ミステリーの方程式(一):ミステリーの作り方

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ミステリーの方程式(一):ミステリーの作り方2016-11-29T09:04:51+00:00

Project Description

概要

この教材では、ミステリー作品を作りたい方向けに、謎や謎解きを含むミステリー作品の作り方について説明しています。

  • ミステリーを作るのに必要な「五つの要素」とは?
  • ミステリーを構成する「四つの段階」とは?
  • 謎を作り出すのに必要な「三つの要素」とは?

なぜ、ミステリー作品を作るのは難しく感じるのか

ミステリー物語や推理物語などでは、まずは物語において事件か何かを発端に「謎」が配置されます。そして次々と明らかにされる「手がかり」を元に、主人公や読み手はその謎を解き明かしてゆくといった流れになります。

ミステリー作品は、他の感動作品や緊迫したサスペンス作品とは違い、ただ漠然としたイメージだけでは作ることはできません。そこには、しっかりとした「論理」がなければならないのです。

ミステリーを作る際にぶち当たる、「五つの壁」

作家がミステリー作品を作ろうとすると、五つの壁にぶち当たるものです。

その五つとは「トリックの創造」、「謎の構築」、「手がかりの配置」、「正確で破綻のない推論」、「作品としてまとめる」です。

作者は読み手が普段想像もつかない「トリック」を作り出す必要があります。それは身近なものから作らなければならず、まずこの発想法がなければ何も始まりません。

次に、「謎」を構築しなければなりません。殺人事件があったとすれば、その事件はどのような全貌なのか。トリックを効果的に組み合わせて、それが一連の流れとして組み合わされなければならないのです。

手がかりを元に、推論をする必要性

そして次に必要になるのが、「手がかり」です。手がかりにも様々なものがあります。それをいつ、どのように配置しなければならないのか、その手がかりの性質や仕組みを知っておかなければなりません。でなければ、機能しない手がかりを配置してしまったり、その手がかりだけでは論理的におかしくなってしまう場合もあるでしょう。

また、主人公は手がかりを元に、謎解きをしてゆく必要があります。その時に重要になるのが「推論」です。この推論は非常に多岐にわたる可能性を持っているので、これこそまさに論理そのものになるでしょう。本当にその推論だけで正しいのか。他にも可能性はあるのではないか。その辺りの破綻のない推論をさせる必要があります。

さらに、それら謎を作るだけではありません。それらの謎解きを上手く物語に組み込んで、盛り上がるように「作品作り」をする必要があります。

ミステリーをシステマティックに構築する手法

普通の物語と違って、ミステリー作品とはこのような「論理力」が必要になり、その上で「物語としての構築力」も必要になるという、他のジャンルとは明らかに一線を画すほどの、多くの技術を必要とするジャンルになります。

そのため、「しっかりとしたミステリー作品を作れるのは、一握りの才能のある人だけだ」と思われるかもしれません。

ミステリーは、誰にでも作れる!

ですが、そんなことはありません。

トリックの発想も、ここで説明するような発想法を身につけさえすれば、身近なものからいくつでもアイデアは浮かぶようになるでしょう。

また、論理というものは一見難しそうに見えますが、しっかりと手順を踏んで作り出せば、簡単にできるものなのです。ここではそのような「謎」や「事件の流れ」の構築手順ももちろん説明します。

さらにその謎や事件の流れを元に、どのようにしたら破綻のない推論ができるのか、そしてどのような手がかりが必要になるのか、それをシステマティックに構築できるツールを提案しようと思います。

そして謎解きだけでなく、それを盛り上がる作品とするために、サスペンスとの融合方法も説明します。

ミステリーを作る上で必要な、トータル技術

このように、ここでは「発想法」から「謎の作成」「手がかりの作り方」「推論の進め方」「作品としてのまとめかた」といった、ミステリー作品を構築する上で必要な技術を最初から最後まで通して説明しています

「ミステリー作品の作り方」といった本では、部分的なヒントばかりが列挙されていて、「結局どうやったら作れるの?」といったことも多いかもしれません。ですがここでは、最初から最後まで通して物語の構築手順を説明します。

そのため、個々の技術やテクニックを知ることもできるでしょう。また、全体的な構築手順も身につけることができるでしょう。今までミステリー作品を作ったことがない人にとっては、どのように作ったらよいのか、一つの指針になるでしょう。そして既にミステリー作品を作っている方にとっては、自分の物語をシステマティックに構築できるようになり、短時間で良質な物語を生み出せるようになるでしょう。

「ミステリー」とは何か

ここでは、「ミステリー」と「ミステリー作品の構造」について説明してゆきます。なお、ここでは「ミステリー」と「ミステリー作品」は別物として取り扱います。なので「ミステリーを作る」と「ミステリー作品を作る」のは、全く別のものであることに注意しておきましょう。

