦手」という犠牲が生まれます。別の例で言うと、幼い頃に「お前は無価値だ」と言われたとしましょう。その心の傷をそのときに癒せなければ抑圧となり、「自分の存在価値を見せつけようと努力する」という長所と、「相手に否定されたら傷つく」という犠牲が生まれることもあるでしょう。

抑圧によって、人に長所と犠牲が作られる

つまりは、人に長所と犠牲が起こってしまうのは、過去の抑圧によるものなのです。その過去に起こった、抑圧を生む原因となる出来事を「喪失」と呼ぶことにします。

そのため、ヒーローとシャドウには、双方に過去において喪失となる出来事があり、抑圧された傷があるということになります。それが現在の対立関係を生み出しているのです。

第二幕のトリガーは、過去の喪失を再体験させることにあります。よって、第二幕のトリガーは、過去の喪失を浮き上がらせるきっかけにすることが重要になります。それは実際に過去の喪失を思い出すという出来事かもしれません。別に思い出さなくても、同じような体験をすることになるでしょう。

そして、そのトリガーによって昇華が起こります。過去では抑圧してしまいましたが、今度はヒーローが乗り越える番です。新たな思想を得て、再体験という試練を乗り越えるでしょう。

このとき、喪失を思い出す場合があります。人は、過去に喪失があって、それに自分が操られていたと気付くと、その時点で抑圧から解放されます。簡単に言うと、喪失を「思い出す」だけで、自分の長所と犠牲という束縛から自由になります。つまり、自動的に抑圧の解放が行われるということですね。喪失を思い出す場合、このような性質があります。

抑圧をベースにして、第二幕の対立関係を作り込む

これを踏まえて、第二幕の対立関係を次図に示します。第二幕では、対立関係に喪失と抑圧部分も加えて考えます。

「(3-xL)ヒーローの喪失と抑圧」「(3-yL)シャドウの喪失と抑圧」で、ヒーローとシャドウそれぞれの喪失と抑圧を作ります。この喪失と抑圧が、ヒーローとシャドウの動機を生み出す隠れた要因になります。

例えばヒーローの長所が「一人を助ける」で、犠牲が「全員が危険になる」というものだったとしましょう。すると、過去の喪失としては、「親が大勢を救うために犠牲にされた」や「大好きな人を助けられなかった」という抑圧を作れるでしょう。逆にシャドウの長所が「全員を助ける」で、犠牲が「一人を犠牲にする」ならば、過去の喪失は「一人の殺人鬼のために、全員が殺された」や「一人のために大勢が犠牲になった」という抑圧が作れるでしょう。このような出来事を作り込みます。

この喪失と抑圧は、いわばヒーローとシャドウの根本となる動機であると思っておいていいでしょう。

ヒーローとシャドウの間にある「因果」

場合によっては、過去にヒーローとシャドウが喪失をした場合に、因縁があるかもしれません。その場合は「(3-L)因果」にそれを記述しておきます。

例えばヒーローとシャドウの両親が同じ事件に絡んでいて、その時に別々の立場で生まれたのがヒーローとシャドウだった、などですね。対立関係をより明解にするために、ヒーローとシャドウは対立関係の面以外は全て似通わせるという技法がよく使われます。その場合、この因果を利用すると構成しやすくなるでしょう。

なお、ヒーローとシャドウには過去の因果がない場合も多くありますので、これは必須というわけではありません

注意が必要なのは、この喪失と抑圧については、多くの場合でヒーローやシャドウが通常状態では意識に登らない(忘れている)状態であることです。トリガーによって強烈な再体験や挫折体験をしない限り、思い出すことはないとしておいた方がよいでしょう。

喪失の再現から、抑圧を解放する

そして、「(3-2t)トリガー(喪失の再現)」において、トリガーを発動しますが、ここでは喪失と似たような状況を再び起こすということが、過去の喪失を思い出したりするために効果的でしょう。別に喪失とは無関係でも構いませんし、喪失を思い出さなくても大丈夫ですので、普通のトリガーでも構いません。

「(3-2c)抑圧の解放」によって、ヒーローは問題を解決(目的を達成)します。その問題を解決した象徴として、「長所と犠牲の象徴を手放す」もしくは「宝を得る」というものがあります。例えば「長所と犠牲の象徴を手放す」のであれば、今まで自分を癒していたアイテムを手放すことかもしれません。また「宝を得る」のであれば、宝はさらわれたお姫様との絆や愛を得ることかもしれませんし、力の象徴である特殊な剣を手にすることかもしれません。

