駆け引きの方程式

駆け引きの方程式2016-11-29T09:04:51+00:00

Project Description

  • 初版: 2011年4月 「サスペンスの方程式」
  • 単体として分離: 2014年3月

概要

この教材では、バトルにおける「知的な駆け引き」を作る方法について説明しています。

  • バトルの「知的な駆け引き」を作る方法とは?
  • 読み手が「これは斬新だ」と感じるバトルのルールを作るには?
  • 「逆転劇」を簡単に作り出せる方法とは?

駆け引きの方程式

ここでは、サスペンスやバトルなどで用いる「駆け引き」部分について詳しく構成方法を説明します。

駆け引きについては「サスペンスの方程式」で概要を説明しましたが、再度簡単に概要を説明しておきます。

駆け引きは「ルール」と「ルールブレイカー」、そして「各ルールブレイカーの前振り」の三つで構成されています。(次図)

「三つ巴」以外の駆け引き

「サスペンスの方程式」は「三つ巴」を例に考えてきましたが、三つ巴という形にこだわらず、ルールは自由に構成することができます

そして、それぞれの物語では、駆け引きを通してお互いの欲求を満たそうとするでしょう。その駆け引きのルールをまとめて「ゲーム」と呼ぶことにしましょう。

主人公や敵は、ある何かしらのルールを持つゲーム上で駆け引きをしていることになります。

刑事物であれば、事件が起きた建物を舞台として、主人公の刑事は「人質を無事に確保し、犯人を逮捕すること」という勝利条件を、犯人は「身代金を確保し、無事に逃げ切ること」という勝利条件をどちらが早く達成するかというゲームをしていることになります。

これから、そのような「ゲーム」を作ってゆきましょう。

「ゲーム」を作る四つの手順

ここではルールとルールブレイカーの作りやすい構築方法の一つを紹介します。それは以下のような四つの手順になります。

ステップ一:ルールの大枠を作る

ステップ二:ルールブレイカーを作る

ステップ三:ルールブレイカーを元に、逆算してルール詳細を作る

ステップ四:流れを時系列で構成する

以下では、各ステップについて詳しく説明していきます。

ステップ一:ルールの大枠を作る

さて、それでは実際に「ゲーム」を作ってゆきましょう。

ルールの大枠を作る流れは、次の二ステップになります。

基本ルールを決める

勝利条件を決める

以下で、詳しく説明してゆきましょう。

(一)基本ルールを決める

ルールの一番の大枠を作る方法ですが、まずはゲームの基本ルール(制約)を決めます

例えばサッカーでも、手が使えないから面白くなるわけですね。野球でも、球を細い棒きれで打ち返さなければならないわけです。ジャンケンにしても、グーチョキパーの三つしか出せないわけです。だからこそいろいろと工夫の余地が出てくることになります。

読み手の知らないルールを作る必要性

しかしサスペンスの場合、読み手がそのゲームの攻略法を知っていては急激に面白くなくなります。そのため、読み手がまだ知らない、しかし理解しやすいルールにする必要があります

これをまとめると、次のようになります。

明解で単純なルール

日常的でない変わった制約条件

「誰もが知っているルールに、異質な制約を加える」という工夫

これを実現するための一つのいい考え方として、「誰もが知っているルールに、異質な制約を加える」という方法があります。

例えば「ジャンケン」は誰もが知っていると思います。読み手は攻略法として、例えば「遅出し」とか「チョキを出そうとしてパーを出す」なども知っているかもしれません。

ですが、その「ジャンケン」に「カードで出す」というちょっと変わった制約を追加してみたらどうでしょう。すると、「遅出し」や「チョキを出そうとしてパーを出す」といったジャンケンの攻略法は使えなくなり、読み手は攻略法が分からない全くルールに関して無知な状態になります

そのため、主人公はこのルールを提示された時、攻略法が分かりません。そこで、攻略法を既に知っている敵キャラがまずは先制攻撃をして、主人公はピンチに陥るでしょう。

そこから主人公は駆け引きのルールを一つずつ知ってゆき、逆転していくという流れになるわけですね。

「異質な制約を加える」の別の例

「ありふれたゲームに、少しだけ異質な要素を加える」の例を挙げてみましょう。

犯罪の駆け引きで、「金庫にあるお金を奪い合う(一方は守る)」という分かりやすいルールがあったとしましょう。一方の怪盗は攻撃側で、お金を盗み出せば勝利。一方の警察は防御側で、お金を守りきれば勝利。犯行予告をして、一定時間内で勝負。とても分かりやすいですよね。

