サスペンスの方程式(四):サスペンスの十ステップ(第一幕)

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サスペンスの方程式(四):サスペンスの十ステップ(第一幕)2016-11-29T09:04:38+00:00

Project Description

概要

このページでは、サスペンス作りにおける、物語の流れを作る方法について説明しています。

ここでは、第一幕の流れについて触れています。

  • 緊迫感を作りやすくする「サスペンスの十ステップ」とは?
  • 読み手は「先を読まなければ気が済まない」状態にする方法とは?
  • 読み手が引き込まれる、「これができれば半分成功」する要素とは?

サスペンスを構成する十のステップ

ここからは、その要素を時系列で並び替えて、一つの物語の流れとして構成していきます。ここから具体的な流れになるので、ぐっと分かりやすくなるでしょう。

それでは、時系列で構成するための十のステップを以下に列挙します。

  • ステップ一場面設定:物語を始めるにあたって、必要な世界観や場面の設定をします。主人公にとっての大切なものもここで描写します。
  • ステップ二「異質な世界」の登場と説明:事件が起こり、物語の舞台が展開されます。今までとは違う異質な世界に、主人公はストレス(問題)を抱えます。
  • ステップ三悪意の明示と大切なものを失う危機:主人公に対する悪意が襲いかかり、主人公の危機が訪れますが、紙一重で命拾いします。
  • ステップ四回避不能な状況:このストレスが回避不能な状況だと分かり、このストレスを解決するしか選択肢がないと受け入れなければならなくなります。
  • ステップ五表面的ルールの説明:その環境ではルールが存在することを知ります。そしてルールの存在や性質を一つ一つ知ってゆきます。
  • ステップ六ルールの攻略法を知る:主人公はこれまで知ったルールを元に、最初のルールブレイカー(攻略法)を知り、敵の悪意を回避する手段を得ます。
  • ステップ七攻略法によって勝ち進める:攻略法によって、敵の悪意を回避し続けます。
  • ステップ八敵のルールブレイカーの発動:敵のルールブレイカーの発動によって、主人公は攻略法を無効化され、危機に陥ります。
  • ステップ九主人公のルールブレイカーの発動:主人公がさらにルールブレイカーを発動することによって、危機を回避します。
  • ステップ十結末の説明:全ての危機が回避されたことを説明して、ストレス(問題)を解決します。

この十ステップを「サスペンスの十ステップ」と呼ぶことにしましょう。

「サスペンスの十ステップ」時系列の流れ

これらの時系列の流れを図示したものを次図に示します。

「サスペンスの十ステップ」の注意点

上図の枠で囲った部分は、ルールブレイカーの数によって変化する部分です。ルールブレイカーの数に応じて、必要な回数ほど繰り返します。

また、ステップ二~四までを「ストレスエリア」ステップ五~九までを「駆け引きエリア」と呼ぶことにしましょう。主にストレスを与えることがメインの場所と、駆け引きを見せることがメインの場所とを示しています。

これにより、サスペンスでは、最初はストレスを与えて、その後に駆け引き段階に入ることが分かります。前章で作った「(a-2)ストレスの内容」、「(b-2)駆け引きの内容」に関するものが、それぞれの過程で中心的に使用するものになります。

これまで作った内容から、十ステップを作り出す

さて、実際に十ステップの構成に入る前に、これまで作った内容を再確認しておきましょう。次図に、これまで作成した構成を示します。

以降ではこれを元に、サスペンスを時系列で構成していきます。最終的に次のような記述形式で出来事の時系列を作ることができれば、十分でしょう。

テーマ:
主人公が「テロリストの犯罪に巻き込まれる」というストレス(問題)を抱え、「テロリストからの脅威を回避できるようにする駆け引き」を通して、問題を解決している物語。

●ステップ一:場面設定

  • 場面は現代日本。主人公はベテランだけどしがない刑事。
  • 主人公は休暇中に、愛する妻と旅行に出る。普段あんまり一緒にいられないから、妻との暖かいやりとりを楽しむ。

●ステップ二:「異質な世界」の登場と説明

  • リゾートホテルでたまたま妻と別行動している時、テロリストの犯罪に巻き込まれてしまう。
  • テロリストの存在に、周囲は大混乱する。主人公は刑事の勘で隠れて安全を得るが、妻はどこにいるか分からない。