なお、ここの最初は少しだけ語彙の定義や概念の説明が続きます。これらの定義がなければ後々語弊が生まれるので、最初は退屈かもしれませんが、しっかりと把握しておくようにしましょう。

ミステリーの定義

まず最初に、ミステリーとは何か、その定義をしておくことにしましょう。ここでは、ミステリーを以下のように定義します。

(定義)
ミステリーとは、読み手に「謎(因果関係が証明不可能な現象)」を与え、「手がかり(因果関係を明解にしてゆく事象)」を提示してゆくことで、謎を解決して「真実(因果関係)」を明らかにする過程である

つまり、ミステリーには「因果関係が証明不可能な現象(以降は『』と表記)」と「因果関係を明解にしてゆく事象(以降は『手がかり』と表記)」、そして「因果関係(以降は『真実(真相)』と表記)」が必要な要素になるわけですね。

読み手から見ると、ミステリーとは「謎に対して、手がかりを元に、一つの真実を導き出す過程」とも言えるでしょう。

用語の定義

しっかりと論理を構築するために、以下で語彙の定義を行っておきましょう。

謎とは、その謎が起こった時点において、その現象がどのように起こったのか、読み手、もしくは物語中の主人公が証明不可能な現象のことを指します。まあ読んでそのまま、「分からない事がある現象」のものを謎と言います。読み手が「予想可能」である可能性はありますが、「証明」はできないものになります。

手がかり

手がかりとは、謎の因果関係を導き出す事象のことですね。「正解を導き出すヒント」とも言えるでしょう。証拠もしくは証言で与えられます。主人公や読み手は、この手がかりを元に推論をしてゆき、事件の全体像を作り上げてゆくわけですね。

真実(真相)

真実とは、謎を生み出した因果関係全体のことです。真実は一つのみになります。「真相」も「真実」と同じ意味とします。

証拠

証拠とは、物的な手がかりのことです。証拠は犯人や誰かの意図によって偽装されたものである場合も含みます。

証言

証言とは、人の言葉によって得られる手がかりになります。証言は犯人や誰かの意図によって偽ったものである場合も含みます。

主人公自身が、自分が体験したことに基づいて読み手に与える説明も証言に含みます。

通常、法律の範疇では証言は証拠の中に含まれます。ですがここでは、説明を分かりやすくするために、証拠と証言は別物とします。証拠は物的なものに限り、証言は言葉に限ります。なお、「録音された会話」といった媒体に含んだ言葉は証拠に含みます。

偽証

偽証とは、真実とは異なる証言をすることです。

ミステリーを作る場合、この「謎」「手がかり」「真実」を基本に構成してゆくことになります。

また、これらのミステリーを含む作品を「ミステリー作品」と呼ぶことにします。「ミステリー作品」とは、ミステリー以外の要素(例えばサスペンスや感動など)を含む場合もあります。

ミステリーの基本構造

それでは早速、ミステリーがどのような構造でできているのかを説明してゆきましょう。

ミステリーは「謎」「手がかり」「真実」で構成されると説明しましたが、物語の時系列としては次のような四つの段階で構成されています。

謎の発生

謎の究明

謎の解明

(必要な場合は)真実の解説

これらの関係を図 1に示します。

以下でそれぞれについて、説明してゆきます。

(一)謎の発生

まずは事件か何かが起こって、謎が発生します。謎の発生時がミステリーの開始時点になります。

例えば殺人事件が起きたのに犯人が誰か分からなかったり、どのような凶器や経路で殺人がなされたのか分からなかったりすることがあるでしょう。

また、場合によっては差出人不明の犯行予告手紙が来ることかもしれません。この場合は「差出人が分からず、意図も分からない」という謎があるわけですね。

ここで大切なのは、「事件(謎)が発生した段階では、その段階に入手できる手がかりだけでは、読み手は因果関係を証明することはできない」ということです。証明できる手がかりが全て揃っていたら、因果関係が証明可能なので「謎」ではなくなり、そしてミステリーにもならないということですね。当たり前のように思えるかもしれませんが、これはミステリーを語る上でとても重要になることなので、注意しておいて下さい。

(二)謎の究明

謎が起こったら、一つずつ手がかりが読み手に提示されます。これによって、因果関係が少しずつ明確になってゆくでしょう。それを元に、主人公や読み手は推論をしてゆくわけですね。

(三)謎の解明

手がかりを出してゆき、真実が証明しうるに足る手がかりが出し尽くした瞬間、謎が証明可能になり、謎が解明します

謎の解明というのは、「証明可能になった状態」を指します。つまり、この段階より前では、この世界にいるどんな天才であろうとも証明できない状態です。謎の解明とは、この世界でたった一人でも証明可能になったら謎の解明となります。たとえ凡人には証明できなくても、論理的に証明可能になったら解明になるわけですね。