なら、ここに少しだけ異質な要素を加えます。例えば「お互いに超能力者が一人ずついて、半径五メートル以内のものを動かせる」という制約条件はどうでしょう。すると、読み手は攻略法を知らない、全くの白紙で駆け引きを始めることができます。

他にも、「マラソンをする」というゲームに、例えば「自由に相手の足を引っ張っていい」という制約を加えたらどうでしょう。体力だけでなく、他の駆け引きが生まれるでしょう。

また、「麻雀」というゲームに、「一部の牌は透き通って見える」という制約を追加できるかもしれません。

変わっているが、分かりやすい制約条件を加える

他にも、ありとあらゆる「ゲーム」や「遊び」は、明解なルールを持っています。それに、日常的でない変わった、だけど分かりやすい制約条件を加えることで、読み手は全く新しい駆け引きを楽しむことができるようになります。

この段階では、まだ細かいルールは作り込む必要はありません。目新しささえあれば大丈夫です。細かいルールは、この後に作り込んでゆきます。

(二)勝利条件を決める

次にそのゲームにおける勝利条件を考えてみましょう。以下の勝利条件について考えます。

主人公の勝利条件

敵の勝利条件

主人公の敗北条件は、敵が勝利する場合であり、敵についてはその逆になります。

そのために、どのようなゲームを作りたいのかをイメージしましょう。それは世界観に大きく関わってくることでしょう。刑事物なのか、お金を奪い合うものなのか、脱走ものなのか、命を奪い合う戦いなのか、それによって勝利条件が決まるでしょう。

例えば刑事物で、犯人が人質を取り身代金を要求する場合は、以下のようにできるでしょう。

  • 主人公の勝利条件:人質を無事に確保し、犯人を逮捕すること。
  • 敵の勝利条件:身代金を確保し、無事に逃げ切ること。

場合によっては、主人公も敵も同じ勝利条件になることもあります。例えば主人公と敵が共に「高校野球の大会で優勝する」「お金を相手から奪い、生き延びる」といった場合もあるでしょう。

ステップ二:ルールブレイカーを作る

さて、次に作るのはルールブレイカーです。ルールブレイカーは、今までの駆け引きのルールを壊す存在です。

ルールブレイカーとは、今までの駆け引き(ゲーム性)を全て破壊して、無理矢理自分が優位に立つように仕向けるものです。なので、ルールブレイカーは基本的に、一度発動したらそれまでの駆け引きはそれ以降成り立たなくなるものですね。

そのため、主人公と敵の有利不利が逆転する要因は全てルールブレイカーになります。

例えば「主人公(囚人)」「看守」「刑務所長」の三つ巴の形があったとして、最初は「主人公(囚人)は看守より弱い」というルールがあったとしましょう。すると、「看守は刑務所長に弱い」「主人公が刑務所長より強くなる」という二つのルールは、ルールブレイカーになります。

ルールブレイカーの作り方

それを踏まえて、実際にルールブレイカーを作る方法の説明に移りましょう。

ルールブレイカーを作るのは簡単です。

ルールブレイカーを作るには、そのルールでのイカサマを作るだけでできます。後ほどこのイカサマを正当化するルールを配置することで、それがれっきとしたルールブレイカーになります

例えば、個人対個人のゲームであれば、多人数で協力して戦うといったイカサマを考えられるかもしれません。カードに傷をつけて目印にすることかもしれませんし、何かカンニングをすることかもしれません。相手の手札をすり替えることかもしれません。

「イカサマ」の典型例

イカサマの代表格を、以下に列挙してみましょう。

  • 協調:個人戦であるところを、多人数で戦う。
  • しるし付け:本来は分からないはずのものに、しるしをつけて分かるようにしておく。
  • すり替え:自分もしくは相手が持っている属性や特徴を、他のものとすり替える。
  • 決められた偶然:偶然起こるはずのものを、あらかじめ細工してそれが必ず起こるようにする。
  • スパイ:敵の内部に味方を配置しておく。
  • 暗号:必要な情報を、何でもない情報の中に入れておく。
  • :情に訴えることで、理屈をねじ曲げる。
  • …etc.