●ステップ三:悪意の明示と大切なものを失う危機

  • 大勢の人がテロリストによって人質に取られてしまい、その中に妻がいることを知る。

●ステップ四:回避不能な状況

  • リゾートホテルはテロリストによって完全に閉鎖され、逃げられない。また、妻を助けなければならないので逃げるわけにもいかない。
  • 主人公は「テロリストと駆け引きすること」により、問題を解決することを受け入れる。

(以下略)

それでは実際に、各ステップでどのように作ってゆくのかを見てゆきましょう。

ステップ一:場面設定

まず最初に、場面設定を行います。

物語においては、世界観や主人公の紹介がなされるでしょう。ここからしばらくの間は、「(a-2)ストレスの内容」を用います

ここで最低限必要なのは、以下の二点です。

世界観、舞台、主要人物の配置

「主人公が大切にしているもの」の説明

なお、ミステリー的要素を含む場合、時にはこの「ステップ一:場面設定」をすっ飛ばして、次の「ステップ二:悪意の顕在化」から始まる場合もあるでしょう。それでも別に問題はありません。

さて、それでは以下でこの二点について詳しく説明します。

(一)世界観、舞台、主要人物の配置

まずはどの物語にも必要な、世界観や舞台、主要人物の説明ですね。悪意が主人公に向けられる前の、日常的な状態の説明です。

主人公は日常を送っているかもしれませんし、入学や就職といった新たな環境を前に、不安と期待に胸を踊らせている状態かもしれません。刑事物では日々の雑務に追われていたりするでしょうし、探偵ものであれば、パーティーに呼ばれた洋館の前で、これまでの事情を読み手に説明することになるでしょう。

場合によっては「目が覚めたら突然見知らぬ場所に閉じ込められていた」というように、混乱と共に世界観を説明することもあります。これはミステリー的要素が含まれる物語に多く用いられる傾向にあります。

一方、ここで主人公の性格をどのように決めるかが気になるかもしれません。しかし、主人公の性格は決める必要はありません。これは少し細かい話になりますが、「サスペンスの領域においては、主人公の性格によって物語の流れは左右されない」という現象があるためです。というのも、サスペンスの定義が「ストレスを与え、解放する」ものなので、主人公やヒーローの性格がどうであろうが関係ないのです。

例えば、主人公を「無感情で超人的」にしても、「弱虫で臆病」にしても、「勇気あるヒーロー」にしても、「サスペンスの領域においては」物語は変化しないわけですね。主人公に欠点を持たせる必要もありません。

(二)「主人公が大切にしているもの」の説明

この段階で主人公が大切にしているものを説明します。この「大切にしているもの」とは、「(a-2b)主人公の危機(大切なものを失う危機)」で設定したものになります。

ここで「大切なもの」を読み手に印象づけておくことで、後ほどそれを失う場合の危機感や不安感を増大させることができます

多くの場合、大切なものがあることで、幸せや恩恵が得られている……という描写がされるでしょう。

後ほど起こる危機が誘拐であれば、主人公が我が子と幸せそうに遊んでいる描写がされるかもしれません。お金を失うという危機であれば、例えばお金があることで病気の親を入院させることができて、感謝されることかもしれません。「入院費も馬鹿にならないだろう? ごめんな」「いいってば、お父さん。私がしっかり働けば何とかなる程度だから、心配しなくていいよ」「ははっ、父さんはいい娘を持って幸せだよ」みたいに危機についての話をさせてもよいでしょう。

この段階では、主人公が大切にしているものを読み手に強く印象づけておきます。

✎ 作成例:ステップ一:場面設定

さて、ここから実際に、これまで作った内容を時系列に並び替えていきましょう。これに肉付けして、一つの流れとして仕上げてゆくことにしましょう。

少し本題から逸れますが、この説明コラムでは説明として分かりやすくするために、できるだけシンプルにサスペンス構造を説明したいと思っています。なので余分な設定は全て排除して、骨格だけが分かるように説明していきます。

