サスペンスの方程式(三):駆け引きを作る

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サスペンスの方程式(三):駆け引きを作る2016-11-29T09:04:38+00:00

Project Description

概要

このページでは、サスペンス作りにおける、駆け引きの作り方について説明しています。

  • 駆け引きを作るために必要な「三つの要素」とは?
  • 敵よりも主人公が有利になる「ルールブレイカー」とは?
  • 「逆転劇」を簡単に作る方法とは?

駆け引きの構成要素

それではテーマを実現するもう一つの要素である、「駆け引き」について作り込んでゆくことにしましょう。

ストレスを与えるだけでは物語は進みません。主人公はそのストレス(問題)を解決しようとして対策を考え、その後、ストレスを与える相手との駆け引きを始めます。その駆け引きがあることで緊迫感が持続し、加えて問題解決を引き寄せることができるようになります。

駆け引きの定義と、必要な要素

駆け引きとは、次のように定義することにします。

駆け引きとは、何らかの「ルール」を持ち、そのルールを壊す「ルールブレイカー」を発動することである

駆け引きを構成するために必要な要素は、三つあります。それは以下のものになります。

(b-2a)ルールの存在

(b-2b)ルールブレイカーの存在

(b-2c)各ルールブレイカーの前振り

これらをまとめたものを、「(b-2)駆け引きの内容」としましょう。

駆け引きの導出方法

「(b-2)駆け引きの内容」と「(b-1)駆け引き」との関係を、に示します。

それでは以下で、駆け引きを構成するための各要素について説明してゆきましょう。

駆け引きの構成要素(一):ルールの存在

まず最初に、駆け引きを構成するために必要なものは、(b-2a)ルールの存在です。

ルールとは、駆け引きをする上でベースとなるルールのことですね。

例えばジャンケンでは、「グーはチョキより強い」「チョキはパーより強い」「パーはグーより強い」というルール群があります。この「グーはチョキより強い」というのが一つのルールになります。

他にも「主人公(囚人)は看守に弱い」や「犯人は警官に弱い」もルールになります。

また、「ジャンケンでゲームをしなければならない」「三十分以内で勝負を決めなければならない」といった制約条件もルールに含みます

この段階では、出発点となるルールを書きます。細々としたルールは必要ありません。「主人公(囚人)は看守に弱い」といった、駆け引きが始まったばかりの、最も基本的なルールのみを書けばよいでしょう。

このようにルールを作ることで、駆け引きの土台を構成できるようになります。

駆け引きの構成要素(二):ルールブレイカーの存在

駆け引きを構成するために必要なもう一つの要素は、(b-2b)ルールブレイカーの存在です。

ルールブレイカーとは、「ルールの抜け道(攻略法)」のことです。

主人公と敵は、同じルール上で駆け引きを行います。ですがそのままでは変化が起きずに安定してしまい、両者の力が拮抗したままになったり、あるいは主人公は虐げられるだけになったり、逆に敵がやられてばかりになったりします。すると、変化がなくなって面白くなくなります。

駆け引きを盛り上げるためには、立場を逆転させる必要があるわけですね。負けている側や不利な側がルールブレイカー(ルールの抜け道)を見つけて使うことで、優勢にさせる必要があるわけです。

例えば刑務所もので説明すると、主人公は「主人公(囚人)は看守に従わなければならない」という絶対的なルールがあります。そこで刑務所長が登場して、主人公にしか頼めない何かを依頼することで、主人公は刑務所長より強くなります。

すると、主人公は刑務所長の側にずっといることになるので、看守は主人公に手を出せなくなります。

この「主人公が刑務所長よりも強くなる」という出来事が、ルールブレイカーです。このルールブレイカーが発動することによって、今までのルール(「主人公(囚人)は看守に従わなければならない」)を壊して、主人公が看守よりも優位になるわけですね。