ルールブレイカーの例

これらはどんなゲームにでも普遍的に使えることが多いでしょう。

例えば刑事物で、警察が犯人を特定してビルに突入するというルールブレイカー(これは主人公による「しるし付け」に相当)を発動したとしましょう。これに対し、犯人が使うルールブレイカーは、以下のように列挙できるでしょう。

  • 協調:犯人は協力者を新たに得て逃げる。
  • しるし付け:警官が突入してくる場所や時間を特定して、逃げ場所を確保して逃げる。
  • すり替え:犯人が警官に偽装して逃げる。もしくは他の警官を犯人に仕立てて逃げる。
  • 決められた偶然:最初に突入する警官がこちらの手駒になるように事前に細工し、その警官に他の警官を足止めさせて逃げる。
  • スパイ:警官内部に犯人を協力させるスパイをひそませて逃げる。
  • 暗号:寸断されたはずの協力者から、逃走経路を暗号で得ることによって逃げる。
  • :情に訴えて隙を作り、逃げる。もしくは警察の一人を助け、友人(もしくは恋人)になり、その協力を得て逃げる。

ルールブレイカーの解説

例えば犯人が「警官に偽装して、ビルの屋上で警察のヘリを乗っ取って逃げる」というルールブレイカーを発動したとしましょう。これは「すり替え」に当たります。

ヘリポートに上がった犯人は、人質を使って主人公を呼び出し、主人公を亡き者にしようとします。その時に人質が犯人に抵抗することで、ヘリは異変に気付いて飛び去ろうとします。この「人質が抵抗する」がルールブレイカーであり、内容は「協調」にあたります。

他の例を挙げると、刑務所もので、「主人公が刑務所長より強くなる」のは「すり替え」に当たります。刑務所長の権威を自分の属性とすり替えているわけですね。看守が囚人間の暴動を引き起こすのは「決められた偶然」になり、看守お気に入りの独房に入った主人公がそこから脱獄するのも「決められた偶然」になります。

また、将棋盤をひっくり返して銃を突きつけるような実力行使は、「銃を用意している」という「決められた偶然」になるでしょう。

このように、理屈は何でもいいので、まずはイカサマを用意して、次のステップに進みます。

ステップ三:ルールブレイカーを元に、逆算してルール詳細を作る

次に、ルールブレイカーができたら、逆算してそれを認めうるルール(もしくは正当化するルール)を作ります。これによって、そのルールブレイカーが発動できるようになります。

これはすなわち、ルールブレイカーを発動するための前振りとも言えるでしょうし、伏線とも言えるでしょう。

何も前置きなくルールブレイカーを発動してしまうと、読み手にとっては「そんな突然に言われても」と、不自然に映ってしまいます。しかし、その前振りさえしていれば、どんなに突飛なルールブレイカーであろうと「あの場面はこのためだったのか!」と受け入れてもらえるようになるのです。

前振りの具体例

これは実際に例で見ていく方が早いので、具体例で説明しましょう。

例えば、「ジャンケンをカードで出す」という少し変わったルールにしたとしましょう。大勢の人が、そのゲームでお金をかけて戦っているとします。

そこで、例えばルールブレイカー(イカサマ)として「しるし付け」をするとしましょう。すると、「しるしがついていることに気が付いた人が勝ち、そうでない人が負ける」という現象が起こってしまうわけですね。

これを正当化するために、例えば以下のようなルールを最初に追加しておきます。

  • 出したカードが出す手になる。
  • 一度出したカードの取り替えはできない。(ルールブレイカーを知っている人は、必ず後から出すようにする。入れ替えを許すと不自然に映る危険があるため)
  • カードは全て裏返して、一枚ずつ台に並べなければならない。その中から、出す手を選んで一枚置く。(「重ねてカード置く」というトリックを使わせないため)

このようなルールを事前に配置しておきます。

前振りを物語に組み込む

そして実際にゲームを始めて、主人公が攻略法を知る場面になって、そのルールブレイカーを知っている人にこう説明させればいいのです。

「お前はまだ分かってないようだな。このルールに隠された『影のルール』に。

なぜわざわざジャンケンをカードでしなけりゃいけないと思う? もしただジャンケンをさせたいなら、カードなんかいらなくて、普通にジャンケンをさせればいいだけじゃないか

これは主催が金に困ってる奴らに声をかけてギャンブルを持ちかけて、何も知らない奴からさらに奪うためのゲームだよ。カードの模様で、ここの部分をよく見てみろ。手によってほんのわずかに模様が違うんだよ。こんな微妙な違い、来たばかりの奴らにはすぐには分かるはずがない。主催側はそれを知って、部下のプレイヤーをひっそりと配置しているから、『必ず儲かる』ってわけさ……
こうやって意味づけがされた瞬間、そのイカサマは「正当な手段」に変わるわけですね。