いわば「意図的に肉付け量を抑えて」説明しています。ですが実際に作る時は、必要に応じてしっかりと肉付けをしていくようにしましょう。

「世界観、舞台、主要人物の配置」を作り込む

それでは本題に移りましょう。実際に「ステップ一:場面設定」を作り込んでゆきます。

これまで作った内容「(a-2)ストレスの内容」を以下に示します。

「世界観、舞台、主要人物の配置」については、学校ものであるということで、以下のものを配置しましょう。

  • 世界観、舞台説明として現代日本の学校ものであることを説明。
  • 季節は春で、主人公は高校に入学したての新入生であることを説明。
  • 無事に入学式を終え、初めてのホームルームも終わる。

「主人公が大切にしているもの」を作る

その後、「主人公が大切にしているもの」を説明します。

先に作った内容は以下の通りです。

  • (a-2b)主人公の危機(大切なものを失う危機):「学校に在籍し続けること(学校を無事に卒業すること)」

これを元に、「主人公が大切にしているもの」は次のように肉付けできるでしょう。

  • 母親との幸せな思い出の描写。高校を卒業するために、母親が命をかけて働いて、お金を作ってくれたこと。そして母親が死んでしまった今は、高校を無事に卒業することが主人公の生きている証でもあるとする。
  • 主人公は落ちこぼれだけど、ぎりぎりこの学校には入れたことを説明。
  • 高校生活に対する期待も浮かべておくと、後ほどそれが打ち壊されて盛り上がるかも。

また、学校を卒業しなければならないという精神的な理由付けもできるでしょう。例えば主人公は落ちこぼれで逃げ続けていて、「ここで逃げたら、僕はもうだめになるかもしれない」という理由付けをしていてもいいかもしれません。これも、「主人公が大切にしているもの」を強化する内容になります。

ですが、ここではそこまでは肉付けしないようにしておくとしましょう。

場面設定を仕上げる

以上より、最終的にここでは以下の内容を記述します。

● ステップ一:場面設定

  • 世界観、舞台説明として現代日本の学校ものであることを説明。
  • 季節は春で、主人公は高校に入学したての新入生であることを説明。
  • 無事に入学式を終え、初めてのホームルームも終わる。
  • 母親との幸せな思い出の描写。高校を卒業するために、母親が命をかけて働いて、お金を作ってくれたこと。そして母親が死んでしまった今は、高校を無事に卒業することが主人公の生きている証でもあるとする。
  • 主人公は落ちこぼれだけど、ぎりぎりこの学校には入れたことを説明。
  • 高校生活に対する期待も浮かべておくと、後ほどそれが打ち壊されて盛り上がるかも。

それではこのような設定で、続けていくことにしましょう。

ステップ二:「異質な世界」の登場と説明

次のステップは、「ステップ二:『異質な世界』の登場と説明」です。ここから「ステップ四:回避不能な状況」までが、ストレスを与えるために重要な部分である「ストレスエリア」になります。

サスペンスにおいては、ここからのストレスエリアでどれだけ強烈なストレスを与えられるかが、読み手をどれだけ物語に引き込めるかという大きな要因となります。そのため、「ステップ一:場面設定」で幸せに大切にしていればいるほど、ここからそれが壊されるかもしれない危機感が大きくなり、読み手により大きくストレスを与えることができるでしょう。

読み手に強烈なストレスを与えれば、サスペンスは半分成功したようなもの

また、ここからのストレスエリアで、読み手にストレスを与えて、かつストレスから回避できない状況を与えます。これによって読み手は精神的なストレスから逃げられなくなり、それはつまり、「物語から逃れられない」ことになります。

強いストレスを与えて、回避不能にできたら、読み手はこの段階で本を閉じたとしても、ストレスから逃れられなくなります。なので、読み手に残された、自分の中にあるストレスを解放する手段は「読み続けて主人公が助かること」しか残されていないわけですね。これで読み手は、精神的に「読むのをやめることができない」状態になります

この「強いストレス」と「逃れられない状況」を完全に作ることができれば、サスペンスの半分は成功したようなものです。つまり、サスペンスを成功させる要因の約半分は、この序盤まででほとんど決まってしまうわけですね。それほどここからのストレスエリアは、重要なステップになります。

幸せを打ち壊す事件を配置する

それでは実際に、「ステップ二:『異質な世界』の登場と説明」の内容に移ることにしましょう。

多くの場合、それまで幸せな状態であったものが、突如として打ち壊されるような事件が起きるでしょう。

脱獄ものであれば、無実の罪を着せられて無期懲役が判決されるかもしれません。刑事物や誘拐ものでは、テロリストにビルが占拠されたり、子どもが誘拐されたりするかもしれません。

