サスペンスの方程式(七):仕上げ

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サスペンスの方程式(七):仕上げ2016-11-29T09:04:37+00:00

Project Description

概要

このページでは、サスペンス作りにおける、プロット制作時の仕上げの仕方について説明しています。

  • 駆け引きをより効果的に作る「視点」とは?
  • サスペンスにおける「主人公の作り方」とは?
  • 他の作品を分析する方法とは?

詳細部分を複層的に作り込む

前章までで、サスペンスを時系列で作り込んできました。それではここから、さらに詳細な内容にまで踏み込んで説明することにしましょう。

サスペンスでは、この筋を複層的に構成することも、直列で構成することもできます。つまり、複数のサスペンス内容を重ね合わせることもできるし、次々と配置することもできるということですね。

例えば刑務所の例で言うと、「主人公(囚人)」「看守」「刑務所長」という基本となる三つ巴がありました。その他にも、例えば「黒人グループ」「白人グループ(主人公)」「闇商人」といった三つ巴を作って、そのサスペンスを本筋に追加することもできます。

「新入り囚人(主人公)」「古参囚人」「リーダー格囚人」という構図もできるでしょうし、他にもさまざまなルールを配置することができるでしょう。

そうすることで、サスペンスはいくらでも続編作りが可能になりますし、長続きさせることも可能でしょう。

このように、サスペンスは複層的に構成しやすく、また一つの問題が終わったらすぐに次の問題を起こすなど、次々と展開させることができます。なので短編にすることも長編にすることも、比較的簡単にできるでしょう。

「主人公」の配置

次に説明するのが、主人公についてです。

サスペンスの領域においては、主人公の性格は何だって構いません。実際にこれまで時系列を作り込みましたが、主人公の性格には全く関係なく構築できたことが分かると思います。

サスペンスでは、主人公に「欠点」や「抑圧」はなくてもよい

同様に、純粋なサスペンス部分を作ろうとする場合、主人公に欠点を加える必要もありません。多くのストーリーライティング教材で「主人公には欠点を加えろ」と言われていますが、サスペンスではそれは必要なく、たとえ主人公が完璧超人であろうがサスペンスは成り立ちます。

例えばケビン・コスナー主演映画「ボディガード」では、主人公のボディガード役のケビン・コスナーは最初から最強なわけですね。また漫画「北斗の拳」も基本はサスペンス構成ですが、主人公のケンシロウは最初から最強で、完璧超人です。

なので、これまで「主人公」と説明してきたものは、好きなように設定することができます

冷徹な性格にしても、暖かい性格にしても、何でも大丈夫です。むしろ、その分野においては最強の実力者であってもいいのです。

主人公を「二人」にすることも効果的

また、読み手に分かりやすいようにするために、主人公を二人で構成するのも効果的でしょう。

主人公にも強気な心と弱気な心が内包されているものです。それを二人に象徴的に分離することで、強気の意見と弱気の意見を明解にすることができるのです。

例えば駆け引きをする際には、主人公を一人だけではなく、二人セットで常に動かします。一人は冷徹で計算高く、落ち着いて相手の裏を探ることができる性格のキャラです。もう一人は少しのことでも慌てて、落ち着きがなく、素直に不安になるキャラです。何か起こったら「ど、どうしたらいいんだ! もうだめだ!」と慌てる人と、「まだ負けたわけじゃない。決まったわけでもない」と冷静に策を練る人とがセットになる場合も多いでしょう。

これも、サスペンスでは主人公の性格を自由に構成できるというメリットでもあります。

✎ 作成例:「主人公」の配置

それでは、先ほど作ったサスペンス物語に、主人公を適当に配置してみましょう。

ここでは主人公は、「冷静で計算高い男子」と「素直で不安になる少女」のセットにするとしましょうか。同い年で、同じクラスの二人としておきましょう。

この二人は常に一緒に行動をするようにします。

少女は慌てる立場なので、不安をストレートに表現させます。その後、男子は冷徹な意見を伝えて、女子の不安を解消しようとするでしょう。

それはすなわち、心の変動を二人の対話で示しているということですね。

別に一人だけでも構いません。主人公を男子だけにしても、心の中で不安と冷静な声を戦わせることもできるでしょう。また、男子よりもさらに弱気なクラスメートでも配置して、不安を代弁させたり、何かにつけて解説するキャラを追加してもいいかもしれません。