ルールを審判する絶対存在

もし主人公が、その言葉だけでは信じ切れないようであれば、ルールを厳正に判定する審判を置いて、その審判はもしルール違反があったら必ず不正を見つけ出し、制裁を加えるようにします。その審判が「しるし付け」に文句を言わずに黙っていれば、それは正当な手段であるとすることができます

時系列で考えると、このような「イカサマを正当化するためだけのルール」を出したとしても、元のルールが特殊なので、読み手はすぐにそれが攻略法だとは気付くことはできません。だからルールブレイカーとして機能するわけですね。

「起こしうる前振り」にする必要性

刑事物で、犯人が人質を取ってヘリに乗ろうとする時に、ルールブレイカーとして「人質(主人公の妻)が抵抗する」というものがあったとしましょう。突然これを出すと不自然になります。そのために、事前に人質が「高所恐怖症」という要素を示して、読み手に印象づけておきます。その後、事件解決後に妻に語らせればよいでしょう。「ヘリに乗る(高い場所)なんて死ぬより嫌。だから無意識に犯人に抵抗しちゃった」と。

そうすることで、読み手は「そういうことだったのか!」と納得し、ルールブレイカーが「起こしうる出来事だった」「起こりうる出来事だった」とすることができるわけですね。

論理的不備が見つかった場合

なお、後々論理的な不備(他にも抜け道があったなど)が見つかる場合もあるでしょう。その場合、さらにそれを未然に防ぐためのルールを追加していきましょう。条件を後付けしたとしても、そのルールを最初の方に追加すればいいだけなので、広範囲にわたる修正もないでしょう。

もし他のルールブレイカーに影響があるルールが追加されてしまった場合、ルールブレイカー制作段階に戻って、再度ルールブレイカーを考慮します。

複雑なゲームになると、ルールブレイカーを満たすためにルールを作ったら、そのルールを満たすためにさらに別のルールをいくつか作らなければならなくなる……という場合もあるでしょう。このように複層的にルールを作り込まなければならないこともありますので、注意しましょう。

ルールブレイカーを作り、逆算してルールを配置する、これが簡単に駆け引きを作るコツです。

ステップ四:流れを時系列で構成する

後は、ルールとルールブレイカー、それを発動するために必要な要素を時系列で並び替えるだけです。

「カードでじゃんけんをする」というゲーム例

ここでは簡単な流れを説明するために、「ジャンケンをカードで出す」というお金をかけたゲームをするとしましょう。

最初に主人公にはルールが説明されます。「カードでジャンケンをする」「出したカードが出す手になる」「一度出したカードの取り替えはできない」「カードは全て裏返して、一枚ずつ台に並べなければならない。その中から、出す手を選んで一枚置く」というルールも伝えられます。

でも、主人公や読み手は「普通のジャンケンだろう。こんなの運だろう。だから最初に一勝すればいいだけ。二分の一に賭けよう」と思って戦うでしょう。

瀕死のピンチになって、主人公はルールに気づく

しかし、主人公は負け続けて瀕死の状態になります。もう後がない状態になって、「何かおかしい」「必勝のルールがある」と感じ始めるでしょう。そして主人公はそれを探し始めます。

自分で見つけ出すこともあるでしょうし、主人公を利用しようとする人からそれを教わる場合もあるでしょう。そうすることで、「ああ、模様がすぐには分からない程度に違うんだ」と気付くのです。

でも、今まで騙され続けてきた主人公にとっては、本当にそうなのか疑うでしょう。その模様は自分だけにあるフェイクで、実は他の人は別の分かりにくい模様があるのかもしれないと思うでしょう。

しかし、主人公はそれに賭けて、飛び込みます。これにより、主人公がゲームに勝利し、安堵し、それが真のルールブレイカーであったことを知るでしょう。

その後、敵のルールブレイカーが発動して形勢が逆転し、さらにその後に主人公のルールブレイカーを発動するわけですね。

大切なのは、読み手にすぐにルールブレイカーに気づかせないこと

重要なのは、最初に一気にルールを説明して、読み手がすぐにルールブレイカーにたどり着けないように混乱させておくことです。

読み手は、一気に大量のルールを説明されたら、その真意や攻略法を理解するまでに時間がかかります。また、ルールというのは大抵敵が決めるものなので、主人公にとってもルールブレイカーが何か、すぐには理解できないことが多いでしょう。その間に主人公を不利に追い込むことで、敵がより優位になり、緊迫感を生ませることができるでしょう。