(四)真実の解説

最後に、必要であれば真実解説を行います。謎の因果関係などが、主人公もしくは解明者を通して説明されるでしょう。

ただし、必ずしも読み手に真実を明かす必要はありません。一部分は読み手の想像に任せるようにしたり、もしくは詳しい解説を全くさせないようにする場合もあるでしょう。この世界で誰か一人でも証明可能になったら「謎は解けている」ので、読み手に対して挑戦的な態度を持つ作品である場合はわざわざ解説をしない、ということもありえます。

ミステリーの構築手順

それではこれから、ミステリーの構築手順を示して、それをミステリー作品に仕上げてゆきましょう。

ここでは次のような流れで説明しようと思います。

作りたい作品のイメージをして、ミステリー要素を抽出

真実とトリックの作成

謎と謎解き過程の配置

「ミステリー」から「ミステリー作品」への昇華(サスペンス構造の内包)

まずはどのような作品を作りたいのかイメージして、その中からミステリー要素を抽出します。次に真実とトリックを作ります。そして、その真実を元に主人公たちがどのように手がかりを得て究明していくのか、その謎解き過程を作ります。最後にサスペンスに拡張することで、作品として仕上げます。

ミステリー要素を抽出して、テーマを決める

さて、それでは実際に、ミステリー作品を作ってゆくことにしましょう。

まずはどのような作品を作りたいのか、イメージしてみましょう。どのような断片的なアイデアでも、アバウトでもいいので、書き出してみましょう。

アイデアを分別する

そして、書き出した内容をざっと見てみて、その一つ一つのアイデアを「ミステリー要素のアイデア」と、「それ以外のアイデア」に分けてみましょう。

ミステリー要素とは、先に示した「謎」「手がかり」「真実」の三つのうちどれか一つでも含まれるものになります。謎や手がかり、そして事件の真相についての内容だけをとりあえず抽出するということですね。「その他のアイデア」は後ほど使います。

「ミステリー」と「謎」「手がかり」「真実」の関係を次図に示します。(「真実」の位置が少し別になっていますが、この理由はすぐ後の本項目中で説明します)

「真実」とは、「謎」と「手がかり」を導き出すためのもの

さて、ここからしばらくの間は、抽出したミステリー要素を用いてミステリーを構築してゆきます

なお、物語では「真実」を明かす必要はありません。もちろん現実にあるほとんどのミステリー作品では、読み手に真実が分かるように、事件解明後に真実を説明しています。ですが、解説をしなくても作品としては成り立ちます。真実の解説は「あってもなくてもよい」ものであることに注意しましょう。

つまり「真実」とは、「謎」と「手がかり」を導き出すために必要な道具ということですね。図 2で「真実」だけが別位置になっているのはそういう理由のためです。

このように、まずは作りたい物語をイメージして、その中からミステリー要素を抽出してみましょう。

✎ 作成例:ミステリー要素を抽出して、テーマを決める

それでは実際に、このようなコラムの形でミステリー作品の作成例を示してゆくとしましょう。

まずは、どのような作品にするかというイメージを書き出します。

今回は次のようなミステリー作品にしようかと思っています。

● 作品イメージ
「探偵もの」「殺人事件もの」「主人公は売れない探偵」「世話になったある人からパーティーの招待状が来て、参加することになる」「舞台は田舎の山奥にあるホテル」「犯人は別の人を容疑者に仕立てるために、偽装工作をする」「主人公はその偽装工作トリックを解き明かして、真犯人を見つける」

今回は説明として分かりやすいように、標準的な殺人事件にでもしましょう。正直この段階では深くは考えておらず、トリック関係に至っては全く考えていない有様ですが、次の段階で考えていくことにします。

さて、それではこれを、「ミステリー要素のアイデア」と「それ以外のアイデア」に分けてみましょう。

もし一つのアイデアに「ミステリー要素のアイデア」と「それ以外のアイデア」が同時に含まれる場合、分けて書き出します。

● ミステリー要素のアイデア
「犯人は別の人を容疑者に仕立てるために、偽装工作をする」「主人公はその偽装工作トリックを解き明かして、真犯人を見つける」
● それ以外のアイデア
「探偵もの」「殺人事件もの」「主人公は売れない探偵」「世話になったある人からパーティーの招待状が来て、参加することになる」「舞台は田舎の山奥にあるホテル」

これからは、この「ミステリー要素」のみを見ていくことにします。

それではこれを元に、次章からトリックや犯行手順などを肉付けしていくことにしましょう。

まとめ

  • ミステリーを作るために、「トリックの創造」、「謎の構築」、「手がかりの配置」、「正確で破綻のない推論」、「作品としてまとめる」の五つを考えよう。
  • ミステリーは、「謎の発生」、「謎の究明」、「謎の解明」、「真実の解説」の四つの段階で構成される。
  • ミステリーでは、「謎」と「手がかり」、「真実」の三つの要素が重要になる。
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