ルールブレイカーの性質

ルールブレイカーは、シーソーのように主人公と敵とで交互に発動されます。それによって、有利不利が次々に入れ替わってゆくわけですね。

先の刑務所の例で説明すると、主人公はずっと刑務所長の側にいることで、看守の脅威から逃れることができるようになります。このままでは看守が負け続けになってしまうので、さらにここで看守によるルールブレイカーを発動します。

その内容は、例えば「看守が囚人間の対立を利用して、意図的に暴動を起こして、主人公に『暴動を主導した』という濡れ衣を着せる」という方法があるかもしれません。すると主人公は濡れ衣を着せられて、刑務所長の側にはいられずに、独房に入れられたり、看守による特別監視がつくかもしれません。

これは、刑務所長もそのルールブレイカーによって引き起こされた新たなルールに従わなければならず、「刑務所長は主人公を助けられない」という状況になることを意味します。こうすることで、看守はルールの抜け道を作り出し、再び主人公を痛めつけることができるようになるわけです。

このように、ルールブレイカーを発動することで、主人公側と敵側で、形勢が交互に入れ替わるわけですね。

刑事物で例を挙げると、「犯人の居場所を特定する」もしくは「主人公の居場所が特定される」などのルールブレイカーが用意されるかもしれません。お金をかけたゲームであれば、「相手の意表を突く裏技」ということかもしれません。

ルールブレイカーの注意点

ルールブレイカーにおいて注意が必要なのは、一度ルールブレイカーを発動すると、今までの次元での駆け引きはできなくなるということです。ルールブレイカーを発動するということは、今までルールに従って将棋を指していたのが、盤をひっくり返して拳銃を突きつけるようなものです。

一度将棋盤をひっくり返すと、もはや将棋はできなくなり、別次元の「突きつけられた銃をどのようにするか」というルールの駆け引きに移るわけです。

ルールブレイカーの数を意識する

なお、ルールブレイカーは、用意する数によって物語全体の流れが変わります。ルールブレイカーは「形勢を逆転する方法」になるので、主人公が優勢でルールブレイカーが一つしか用意されていなければ、敵が逆転して、主人公は再逆転できなくなります。

また、主人公が最後に駆け引きで負けて結末(バッドエンド)を迎えるような構成にしたい場合でも同じで、その場合は最後に敵が勝つようにルールブレイカーの数を調整しなければなりません。

そのため、「ルールブレイカーの数によって構成が変わる」ということに留意しておきましょう。

ルールブレイカーの典型的な作り方

ルールブレイカーについて詳細に説明すると長くなるので、ここでは簡単なルールブレイカーの作り方を紹介しましょう。

一番典型的なルールブレイカーの作り方は、三つ巴の形にして、それまで弱かった立場が新たに加わった強い立場を利用することです。

「三つ巴」形式でのルールブレイカーの作り方例

例えば刑務所から脱獄するサスペンスで、「主人公(囚人)は看守に弱い」というルールがあったとしましょう。

すると、「主人公(囚人)」と「看守」という二つの立場があり、一方が一方よりも強いことが分かるでしょう。ここに、強い方を打ち消す立場である「刑務所長」を加えます。そして「看守は刑務所長に弱い」「刑務所長は主人公(囚人)に弱い」というルールを加えることで、三つ巴になります

例えば主人公(囚人)が税理士だったなら、刑務所長の脱税の手伝いを依頼されたりするでしょうし、他にも何か特殊能力があったら、刑務所長が持つ問題に対して助力を依頼されることもあるでしょう。そうすることで、主人公は刑務所長に強くなり、主人公はその力を利用することで敵(看守)よりも強くなります

すなわち、「主人公は刑務所長の力を使う」というルールブレイカーを導き出せます。

さらにルールブレイカーを作る

次に敵側のルールブレイカーを作るためには、これまでの三つ巴を解消して状況を作り替える、新たな三つ巴を作ります。例えば、「看守は刑務所長(主人公含む)に弱い」というルールがあります。

ならば、例えば新たに「刑務所規定」という立場を加えると、「刑務所長は刑務所規定に弱い」「看守は刑務所規定に強い」というルールを加えることで、新たな三つ巴になります