「目先のルール」で、ルールブレイカーから目を逸らす

また、目先のルールを示すことで、読み手の意識をルールブレイカーから逸らすことができるでしょう。「これは単純なルールだけど、結構な頭脳勝負になりそうだ」と思わせることができれば、それは読み手が既に目先のルールに縛られているという証になり、ルールブレイカーから目を逸らすといういい効果を生むでしょう。

例えば「カードでジャンケンをする」でも、何も考えさせずに主人公を行動させて不利にさせることもできますが、他にも「貴方のカードはグーですか?」と訊いて、「ポーカーみたく、表情に出るかも」というフェイクの駆け引きをさせることで、ルールブレイカーから目を逸らすこともできるでしょう。

主人公が、深く考えずに早めに行動したくなる要因

このときに、主人公が早めに行動しなければ、事態が悪化するような制約が加えられることがあります。主人公が「すぐには行動しなくてもいいか」と周囲の人たちを観察し始めると、それだけで読み手や主人公はルールブレイカーの存在に気が付く可能性があります。

そのため、主人公には、長期戦になったら不利だという制約を加えることで、読み手がルールブレイカーの存在に気付きにくくすることができるようになります。

これが駆け引きの構成方法になります。

ゲームの構築例(一):「即興演劇『ロミオとジュリエット』」

それでは本項目では、実際に具体例として駆け引きを説明してみましょう。

まずは普通の感動系作品に、駆け引きのみを追加する方法です。

✎ 作成例:「即興演劇『ロミオとジュリエット』」

拙著「シナリオの方程式」で用いた感動系物語に、駆け引きを追加してみようと思います。

その本を読んでいない方のために、その物語概要を説明します。

物語の概要

ジャンルは少女漫画風の恋愛物語で、世界観は現代日本の学園ものです。

主人公は普通の女の子で、学園の人気者である生徒会長(彼女なし)に片思いをしています。告白する勇気もなく毎日を過ごしていたのですが、文化祭で「生徒会長への告白権をかけた、ミス・コンテスト」が行われることになります。

主人公は「生徒会長に彼女ができるかもしれない」ということにショックを受けます。その後、ひょんなことから生徒会長から真意を聞き、主人公は生徒会長を助けるためにそのミスコンに参加して、優勝を目指すことになります。

その決勝戦で、主人公は最大の敵である副会長(女子)と「演劇対決」を行うことになります。

「ゲーム」の内容を決める

今回はその「演劇対決」の駆け引きを作っていきましょう。なお、演劇対決をする段階で、生徒会長は主人公のことを好きになっているので、生徒会長は主人公を応援する側になります。

「ステップ一:ルールの大枠を作る」において、ゲームの内容は次のようになります。

  • 明解で単純な基本ルール:演劇をして、いい演技をした方が勝利。
  • 日常的でない変わった制約条件:
    • 「ロミオとジュリエット」を演じる。
    • しかしジュリエットは二人いて、ロミオを奪い合うという即興演劇。
    • ロミオは生徒会長がすることになる。ジュリエット役として、主人公と副会長(敵キャラ)になる。

「勝利条件」を決める

勝利条件は以下のようになります。両者一緒ですね。

  • 主人公の勝利条件:演劇対決で勝利する。
  • 敵の勝利条件:演劇対決で勝利する。

ルールブレイカーを作る

「ステップ二:ルールブレイカーを作る」は、次のようにできるでしょう。

まず、敵が優勢にしておくようにします。敵である副会長は、演劇の物語を勝手に展開してゆき、主人公を「偽ジュリエット」に仕上げる……として有利になるとしましょう。

ピンチになった主人公は、次のようなルールブレイカーを発動させてゆき、形勢が次々に変わるようにしましょう。

  • 主人公のルールブレイカー(一):生徒会長が主人公に加勢して、主人公にだけ分かる問いかけを出して主人公に答えさせる。(暗号)
  • 敵のルールブレイカー(二):得意な剣の勝負にする。(決められた偶然)
  • 主人公のルールブレイカー(三):仲間が助役として助けに入る。(協調)
  • 敵のルールブレイカー(四):演劇部だと思っていた役者が実は副会長の手先で、罠にはまって味方が倒される。(スパイ)
  • 主人公のルールブレイカー(五):生徒会長が傷つき、主人公と共に死ぬことで、お互いが結ばれる。(すり替え)