このような形で、主人公を好きに作り込むことができるということですね。これは後ほど説明する、感動やミステリーと融合させやすくなる重要な要素になります。

駆け引きを引き立てる視点変更

サスペンスの駆け引きを盛り上げるために、読み手に何の情報を与えるのかが重要になります。

先に触れたように、主人公が何度か悪意のある人に騙されることによって、主人公にとって有益な情報でも、そうでないように見せることができるようになります。これによって、全ての情報に危機感を感じるようになり、より緊迫感を高めることができるわけですね。

また、これと同じ要領で、視点変更によって読み手に与える情報を制限することができます

この考え方は、以下の二種類があるでしょう。

「主人公は知らないけど、読み手は知っている」という視点

「主人公は知っているけど、読み手は知らない」という視点

以下でそれらについて説明していきます。

(一)「主人公は知らないけど、読み手は知っている」視点

これは視点を主人公から外すことで、主人公に対する危機感を強調する演出になります。

例えば主人公がうまくいっている時に、その影で、敵が新たに主人公を陥れる計画を立てている場面を読み手に見せることがあります。また、敵が主人公の目的に感づき始めている状態を見せるかもしれません。

これによって、読み手は主人公に迫る危険を感じます。でも読み手は主人公に伝えたくても伝えられないという不安感を感じます。

これは駆け引きの前半において、多く用いられる演出になるでしょう。

(二)「主人公は知っているけど、読み手は知らない」視点

これは逆に、主人公は知っているけど、読み手は知らないようにするための演出になります。

主人公が解決策を知っている場合、それを読み手に知らせてしまったのでは、読み手は「あの策があるから大丈夫だ」と安心してしまい、緊張感がなくなります。そのため、読み手に安心感を与える情報はある程度制限する必要があります

これは特に、主人公がルールブレイカーを準備している段階で、情報を制限して読み手に伝えないことが多いでしょう。

主人公の意図を読み手に知らせないために、視点を主人公の側にいる他のキャラにすることも多くあるかもしれません。また、主人公視点であったとしても、主人公はあえて何も語らないことがあるかもしれません。

例えば、ルールブレイカーを準備している時に、主人公は敵に何かを奪われてしまうかもしれません。本当は重要でも何でもないものですが、「それは重要ではない」と主人公に言わせる必要もありません。なので、主人公には無表情で黙っておいてもらって、敵に「してやったり」という勝ち誇った表情をさせます。すると読み手には「ああ、あれほど敵が勝ち誇った様子になるのは、きっと重要なものなんだ。主人公は弱みを見せるわけにはいかないから、わざと強情に無表情をしてるんだ」と誤解させることもできるでしょう。

✎ 作成例:駆け引きを引き立てる視点変更

それでは視点変更について、少しだけ考慮してみることにしましょう。

「主人公は知らないけど、読み手は知っている」「主人公は知っているけど、読み手は知らない」これらについては、視点そのものを切り替えることができるでしょうが、ここでは少し見方を変えて工夫してみるとしましょう。

今回の学校ものの物語では、先ほど主人公を男子と少女の二人に分けました。これを利用するとしましょう。

つまり、片方のみに限定した視点にするわけですね。男子は冷静なキャラなので、あらがう術を持っているキャラになります。一方で少女は何も持たない、ただ不安になるだけのキャラです。つまり、少女にカメラをフォーカスすれば、「全てが不安に見える」わけですね。

なので、「主人公は知らないけど、読み手は知っている」という視点については、少女が敵の策略を知ることになります。ですが、主人公の男子は忙しそうにしていたり、話を聞いてくれなかったりして、「男子に伝えられない」というようにできるでしょう。

「主人公は知っているけど、読み手は知らない」という視点についても同様で、知っているのは男子だけにすればいいのです。少女は知らないようにすれば、少女はまるっきり読み手と同じ目線で物語を味わうことになります。

そして中盤のルール判明時や、最後にルールブレイカー発動後の説明などで、男子が少女に手口などを明かすことで、読み手は少女を通して全体像を理解できるようにするわけですね。

映画やドラマなどの映像では視点移動は簡単にできますが、小説やノベルゲームなどでは、頻繁な視点移動を嫌う場合もあるでしょう。その場合、このような工夫をすることで、対応可能になります。