喪失と関連付けない場合、「(3-2c)抑圧の解放」は通常通り行えば大丈夫です。

✎ 作成例:第二幕の対立関係

さて、ここでも「片思いクラブ」ネタで具体例を見てみましょう。実際に喪失と抑圧、トリガーと昇華を考えて記入していきます。

第二幕の対立関係を作り込む

実際に第二幕の対立関係を記入したものは、次のようになります。

喪失と抑圧を作り込む

「(3-xL)ヒーローの喪失と抑圧」「(3-yL)シャドウの喪失と抑圧」において、それぞれの長所と犠牲を生み出すようになった要因を追加します。

ここでは、ヒーローは「幼い頃に両思いだった名前の知らない男の子が、引っ越して別れたこと」にして、シャドウは「幼い頃に好きだった男の子が、振り向いてくれずに、引っ越して別れたこと」にしています。

共に好きな人との別れによって、正反対の長所と犠牲ができてしまったことになります。ヒーローは別れた時の傷が原因で、「好きになって両思いになったら、もし別れが来てしまったら深く傷つくので、こんな痛みはもう嫌だ」と思って消極的になります。逆にシャドウは振り向いてくれないまま別れてしまったので、「もっと自分を磨かないと、好きな人は振り向いてくれない」と思って積極的になります。これが両者の動機になるわけですね。

また、「(3-L)因果」では、両者は同じ男の子だとしておきましょう。この作品ではおそらく使わないと思いますが、一応入れておくことにしましょう。

トリガー、抑圧の解放を作り込む

「(3-2t)トリガー」では、トリガーを入れます。喪失の再現を行うとしたら、「好きな人を失う」という状況を再現することでしょう。それを実現するためには、「生徒会長が死に至る致命傷を負う」「生徒会長が転校する」「生徒会長が卒業する」などがあるでしょう。もし喪失の再現をしないのであれば、普通に「決勝の戦いで、会場が火事になる」「主人公とシャドウをねたんだ第三者が乱入して二人を傷つけようとする」などの案があるでしょう。

ここでは、「生徒会長が事故で致命傷を負う」としておきましょう。

「(3-2c)抑圧の解放」では、象徴として「戦いに勝つ」「告白権を手にする」というものがあるでしょう。また心の状態としては、今回は喪失を思い出すので、「喪失を思い出す」と記入しておきましょう。根本となる喪失を思い出したら、自動的に長所と犠牲が消えてしまうので、これだけで十分です。

これで第二幕の対立関係は完了です。テーマ(問題)そのものが解決される図式が完成しました。

第三幕の対立関係:スペシャルワールドから出るかどうかの対立

第三幕の対立は、「スペシャルワールドから出るかどうかの対立」になります。第一幕でスペシャルワールドに入り、第二幕でテーマ(問題)を解決しました。問題そのものは解決しましたが、まだ問題解決の旅(スペシャルワールドにいること)は終わっていません。主人公は旅を終えて、問題がなくなった日常に戻る過程が必要になります。その際に対立関係が生じます。

例えば竜を退治する物語で言うと、仲間と共に竜を退治して、洞窟の最深部でさらわれた姫を救い出した状態です。しかし、主人公たちはここから洞窟を出て、元の村まで帰らなければなりません。主人公が帰りたいと願っている場合なら、崩れゆく洞窟が主人公たちが帰ることを阻止しようとすることで対立が生まれるかもしれません。逆に主人公が仲間たちと別れたくないと思っている場合、仲間たちは主人公に別れを促すことで対立するかもしれません。どのみちこの旅で得た宝を持ち帰り、再び日常に戻らなければならないのです。そこで、長い旅そのものとの決別が必要になります。

第三幕の対立関係は、第一幕と似たようなもの

これを踏まえて、第三幕の対立関係は次図のようになります。

要領は第一幕の対立関係とほとんど同じです。スペシャルワールドに「入る」という形が「出る」という形に変わっただけです。

第三幕の対立関係を作り込む

「(3-3y)シャドウである対象」は、第三幕でのシャドウになります。スペシャルワールドから出るのを阻止しようとする存在です。それは第二幕で悪巧みの野望を打ち砕かれたシャドウによるものかもしれませんし、別れを惜しむ仲間であるかもしれません。これは、物語における「スペシャルワールドそのもの」と言ってもいいでしょう。スペシャルワールドの象徴であるものが、ヒーローを引き留めます。

「(3-3b)スペシャルワールドへの態度」は、ヒーローがスペシャルワールドから出たいと思っているのかどうかを記述します。「(3-1b’)スペシャルワールドへの態度」は、シャドウの態度になるため、(3-1b)とは反対の内容になります。