ルールブレイカーから逆算して、ルール詳細を作る

では、「ステップ三:ルールブレイカーを元に、逆算してルール詳細を作る」ということで、事前に配置するものの準備をしておきましょう。

  • 主人公のルールブレイカー(一):先日、一緒に遊園地に遊びに行った時に、主人公と生徒会長は、偶然その暗号を作っておく。
  • 敵のルールブレイカー(二):副会長は事前に演劇部に、提供人不明でこっそりと演劇用の剣を提供している。
  • 主人公のルールブレイカー(三):主人公の衣装は選べるようにして、舞台衣装が余っていることを示しておく。
  • 敵のルールブレイカー(四):助役に入れるのは四人までできるが、副会長側の助け船はなぜか三人だけとしておく。
  • 主人公のルールブレイカー(五):生徒会長が事故に遭うように、剣で戦っている時に舞台の一部を間違って壊してしまう。

流れを時系列で構成する

最後は「ステップ四:流れを時系列で構成する」で、構成してみましょう。

(事前準備)

  • 主人公と生徒会長が遊園地に遊びに行った時に、二人の合い言葉を作っておく。その意味も解説できるようにしておく。
  • 文化祭が始まる前に、演劇部が「演劇用のいい素材(剣)を誰かから提供してもらえた」と話しているのを小耳にする。

(決勝戦)

  • 決勝戦、演劇対決が始まる。
  • 司会によってルール説明をする。即興演劇であることや、ふさわしい演技をした方が勝者とすることなど。
  • 演劇部協力の下、いきなり演劇が始まるが、主人公は何をしたらよいのか分からない。その間に、副会長が勝手に物語を展開させて、自分が本物のジュリエットだと主張し、主人公は偽ジュリエットに仕立てられる。
  • 不利な状況が続くが、主人公のルールブレイカー(一):「生徒会長が主人公に加勢して、主人公にだけ分かる問題を出して主人公に答えさせる」を発動する。これで「ロミオと主人公の心が結ばれている証」として逆転して、主人公が有利に立つ。
  • 副会長にとっては状況が不利になるので、敵のルールブレイカー(二):「得意な剣の勝負にする」を発動する。副会長は即興で物語をジュリエットと偽ジュリエットの剣と剣での抗争に発展させる。つまり、副会長は実力行使で主人公を(演劇的に)亡き者にしようとする。
  • 主人公がピンチになるが、主人公のルールブレイカー(三):「仲間が助役として助けに入る」が発動して、武術に長けた味方が参入してその難を逃れる。
  • 副会長と主人公たちは全力で戦うが、一進一退が続く。そこで敵のルールブレイカー(四):「演劇部だと思っていた役者が実は副会長の手先で、罠にはまって味方が倒される」が発動して、味方が総崩れになる。
  • 主人公も倒されて、絶体絶命。
  • その時、主人公のルールブレイカー(五):「生徒会長が傷つく」が発動する。主人公は副会長から致命傷を受けるが、生徒会長と共に死ぬことで、お互いが結ばれる。

「シナリオの方程式」では、生徒会長が毒薬を飲むとかしていましたが、それはルールに関係しないようにしました。毒薬を飲むのは適当なタイミングでさせればいいでしょう。

このようにして、駆け引き単体だけでも、物語を盛り上げるようにできるでしょう。

サスペンスというジャンルがメインでなくても、駆け引きはどの物語でもあるものです。是非有効に使って、面白い盛り上がりを作って下さい。

ゲームの構築例(二):「予告ジャンケン」

もう一つだけ、今度は複雑で高度な駆け引き例を紹介しましょう。

「予告ジャンケン」というジャンケンをさせるとしましょう。

✎ 作成例:予告ジャンケン

お金のやりとりをするような、そんなゲームで駆け引きを行います。

物語の全体像は何でもいいんですが、主人公は騙されて法外な利息で多額の借金を負ったとしましょう。

そこで主人公は債権者の一人から「このままだと、どのみちお前は債権者に殺される。生き残る唯一の方法がギャンブルの場で勝つことだ」と言われて逃げ道がなくなり、仕方なく参加することになった……とでもしておきましょう。

このコラムは駆け引きの説明なのでストレスについては触れませんが、ストレスについては例えば「負けたら人生終わり」「生きたい」とさせることで、負けることへの緊迫感や不安感を出すことができるでしょう。