感動要素を追加する――「実践! ストーリープロットの作り方(シナリオの方程式)」との融合

本項目は、「実践! ストーリープロットの作り方(以下、『シナリオの方程式』と記述)」との融合方法を記しています。

もし「シナリオの方程式」を読んでいない場合、この項目は読み飛ばして頂いて構いません。

サスペンスに感動を追加する方法

さて、「シナリオの方程式」では、物語の基本構造と感動の作り方について説明しました。そして「シナリオの方程式」とも融合可能なように設計しています。

つまり、「サスペンスに感動を加える」「感動にサスペンス(もしくは駆け引きのみ)を加える」こともできるわけですね。

これによって、サスペンス的要素を持ちながら、恋愛ものにしたり、感動ものにしたりすることができるようになります。「可愛い女の子キャラも出したい」とか、「ビジュアル的に花を作りたい」とか、「純粋なサスペンスだと殺伐としがちなので、少し中和させたい」などの場合、感動要素と組み合わせることで、よりイメージに合う物語を構築することができるようになるでしょう。

逆に、感動物語にサスペンス的要素を追加することもできるでしょう。

感動と融合する三つの方法

ここでは以下の三つについて、融合方法を説明します。

対立関係との融合

スペシャルワールドとの融合

三幕構成、ストーリー十四のステップとの融合

それでは以下で、各要素について詳しく説明していきます。

(一)対立関係との融合

まずは対立関係との融合について説明しましょう。

対立関係は、感動を生み出すために必要な要素です。それは簡単に言うと、主人公に問題(欠点)を加えて、それを克服させるということですね。

先にも説明しましたが、サスペンスにおいては主人公に欠点があろうとなかろうと関係ありません。

なので、もし感動を作りたい場合は、主人公に適当な欠点を加えて、それを克服させればいいだけです。

お金を奪い合うようなゲームの典型的な例で言うと、主人公を冷徹な青年と、素直すぎる少女の二人に分けます。すると、例えば青年に焦点を当てると、青年には「人を信じない」という欠点を作ることができるでしょう。すると、長所として「人を信じないことで、安全に生きていける」ができて、犠牲として「人を信じないことで、愛情を感じられない」というものができるでしょう。

この長所と犠牲が作れれば、少女がシャドウになって、少女の力(長所「人を信じることで、愛情を感じられる」、犠牲「人を信じることで、安全に生きていけない」)の長所の方が強くなり、青年は苦しんでいくでしょう。

すると最後に、ルールブレイカーと同時に青年が成長して、「自分を犠牲にして少女を助ける」というような行為をさせることができるでしょう。

このように、恋愛や感動などの要素を追加することができるようになります。

(二)スペシャルワールドとの融合

本書において「駆け引きエリア」と表現している場所が、「シナリオの方程式」で説明しているスペシャルワールドに当たります

「ステップ四:回避不能な状況」において「異質な世界で駆け引きをする」と主人公が決めた時が、それが主人公がスペシャルワールドに入る時になります。

(三)三幕構成、ストーリー十四のステップとの融合

「サスペンスの十ステップ」は、「三幕構成」や「ストーリー十四のステップ」と同質の普遍的構成になります。

いわば、同じものを別の側面から言葉を換えて説明しているだけになります。実際にストーリー十四のステップで説明してもいいんですが、十四のステップの方は感動に特化して説明しているので、サスペンスには不向きと判断して、今回は新しい「十のステップ」で説明したわけですね。

時系列で対応する典型例は、のようになります。

この対応関係はあくまで「典型例」としておきましょう。多少の揺らぎはあるものですので、「まぁこんなもんか」として把握する程度でいいでしょう。

他のサスペンス物語の解析方法

本章の最後として、他のサスペンス物語の解析具体例を見てみましょう。

世の中には様々なサスペンスがありますので、それらを具体的に見て、どこに特徴があるのかというサンプルを見ていくことにしましょう。

映画「ダイ・ハード」シリーズ(ブルース・ウィリス主演)

アクション映画では、ほとんどの脚本がサスペンス構造になっています。

アクション映画の中でも有名な「ダイ・ハード」シリーズは、これまで説明してきたサスペンスの基本構造にとても忠実に作られています

どのシリーズでも、最初は主人公であるブルース・ウィリスがテロリストは犯人グループのいる場所に居合わせたり、ダイ・ハード3では逆に犯人が主人公に近づいてきて、悪意を示します。

そして大切な人が人質に取られたりして、受け入れざるを得ない状況になって、駆け引きが始まるわけですね。

これは今まで説明してきたような、基本に忠実なサスペンスなので特に目新しいことはありません。ですが基本を確実に構築することで、このように良質な脚本ができるといういい例になるでしょう。

映画「SAW」シリーズ

アメリカで一躍有名になったサスペンス映画「SAW」シリーズがあります。

これは、「ジグソウ」と呼ばれる犯人が、普通の人々を誘拐して閉じ込め、例えば「六時間以内に誰かを殺さなければ、全員を殺す」「出口のないこの館から二時間以内に出なければ、全員死ぬ」といったゲームを与えるようなサスペンス物語です。