それによって、主人公は今までとは違った「異質な世界」に踏み込んでしまっていることに気付きます。そしてその「異質な世界」こそが、これから主人公が生き抜かなければならない、サスペンス物語の舞台なのです。

「異質な世界」の説明

この段階で、その場所の説明をします。その舞台とは、今までの世界とは全くの別物で、今までの常識は通用しないでしょう。そして異質であればあるほどストレスを増大させ、読み手を引き込むことができます

視覚的、聴覚的、感覚的など、五感を通じてそれらの異常性を演出するとよいでしょう。

例えば刑務所ものでは、新人の囚人が初めて刑務所内に入ったら、既に入所している「先輩囚人」たちが柵をガンガンと凶暴に打ち鳴らして、明らかに異常な空気を演出することもできます。

また、狂ってしまい奇声を上げる囚人、新入りをいたぶろうと武器を持って引きつった笑いを浮かべる囚人、壁を相手にぶつぶつと抑揚もなく不気味に話しかけている囚人など、そういった「異常感」を出すことで、ストレスを増大させることもできるでしょう。

他にも、ジャンルによってはバラバラになった肉片と血まみれの部屋であったり、奇声を上げながら人をいたぶり快楽を得る狂った人間であったり、不快なタバコや酒の匂いであったり、耳障りな罵(ののし)る声や騒音であったりするかもしれません。

そういった、主人公が踏み入ってしまった「異質な世界」を説明し、うまく演出することで、読み手により大きなストレスを与えることができます

✎ 作成例:ステップ二:「異質な世界」の登場と説明

それでは説明通りに、事件を起こしましょう。

入学式と、クラス分けがされて、クラスが終わって教師が去った直後に上級生と上級生代表が入ってきて、異質な世界が発動させます。

ここで、思いっきり異様な状況と緊迫感を作り出すようにしましょう。そうして読み手にできるだけストレスを与えるようにします。

ここでは効果的な演出ができるかどうかが成否を分けるので、骨格だけでなく、多少演出面まで踏み込んでおきましょう。

● ステップ二:「異質な世界」の登場と説明

  • ホームルームが終わった直後、教師が出て行くと入れ替わりに、竹刀を持った上級生代表と上級生たちがずかずかと教室に入ってくる。
  • 主人公ら新入生は不思議に思うが、上級生代表はいきなりキレて竹刀を打ち付け脅し、新入生たちは縮み上がる。
  • 上級生たちは、奇声を上げて笑ったり、竹刀を舐めたり、明らかに狂っている印象を与える。

他にもいろいろあるかもしれませんが、まあ全て演出レベルでの話になるので、この辺にしておきます。実際に作る時は、しっかりと異様な演出を作り込むようにしましょう。

それでは次からは、主人公の大切なものを失う危機に移るとしましょう。

ステップ三:悪意の明示と大切なものを失う危機

主人公は、先のステップで「異質な世界」に踏み込んでしまいました。

ここの「ステップ三:悪意の明示と大切なものを失う危機」からは、その異質な世界の中で、悪意が牙をむく段階になります。

主人公に向けられた「悪意」に気づく

異質な世界に入った主人公、もしくは主人公の属する集団は、自分たちに悪意が向けられていることを知ります

脱獄ものでは、刑務所に入った新入り囚人たち(主人公を含む)は、「新入り歓迎会」を受けるかもしれません。それは「歓迎会」とは名ばかりで、悪意に満ちた看守からの洗礼であるかもしれません。

また、刑事物では何らかの事件が勃発して、犯人が主人公の大切な人を誘拐したり、人質に取ったりするかもしれません。ギャンブルものであれば、いつの間にか多額の借金を背負わされて、お金のゲームに参加させられているかもしれません。他のジャンルでは、猟奇殺人を繰り返す狂った殺人鬼や、未知なるエイリアンやゾンビ、あるいは災害などが主人公に危害を加えようとして登場するかもしれません。

逃げ場がない状況

読み手も主人公も、ストレスが与えられると、無意識にそこから逃げ出す道を探し始めるものです。ですがこの段階では、ほとんどの場合、事態から逃げることはできない状況になっています