「(3-3A)ヒーローの長所」「(3-3B)ヒーローの犠牲」「(3-3B’)シャドウの長所」「(3-3A’)シャドウの犠牲」は、第一幕のものと同じ要領で、第三幕に当てはめて考えます。ヒーローはスペシャルワールドから出るために、今まで大切にしていたものを手放さなければならないかもしれません。それは、今まで大切にしていたけど、もう不要になった長所の象徴かもしれません。仲間との絆かもしれませんし、辛くても楽しかった旅かもしれません。

対立が起きてなかなか手放せずに安定してしまうかもしれません。しかし、ここでも「(3-3t)トリガー」を発動して、スペシャルワールドから出ます。「(3-3c)スペシャルワールドとの別れ」では、「素直になる」「感謝する」「行動に移す」といったことかもしれませんし、問題解決した後の新しい次元での初行動になる場合もあるでしょう。

✎ 作成例:第三幕の対立関係

さて、ここでも恒例になった「片思いクラブ」ネタの対立関係で具体的に見てみましょう。

第二幕ではスペシャルワールドの目的である「告白権をかけた戦い」に勝利しました。しかしまだ旅は終わっていません。そう、「告白権を行使する」という大切な問題が残っています。その問題をクリアしなければ、日常には戻れません。

第三幕の対立関係を作る

そこで、スペシャルワールドから「出る」時の対立関係を作っていきましょう。

対立関係を作り込む

「(3-3y)シャドウである対象」は、スペシャルワールドそのものの象徴である「告白権」にします。抽象的な物がシャドウになると分かりにくいので、告白権行使を勧める「司会進行者」も含めましょう。これで、司会者が告白権行使を勧めることで、告白に踏み切れないヒーローと対立させていきます。

第三幕では第二幕で得た新しい思想を実際に行動に移す過程でもあります。そのために、従来の対立関係を乗り越え、決別する必要があります。「(3-3A)ヒーローの長所」「(3-3B)ヒーローの犠牲」「(3-3B’)シャドウの長所」「(3-3A’)シャドウの犠牲」は、従来のものを用いて、実際に行動を起こすという過程にしています。

それを行動に移させるために、ここでも「(3-3t)トリガー」でトリガーを引きます。ここでは生徒会長はずっと主人公に喪失のことを思い出して欲しかったという悩みがあったことを伝えます。これによって、「(3-3c)スペシャルワールドとの別れ」で実は生徒会長を待たせてしまっていたのだと罪悪感を感じ、そこから勇気を得て告白するという昇華方法にしています。

シャドウの昇華

ところで今回はヒーローの昇華のみを紹介しましたが、シャドウの昇華も同時に付け加えることができます。シャドウの昇華は、ヒーローの昇華と並列においたり、入れ替えも可能です。

例えば以下のようにシャドウの昇華を追加できるでしょう。

  • 第二幕のトリガー後において、ヒーローと共にシャドウも昇華させる。
  • 第二幕はヒーローに昇華させ、第三幕はシャドウに昇華させる。
  • 第三幕のトリガー後において、ヒーローと共にシャドウも昇華させる。

シャドウにも昇華させたい場合、「(3-2c)抑圧の解放」、もしくは「(3-3c)スペシャルワールドとの別れ」の欄に、シャドウの昇華内容も記しておきます。

シャドウの昇華については、要領はヒーローの昇華と同じです。ただしヒーローが何かを得るような昇華をした場合、シャドウは何かを捨てるなどの、反対のものになることが多いでしょう。

例えばヒーローの昇華が「愛情を得る」「自分よりも恋人の方を大切に思えるようになる」といったものである場合、シャドウの昇華は「偽りの愛情を手放す」「恋人よりも自分の方を大切にしていたと気付く」というようになり、シャドウは「本当の愛じゃなかった」と気付いてヒーローに感謝する、という形になるでしょう。

対立関係が、プロット作りで一番中核となる要素

さて、これで第一幕、第二幕、第三幕の対立関係は完了です。「物語とは、問題を解決するための過程である」ことと「スペシャルワールドごとの対立関係」、この二つを把握していれば、慣れればすぐに頭で対立関係を作る事ができるようになるでしょう。

この対立関係こそが、本格的なプロット作りでは最も中核となる大切な要素です。この対立関係を作り込むことで、しっかりと盛り上がり、そして感動できる物語を構成することができるようになります。最初は抽象的な事が多くて取っつきにくいかもしれませんが、根気よく慣れていくことで、きっと強い味方になってくれることでしょう。

それでは次のステップで、この対立関係を実際の一連の物語に変換していきましょう。

まとめ

  • 三幕構成で起きる対立関係を作り込むことが大切。
  • トリガーと昇華を組み込むことで、スムーズに物語を進行できて、感動を導き出せるようになる。
  • トリガーとは、昇華を起こすための引き金。
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クレジット

http://www.flickr.com/photos/mssarakelly/9529206128/ by MsSaraKelly (modified by あやえも研究所)
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