シリーズ最初の作品「SAW」は、無名監督の低予算ながらも、その良質なサスペンスクオリティで一躍有名になった作品でした。それを元に、「SAW」シリーズは続編が次々と出されるようになるのですが、次第に残酷度やグロテスク度が上がって、放映規制に引っかかるようになってゆきました

これは、サスペンスの脚本家にとってありがちな出来事だと思います。

サスペンスを突き詰めようとすると、脚本家は結局のところ「どのようにストレスを与えるか」「どのように駆け引きを面白くするか」という二つの点に行き着きます

その中で「どのようにストレスを与えるか」はより重要で、これが上手くできれば駆け引きは少々ありふれたものだったとしても、十分に緊迫感のあるサスペンスを作ることができるようになります。そのため、サスペンス作家は「もっとストレスを与える方法」を考えて、より異常な猟奇的であったり、グロテスクであったりする方向に走りがちです。

「SAW」シリーズでも同様に、前述したように、シリーズが進むにつれてより残酷度が上がって放映規制に引っかかるようになりました。これは、「よりストレスを与えるため」を考えると、より残忍でグロテスクな表現になりがちなためですね。

「どのようにストレスを与えるか」はとても重要な要素になります。残酷度や異常性を高めれば、簡単に読み手により大きなストレスを与えることができるようになります。しかしストレスを与えるのは残酷度だけではありません。「精神的なストレス」を与えられればそれでいいのです。ビジュアルに偏重することはありません。「どれだけその人が大切にしているのか」「それが失われる危機」、この二つをより大きくすればよいのです。

見た目だけに縛られることなく、精神的なストレスを与えることに意識を向けるようにしましょう。

漫画「北斗の拳」(原作:武論尊、作画:原哲夫)

サスペンスというと大人向けのような気がしますが、漫画「北斗の拳」は子ども向けの漫画雑誌に連載されていました。

この作品も、基本はサスペンスです。核戦争で文明が滅んだ世界で、暴力を働く人たちが一般市民を痛めつけることで、読み手にストレスを与えます。そこで主人公のケンシロウが登場して、人々を救っていくわけですね。

しかし、敵によるルールブレイカーが発動することによって、ケンシロウがピンチに陥ります。しかしケンシロウもさらにルールブレイカーを発動させて勝利するという、基本にしっかりとした駆け引きを行うサスペンス構造になっています。

サスペンスは大人向けのような印象があり、事実強烈なサスペンスは子どもには毒になりがちです。しかし一方で、「ダイ・ハード」のようなアクション映画やこの「北斗の拳」などのように、家族向けであったり、子どもでも楽しめるようにすることが可能だといういい例になるでしょう。

漫画「デスノート」(原作:大場つぐみ、作画:小畑健)

こちらも同じく子ども向け雑誌に連載されていたサスペンス漫画「デスノート」です。

主人公の夜神ライトは、ある日「デスノート」と呼ばれるノートを拾います。そのノートに、その人の顔を思い浮かべて本名を書くと、その人の命を操ることができるというものです。

この作品にはいくつか特徴がありますが、まず一つは「視点が悪役」であることです。

普通は、物語の視点は正義側である警察側になるものですが、この作品では主人公の夜神ライトは、次々と殺人を犯していく「犯人」なわけですね。そういった「目新しい視線」が特徴として挙げられるでしょう。

刑事物では犯人側がルールを作るため、最初は犯人が有利になって主導権を握るものです。同様に、主人公の夜神ライトは先に自分がルールを作る(犯行計画を立てる)ことで、敵よりも先に優位に立つという特徴があります。

また、もう一つの特徴は、ルールブレイカーが頻繁に出されて一進一退の攻防が続き、読み手には立場が拮抗しているように見えることです。

この物語では、当初は犯人である夜神ライト側が有利に働きますが、警察側のリーダー「L」が犯人を夜神ライトでありそうだというところまで特定します。ですがLは犯人が夜神ライトであることを特定するところまではできず、夜神ライトもLを始末することができず、お互いの「お互いの弱みを握ったら勝ち」という対等な関係にしています。

分かりやすく言うと、基本は「二つ巴」で、三つ巴にしてバランスを崩すけど、すぐに二つ巴に戻す……という流れで構成しているわけですね。

これによって、両者の拮抗しているように見えます。このような演出はあまりメジャーではないため、目新しいような印象があります。

テレビ番組「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで:浜田チーム体育館で24時間鬼ごっこ」

これはテレビのバラエティ番組「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで」の中の特別企画なのですが、その脚本構成において、ストレスの与え方がとても素晴らしかったので紹介しましょう。