「ゲーム」のルールを作る

さて、本題の駆け引きに入ることにしましょう。

今回は「予告ジャンケン」ということで、「ジャンケンを予告して出す」というルールにするとしましょう。

まずは「ステップ一:ルールの大枠を作る」ですね。

最初に「予告ジャンケン」の基本ルールを作ります。次のようなルールにするとしましょうか。

  • 明解で単純な基本ルール:ジャンケン
  • 日常的でない変わった制約条件:
    • それぞれ、カードは複数枚持っている。手のカードはランダムとする。
    • ゲーム会場にいる人と、一対一でカードを使ってジャンケンをする。
    • 最初に出す手を予告する。必ずその手を出さなくてはならない。
    • しかし一度だけカードを別のカードと取り替えられる。ただしその時は予告する必要はない。

「別のカードに取り替えるなら、普通のジャンケンと同じやん」と感じそうですが、手持ちのカードにおいて、予告したカードと出したカードの最低二枚がオープンになってしまう(みんなに手札がばれてしまう)こともあり、勝負の回数を重ねてゆくに従って話が変わってきそうですよね。

勝利条件を作る

勝利条件は以下のようになります。両者一緒ですね。

  • 主人公の勝利条件:予告ジャンケンゲームで、勝ち越す。
  • 敵の勝利条件:予告ジャンケンゲームで、勝ち越す。

ゲームをする人は何十人もいることにしましょう。なので、「敵」といえども特定の人ではなく、全員がそれぞれ敵となります。また、「主人公が勝つ」ことだけを目的として、「特定の敵が負ける」必要はないとします。

ルールブレイカーを作る

次は「ステップ二:ルールブレイカーを作る」ですね。

まずは敵を有利にさせて、その後に主人公がルールブレイカーを発動して、その後に敵、最後に主人公とルールブレイカーを発動させるとしましょう。合計三つルールブレイカーが必要になるわけですね。

それぞれ、「協調」「すり替え」「協調」という順番でルールブレイカーを発動させうようにしましょう。

内容は次のようにするとします。

  • 主人公のルールブレイカー(一):他のプレイヤーと協力して、相手の出す手を盗み見る。もしくは相手が残している手を把握する。(協調)
  • 敵のルールブレイカー(二):カードを重ね合わせて出すことで、盗み見している人を騙す。(すり替え)
  • 主人公のルールブレイカー(三):既に勝ち越して余裕な人と協力して、持っていないカードを手に入れる。(協調)

ルールブレイカーから逆算してルールを作る

そして「ステップ三:ルールブレイカーを元に、逆算してルール詳細を作る」を行いましょう。

それぞれ、必要なルールを逆算します。

  • 主人公のルールブレイカー(一):他のプレイヤーと協力して、相手の出す手を盗み見る。もしくは相手が残している手を把握する。(協調)
    • 盗み見ることができるルール:「カードは手に持っていなければならない」
  • 敵のルールブレイカー(二):カードを重ね合わせて出すことで、盗み見している人を騙す。(すり替え)
    • 二枚重ねて出して、その後一枚多いのを戻すことを正当化するルール:「一枚のカードを台に置く」(さすがに「二枚同時に置いて、一枚戻してもいい」とは言えないので、少し遠回しな言い方にしています)
  • 主人公のルールブレイカー(三):既に勝ち越して余裕な人と協力して、持っていないカードを手に入れる。(協調)
    • 「カードの売買は自由」(カードを交換可能にするため)

ルール作りで起こる「問題」に対処する

ここまで作ると、上記のルールを実現するには次のような問題が出てくるでしょう。

  • ルールブレイカー(二)の問題
    • 二枚重ねると、枚数で重ね合わせていることが判明してしまうため、手持ちカードの枚数を変える、もしくは変わるルールが必要。
    • 主人公が一敗した程度でも、他の人に勝てば取り返せる。なので、他の人からこれまでの方法では取り返せなくする仕組みが必要。
  • ルールブレイカー(三)の問題:
    • 勝者から余ったカードを提供してもらう動機(メリット)が必要。
    • ここで主人公が一勝しただけでは勝ち越しにならない。そのため、勝利数のレートを変えられるなどの勝利数を多く得られるルールが必要。
    • 同時に、その勝負に乗る人の存在と動機(メリット)が必要。

このように、問題をリストアップして、そしてそれに必要なルールを追加してゆきます。この作業は作ったルールをさらに正当化するためにルールを加えるなど、複層的に処理する必要があるでしょう。そのために、この後も同じような処理を一~二回ほど繰り返して行う必要になるかもしれません。