例えば刑務所では、銃を持った看守の監視があり、出入り口には鍵がかかっていて脱出することは困難でしょう。テロリストにビルを占拠されたら、全ての出入り口を押さえられていたり、エレベーターや移動手段が全て使えなくなっており、逃げることができないでしょう。他のジャンルでは、黒服の人に周囲を取り囲まれてしまったり、エイリアンがうようよいたりするかもしれません。

そのような状況にあることで、主人公は今は逃げられない場所にいるのだと知ります

「犠牲者」で逃げられない状況を強化する

主人公よりも、力のある者や知恵のある者がその状況を打破しようとするかもしれません。ですが逆に悪意を向けられて、悲痛な叫びを上げたり、苦しんだりして、見るに堪えない状況になったり、命を失ってしまったりすることも起こりえるでしょう。

よくあるのが、例えば囚人などでも、その囚人たちの中で最も智恵のある人や、最も力のある人に、看守に対して反抗させることです。そして最も智恵のある人や、最も力がある人ですら、看守にはあらがうことができず、悲痛な結果に終わってしまうようにします。

こうすることによって、主人公はこの危機を回避しようとする気力さえ失ってしまうでしょう。主人公(読み手)はますます危機感を感じて、ストレスを抱えます。

この段階では、まだ主人公には危害は加わらない

このような「悪意」が明示されることによって、主人公は大切なものを失う危機に立たされます。

しかし、ここでは「主人公の大切なもの(安全やお金、関係や人質など)」に直接的な危害が加わることはほとんどありません。というのも、危害が加わってしまっては、危機感が消失してしまうためですね。精神的には「傷つくこと」よりも、「傷つくことへの恐怖」の方がよりストレスを感じるのです。

なので、大切なものへの危害が及ぼうとした瞬間に、紙一重の助け船が入って命拾いをすることが多いでしょう。

例えば刑務所に入った主人公は、看守に目をつけられて「お前のような奴が一番嫌いな人種だ」と、制裁を加えるために警棒を振りかぶるかもしれません。その瞬間、チャイムが鳴って囚人を移動させなければならなる……という出来事が起こります。それによって主人公は運良く難を逃れて、読み手は胸をなで下ろします。

ここでは、以前に作った「(a-2a)悪意の存在」と「(a-2b)主人公の危機」で作った悪意を元に配置してゆきます。

✎ 作成例:ステップ三:悪意の明示と大切なものを失う危機

それでは、「ステップ三:悪意の明示と大切なものを失う危機」を配置します。ここで使う悪意とは、以下のようなものでした。

  • (a-2a)悪意の存在:「上級生の欲望を満たすための、下級生への命令」

これを元に、次のように肉付けしていくとしましょう。

● ステップ三:悪意の明示と大切なものを失う危機

  • 上級生代表は、「年上には敬意を持って接することだ」と言い、下級生に何か芸でもするように命令する。できなければ、容赦なく制裁を加える。
  • 下級生の学級で一番力が強いキャラ(空手で全国大会出場とかのキャラ)を出して、そのキャラに反発させる。しかし上級生によってたかってリンチに合ってしまい、気絶する。
  • 教室の出口は上級生によって押さえられていて、出ることはできない。
  • その後、上級生代表は下級生二、三人に無理矢理命令。下級生は震え上がって泣いたり、従ったりして、それでも些細な因縁をつけられて制裁を食らってしまう。
  • そんなストレスのまっただ中、ついに主人公が上級生代表に指名されてしまう。「隣の奴を殴れ」と命令されるが、主人公はできるわけがない。
  • 上級生代表が不機嫌になり、主人公に制裁を加えようとした瞬間、学校のチャイムが鳴って教師が入ってきて、「PTA会があるから、生徒は早く下校しろ」と伝える。主人公はぎりぎり助かる。
  • 上級生代表から因縁をつけられて、目をつけられてしまう。「俺はお前のような奴が一番嫌いな人種だ」と言われて、「明日から楽しみにしてろよ」と。