これなら、「看守が囚人間の対立を利用して、意図的に暴動を起こして、主人公に『暴動を主導した』という濡れ衣を着せる」という刑務所規定を利用したルールブレイカーが使えるようになります。

刑事物では、最初は「主人公」「犯人」「警察」という三つ巴になるかもしれませんし、その後は「犯人」「警察(主人公含む)」「スパイ」という三つ巴になって、犯人が逆転するかもしれません。

このように、三つ巴で考えると、ルールブレイカーを作りやすくなるでしょう。

駆け引きの構成要素(三):各ルールブレイカーの前振り

ルールブレイカーと同時に、「(b-2c)各ルールブレイカーの前振り」を作ることで、ルールブレイカーを発動するために必要なルールやアイテム、情報などを配置します

これは「前振りを作る」だけでなく、「伏線を作る」という意味も含みます。

ルールブレイカーの前振り例

例えば刑務所から脱獄するようなサスペンスで、ルールブレイカーが「看守が囚人間の対立を利用して、意図的に暴動を起こす」であれば、事前にそのような囚人間の対立があることを示しておく必要があるでしょう。また、他にも「脱獄する」というルールブレイカーがあるのなら、そのために事前に壁に穴を掘るなり、逃走経路を確保するなり、それに必要な道具を揃えたりする必要があるでしょう。

刑事物であれば、「犯人の居場所を特定する」というルールブレイカーがあるのであれば、その調査を指示するということも必要になるでしょう。

このように、各ルールブレイカーを発動するために必要なものを用意します

敵キャラが発動するルールブレイカーの前振りは、ある方がもちろんよいですが、必ずしも読み手に見せる必要はありません。ですが主人公が発動するルールブレイカーの前振りについては、それを事前に読み手に示しておくことは必須になります。

✎ 作成例:駆け引きを構成する三つの要素を作り込む

それでは駆け引きを構成する要素について、実際に作り込んでゆきましょう。

前々回のコラムで作った駆け引き内容は、次のようなものでした。

  • (b-1)駆け引き:上級生からの因縁を回避できるようにする駆け引き

これについて、「(b-2a)ルールの存在」「(b-2b)ルールブレイカーの存在」「(b-2c)各ルールブレイカーの前振り」を考慮してゆきます。

「ルールの存在」を作る

「(b-2a)ルールの存在」については、駆け引きが始まったばかりの段階で最も基礎的なルールを記述します。ここでは以下の内容だけでいいでしょう。

  • 「主人公(下級生)は上級生に弱い」

「ルールブレイカーの存在」を作る

「(b-2b)ルールブレイカーの存在」では、ルールブレイカーがいくつ必要で、それぞれにおいてルールを破る方法を考えます。

必要なルールブレイカーの数を数えてみましょう。今回は、最初のルールが「主人公(下級生)は上級生に弱い」なので、主人公は何らかの力を得て逆転するようにしましょう。その後に敵が逆転して、最後に主人公が勝って終了としましょう。

必要なルールブレイカーは、次のようになります。

  • 主人公のルールブレイカー(一):(要作成)
  • 敵のルールブレイカー(二):(要作成)
  • 主人公のルールブレイカー(三):(要作成)

以上より、この物語では、ルールブレイカーを三つほど作る必要があると分かります。

なお、ルールブレイカー構成方法は詳細に説明しようとすると長くなるので、その説明は「第章 」に任せて、ここでは結果だけ記しておきます

主人公のルールブレイカーを作る

まずは、一つ目の「主人公のルールブレイカー(一)」を詳しく作ります。

ここでは三つ巴を作って、ルールブレイカーを作るようにします。

主人公(下級生)、上級生(敵のリーダーである上級生代表を含む)と二つの要素があるので、もう一つ上級生より強い存在として「教頭」を作るとしましょうか。そうすることで、次のような三つ巴としましょう。

  • 「主人公(下級生)」は「上級生」に弱い
  • 「上級生」は「教頭」に弱い
  • 「教頭」は「主人公(下級生)」に弱い

どのように主人公が教頭に強くなるかというと、例えば「教頭が経理で不正をして、お金を得ていたと知る」とか「主人公を数字に強くして、教頭から不正を手伝うように依頼される」などがあるでしょう。