この説明は物語を示すのが目的ではなく、作り方を説明するのが目的なので、文章量がさらに多くなる複層的に構築する部分までは立ち入らないことにします。どのような構成になるのか、気になる方は自分でルールを構築してみるといいでしょう。

全ての問題が解決するように、ルールを作り込みます。これでステップ三は完了です。

流れを時系列で構成する

さて、最後は「ステップ四:流れを時系列で構成する」として、これらを時系列で並び替えます。

すると、次のような物語として展開できるでしょう。

  • 主催者によって、ゲームのルールが発表される。「予告ジャンケン」と、付随する細々したルールも説明する。
  • 勝利条件、敗北条件を明確にする。
  • 主人公は表面的なルールに縛られて、考える。手札が明かされるから、ルールは後半で効いてきそうだとか、早めに勝負を決めないといけないとか、初戦で勝つ運が必要だとか。実はこれらは全部フェイクだけど、読み手にはなかなかの頭脳戦だと思わせておいて、ルールブレイカーから目を逸らさせる。
  • 主人公の手札は、「チョキとパーだけ」のように偏ったカードにする。これによって長期戦になると不利に感じさせて、「とにかく先に一勝でもすればいい」と駆り立てて、主人公を行動させる。
  • 攻略法(ルールブレイカー(一))を知っている人たちに声をかけられて、予告ジャンケンをして、主人公は負ける。
  • 恐怖感から判断力をなくして、「運が悪かったんだ、次こそ」と、次々に勝負して、次々に負ける。そして絶体絶命になる。
  • その時、怪しげな人(味方甲と表記する)から声をかけられて、ルールブレイカー(一)「相手の手札を盗み見る」について知る。本当はチームプレイでやっているのだと。周囲を見て納得。
  • 味方甲は仲間がおらず、チームプレイができない状態。最初に大ピンチになって、かつ協力するにふさわしそうな主人公に声をかけたということ。
  • 主人公は悩むが、チームプレイで戦うことを決意する。その後初めて勝って、ほっとする。そこから「相手の手札を盗み見る」という手法を使って勝ち続けて、あと一勝すれば勝ち抜けのところまで来る。
  • ここで敵のルールブレイカー(二)「カードを重ね合わせて出すことで、盗み見している人を騙す」を発動する。主人公は味方甲に視線が行くので、敵が堂々と一枚カードを戻しても主人公は気が付かない。そして重要な場面で主人公は敗北する。
  • 他の人からも勝利できない状況になっていて、負け越しが(ほぼ)決まる。
  • しかし主人公は自暴自棄になったように見せかけて、レートを上げて敵を誘う。敵は主人公の手札を全て知っている。だから主人公はヤケになったのだと慢心して、勝てばより利益になるからと勝負を受ける。
  • そこで最後の主人公のルールブレイカー(三)「既に勝って余裕な人と協力して、持っていないカードを手に入れる」を発動する。
  • これによって主人公がぎりぎりのところで勝ち越してゲーム終了。

以上のようにすることができるでしょう。

解説

実はこれは、福本伸行作の漫画「賭博黙示録カイジ」に登場する「限定ジャンケン」というゲームの内容を少しいじったものになります。

そのゲーム内では「勝利数として星のバッジをやりとりする」「勝者は別のフロアに移動できる」などのルールもあります。これらは、ルールブレイカーを発動するために動機作りをしたり、利用できるカードがあたかも会場内にないように見せるという、ルールブレイカーを発動させるための前準備でもあります。

今回の「予告ジャンケン」でも、ルールブレイカーによって生まれるルールを突き詰めていけば、結果的に「勝利数をやりとりする」「カードの数を変動させる」「勝者はフロアからいなくなる」といったルールに行き着くでしょう。

以前に「どうやったら『カイジ』のようなルール作りができるんだろう」という声を聞いたことがありましたので、今回はその構築方法を紹介してみました。

まとめ

  • 駆け引きのために、「ルール」と「ルールブレイカー」、そして「各ルールブレイカーの前振り」の三つを作ろう。
  • 「ゲーム」を作る四つの手順をマスターしよう。
  • ルールブレイカーを作るには、そのルールでのイカサマを考えるとよい。
前の記事へ

クレジット

http://www.flickr.com/photos/jakecaptive/3205277810/ by Jacob Bøtter (modified by あやえも研究所)
…is licensed under a Creative Commons license: http://creativecommons.org/licenses/by/2.0/deed.en