ま、少々詳しく説明しましたが、この辺りでいいでしょう。

ここでいったん緊張の糸が切れて、一息つく……というところですね。

そして次のステップから、このストレス(問題)そのものから逃れられないことを示していきます。

ステップ四:回避不能な状況

前のステップで、主人公は紙一重で助かり、無傷で済みました。ですがストレスは持ち続けている状況です。

そこで主人公は、この「ステップ四:回避不能な状況」において、ストレスに対してどのような対応をするのかという決断を迫られます

状況を再確認して、ストレスに向き合わざるを得ないと知る

いったん危機は過ぎ去り、主人公は冷静になって状況を見つめ始めます。読み手には何らかの形で、今の状況を知らせる客観的な情報が与えられるでしょう。

客観的に主人公たちを見ている第三者から回避不能だという解説がされるかもしれませんし、場合によっては主人公が、その道の経験者や達人から、このストレスは回避不能であることを教わるかもしれません。

それらの情報を冷静に分析した上で、主人公は、自分の意思に関わらずストレスに正面から向き合わざるをえない状況であることを悟ります。これが「(a-2c)回避不能な状況」になります。

実際の流れの例

例えば刑務所ものでは、隣にいる冷静な囚人から、こう助言を得るかもしれません。「俺はこの刑務所に来るのは三回目だ。いいアドバイスをお前にやろう。ここでは逃げることも隠れることもできない。自分の力だけが頼りだ。誰にも頼らず、うまく乗り切るしかない」と。そして主人公は、嘆いていても仕方ないので、その道しか無事に生き抜く方法はないと受け入れます。

空港がテロリストに占拠された場合、刑事の主人公はテロリストから身を隠しながらも、テレビのニュースで事情を知るかもしれません。そして愛する家族が人質に囚われていることを知り、その家族を救うためにテロリストに立ち向かうことを決意するでしょう。

また、お金を奪い合うようなゲームの場合、視点が主催者に切り替わって「ゲームプレイヤーがどんなにあがこうが、もうここからは逃げられはせんよ」と解説するかもしれません。

「逃げ道」を全てふさいでおく必要性

この段階では、主人公がそう決断するために、考え得る逃げ道を全てふさいでおく必要があります

こうして、主人公は自分の意志にかかわらず、ストレスに取り組まざるを得なくなります

読み手に強いストレスを与えて、そしてそこから逃げられないと完全に示した時、読み手はもう「読み続ける」しかなくなります。これができれば、この「ステップ二:悪意の顕在化」から「ステップ四:回避不能な状況」までのストレスエリアは成功したことになります。

✎ 作成例:ステップ四:回避不能な状況

それではストレスエリアの最終段階、「ステップ四:回避不能な状況」を作り込んでゆきましょう。

ここでは冷静になって、読み手に客観的な情報を与えます。その上で、主人公はストレスに取り組まなければならないことを悟るでしょう。

ここでは以下の内容を用います。

  • (a-2c)回避不能な状況:「学校を卒業してという母の遺言」「落ちこぼれ学校で転校不可」

実際には以下のように構築することにしましょう。

● ステップ四:回避不能な状況

  • 帰り道、主人公は冷静になって状況をまとめる。また、事情に詳しい同級生から話を聞く。
  • ここが最悪の学校であること。教師も上級生のことを黙認していること。学校の悪しき伝統であり、変えられないこと。
  • その上で、学校からは逃げられない。お金もないからどこにも行けないし、落ちこぼれ学校なので、転校もできない。学校をやめてももっと悲惨になることを説明する。
  • 主人公は墓参りをする。そして「学校を卒業してという母の遺言」を思い出す。
  • 悩みに悩むが、結果的に、母親が命を削って養ってくれたことを思い出し、自分はこの程度の困難には負けられない、逃げないことを決意する。

これぐらいでいいでしょう。

これでストレスエリアは終了になります。

しっかりと読み手にストレスを与えられるように、構築しましょう。

まとめ

  • 最初に、「大切なもの」を読み手に印象づけておくことで、後ほどそれを失う場合の危機感や不安感を増大させることができる。
  • 「強いストレス」と「逃れられない状況」を完全に作ることができれば、サスペンスの半分は成功したようなもの。
  • その場から逃げられないように、考え得る逃げ道を全てふさいでおこう。
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クレジット

http://www.flickr.com/photos/elbragon/4593835179/ by Marcelo Braga (modified by あやえも研究所)
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