芸人の浜田ら四人が罰ゲームとして、体育館に閉じ込められて「二十四時間鬼ごっこ」をさせられることになります。体育館では、登場音と同時に鬼が出てきて、四人は鬼から逃げなければなりません。鬼に捕まればデコピンやビンタなどの制裁を加えられます。それを二十四時間耐え抜き、生き延びなければならない……という脚本です。

この脚本は、とても良質なサスペンスの構成になっています。そしてその中でも特に、「ストレスの与え方」が驚くほど「精神的に残忍」(サスペンスにおいては褒め言葉)になっています。

そのストレスの与え方はどのような方法なのかを説明しましょう。

結論から言うと、「ルールだと思わせておいたことを少しずつ破ってゆく」ことです。

四人には、ルールは「二十四時間耐え抜けば終わり。鬼が登場して、鬼に捕まれば鬼に書かれている制裁を受ける」ということしか説明されていません。

そこで、鬼ごっこが始まりますが、最初は音(爆発音)と共に、壇上から鬼が出てきます。それを何度か繰り返すと、パブロフの犬効果で、四人には「音=鬼の登場」と意識にすり込まれます。すると、音を出しただけで四人はびっくりして逃げる体勢を取るようになるわけですね。

その後しばらくすると、例えば「音を出さずに壇上から鬼を出す」ようにします。すると四人はびっくりして、「音がなくても壇上は警戒しなくてはならない」という精神状態になります。

またその後しばらくすると、「壇上ではなく、四人の後ろ側からこっそり鬼が出てくる」ようにします。すると、四人はもうルールが何も信じられなくなって、いついかなる時も神経を休めることができなくなります。

さらには「食事中も鬼を出す」「食事をひっくり返して食事すらさせない」「寝ている間も鬼をこっそり出す」など、何度も何度も「この状態は安全だ」と四人が思っていたルールを覆します。

前章で「何度か善良そうな人に騙されることで、誰も信じなくすることができる」と説明しましたが、これも同じ種類のものになります。

ですがこれは、「ルールブレイカーだと信じていたものが、ことごとく覆される」ことになり、それはさらに強烈なストレスで、猛烈に神経をすり減らすものです。

もちろん、四人は策を練って鬼から逃げようとします。何度か成功することもありますが、次第に成功できなくなります。

ルールブレイカーをことごとく潰された四人にとって、最後に意志を支えるのは、「二十四時間経てば、この罰から逃れられる」というルールだけです。

そして二十四時間目が近づき、四人は二十四時間になるカウントダウンを笑顔で迎えます。そして二十四時間になった瞬間――貴方も既に予想できているかもしれませんが――鬼を大勢登場させて、四人の最後の希望を断ちます。

この番組はバラエティ番組なので最後はお笑い形式にしていますが、この最後の望みをも残酷に絶ちきるという構成はすさまじいものです。

四人(読み手)にルールを与える時、パブロフの犬のように経験則としてルールを与えるという技術がとても素晴らしく、読み手を欺く技法になっています。そしてそれを少しずつ壊してゆき、「信じられるもの」を一つだけに集約してゆくこと、そして最後にそれをも壊すこと、これは非常に大きなストレスを与える方法になるでしょう。

構造を知れば、他のサスペンスも理解できるようになる

これまでいくつかサンプルでサスペンスを分析してきましたが、サスペンスの基本構造を知っていれば、作者が長年かけて編み出してきた「サスペンスの奥義」も、作品をちょっと分析するだけで簡単に盗み出せるようになるのです。

基本構造を知るということは、それだけでもサスペンスや駆け引きをマスターする上で重要な要素になるわけですね。

是非基本構造をマスターして、多くの作品を分析して、技法を盗み出していって下さい。

貴方に引き出しが増えれば増えるほど、より良質なサスペンスや駆け引きを構成することができるようになるでしょう。

まとめ

  • サスペンスでは、主人公の性格は何でもよい。
  • 「主人公は知らないけど、読み手は知っている」、「主人公は知っているけど、読み手は知らない」という二つの視点を効果的に使って、物語を盛り上げることができる。
  • 構造を知れば、他の作品を解析できる。
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クレジット

http://www.flickr.com/photos/christmaswithak/3820439723/ by Christmas w/a K (modified by あやえも研究所)
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