ここでは、「教頭の不正を手伝うことで、教頭より強くなる」で行くとしましょう。

敵のルールブレイカーを作る

二つ目の「敵のルールブレイカー(二)」では、「上級生が教頭よりも強くなる」という、何らかのルールブレイカーを作る必要があるでしょう。

ここでは、次のようにします。

  • 上級生が教頭の不正について知り、教頭より強くなる。(教頭より強い、「警察」といったものを味方につける)

最後のルールブレイカーを作る

最後に主人公が勝って終わるための「主人公のルールブレイカー(三)」は、以下のようにするとしましょう。

  • 主人公は教頭と上級生代表の罪を暴くことで、同時に退職・退学に追い込む。(「上級生代表(警察)」よりも強い、「法律」を味方につける)

「各ルールブレイカーの前振り」を作る

「(b-2c)各ルールブレイカーの前振り」として、各ルールブレイカーを発動するための前振りや伏線を配置する必要があります。ここでは次のようにするとしましょう。

「主人公のルールブレイカー(一):教頭の不正を手伝うことで、主人公は教頭より強くなる」

  • 上級生は教師や教頭がいると、下級生に手を出さないことを知る。

「敵のルールブレイカー(二):上級生代表が教頭の不正について知り、教頭より強くなる」

  • 深夜に泥棒(犯人は上級生)が学校に侵入して、金庫や経理情報が荒らされたことを知る。

「主人公のルールブレイカー(三):主人公は教頭と上級生代表を同時に退職・退学に追い込む」

  • 教頭は上級生代表の彼女に手を出していたとする。上級生代表はそれを知らない。
  • 上級生代表はキレやすい性格にする。また、彼女に手を出したものには我を忘れて危害を加えるとする。
  • 主人公はそれらを知って、教頭が彼女を抱いている時に、上級生代表をその場に向かわせるように時間やタイミングを仕掛けて、それを暴いて成功させる。

こうすることで、上級生は教頭に対する暴力で退学になり、教頭はわいせつで免職にさせるとしましょう。上級生代表は上級生全員に影響を与える存在とします。最終的に、影響力がある人がなくなったので正常な学校に戻り、安全に学校生活を過ごせるようになって、エンディング……としておきましょう。

駆け引きを仕上げる

以上より、駆け引きを構成する三つの要素は、次のようになります。

  • (b-2a)ルールの存在:「主人公(下級生)は、上級生に弱い」
  • (b-2b)ルールブレイカーの存在
    • 「教頭の不正を手伝うことで、主人公は教頭より強くなる」
    • 「上級生代表が教頭の不正について知ることで、教頭より強くなる」
    • 「主人公は教頭と上級生代表の罪を暴き、同時に退職・退学に追い込む」
  • (b-2c)各ルールブレイカーの前振り
    • 「上級生は教師や教頭がいると、下級生に手を出さない」と知る。
    • 深夜に泥棒が学校に侵入して、金庫や経理情報が荒らされたことを知る。
    • 教頭と上級生代表の彼女の実情を知り、策を仕掛ける。

図で示すと、次のようにできるでしょう。

これによって、駆け引きの基本構成が全てできました。

後は前回のコラムで作った「ストレス(問題)」と、今回作った「駆け引き」を時系列に並び替えるだけでサスペンスが構成できるようになります。

それでは次から、その時系列に並び替える方法を見ていくことにしましょう。

まとめ

  • 「ルールの存在」、「ルールブレイカーの存在」、「各ルールブレイカーの前振り」の三つを用意することで、駆け引きを実現することができる。
  • ルールブレイカーを作ることで、主人公も敵も、劣勢をひっくり返せる。
  • ルールブレイカーの前振りを作ることで、ルールブレイカーが使えるようになる。
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クレジット

http://www.flickr.com/photos/cogdog/4163089889/ by Alan Levine (modified by あやえも研究所)
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