今日は、少し哲学的なお話です。

「絶対悪は存在するのか」というお話をしてみましょう。

 

「絶対悪」という概念

とあるところで、こういうツイートがあったんですよ。

それは、過去にひどい虐殺をした人や組織を具体的に挙げて、「この人や組織って、存在する価値は何一つとしてないよね」と。

で、まぁ当然そういうあおることを言うと、反論が来るもので。

なので、こじれた形ではありますが、発言者は「他の人とやりとりができるし、分かってない相手を論破できて嬉しい」みたいに自尊心を満たせると。

 

最近はこじれについてよく語っていて、これもこじれの一種なんですが、今回はちょっとその部分は置いておくことにしましょう。

で、私が興味を持ったのが、「絶対悪」という考え方ですね。

 

シンプルに、こういう問いかけです。

「絶対悪って、存在するの?」

 

絶対悪は、存在するのか

この問いかけって、シンプルで、ちょっと考えさせられますよね。

「私って、価値のない人間だよね」、「私は人を傷つけてばかりだ」、「私には、存在する価値がない」みたいに言う人がいるものです。

それに通じる、ちょっとした哲学のように感じたりもします。

本当に、すべての面において「悪」となるものは存在しうるのか。

 

まぁもちろん、私たちは共感性を持つので、相手に共感したり、好意を持つほど「そんなことはないよ」と言いたくなるものです。

だから「絶対悪なんてないんだよ」、「誰でも、何か存在する価値があるものだよ」と言ってあげることもできるんですが、それは倫理(りんり)的な次元でのお話になります。

ただ、私の場合、もう少し論理で語ってみたくなるんですよ(笑

なので、私なりに論理を通して、「絶対悪って存在するのか」ということを説明してみようかと思います。

 

で、結論から言うと、「『絶対悪』って、『絶対』と『悪』という本来なら組み合わされないものが組み合った、奇妙な概念だよね」ということです。

なので、「絶対悪」という概念そのものが破綻している、とも言えるように思います。

 

善悪とは、相対的な尺度

そもそも善悪というのは、相対的な尺度になります。

「相対的」というのは、一つの基準となる起点が存在しなければ、対象を定義できない性質を持つ概念のことです。

 

例えば、「前、後ろ」とか「右、左」というのは、相対的な関係を示す概念です。

こういう場合、前後になる基準がないと、「これは前ですか? 後ろですか?」と言っても、「分からない」となってしまいますよね。

例えば適当な石ころを指さして、「これは前ですか?」と質問しても、「どこを基準に、何が前後になるのか」が分からないと、答えられないものです。

で、例えば「私」を基準にして、「私の顔のある方向を『前』と定義する」とした場合に、初めて「私の前にあるから、この石ころは前です。前にあります」と言えると。

 

善悪とか、正義と悪というのも同じで、「一つの社会」を基準にした、相対的な関係性を示すものです。

きっと、その社会にとって、「秩序と共に、順調に発展すること」を正義、「無秩序に陥れて、急激に衰退させること」を悪と言うんだろうと思います。

なら、そういう基準もなしに、同じように適当な石ころを指さして、「これは正義ですか? 悪ですか?」と問いかけても、「分からない」となるものです。

「誰から見て」とか、「どの社会から見て」という基準がなければ、定義できないからですね。

 

言うなれば、「絶対前は存在するのか」と言っているようなものです。

「『絶対的な前』って、何?」とか言いたくなるでしょ(笑

まぁひょっとすると宇宙とか、神の視点を暗黙に言うならそういうのがあるのかもしれませんが、基準点がなければ「定義できないもの(概念的に矛盾を持つもの)」になります。

で、もし基準点を設定するのなら「絶対」という絶対性は無意味になるので、ただ「前」と言えばいいだけです。

 

正義や悪は、社会の数だけある

これは言い換えると、「正義や悪は、社会の数だけある」ということですね。

その社会にとって秩序的に発展させるものであれば正義になるし、急激に衰退させるものは悪になると。

また、そんな悪を退けるものも、正義になると。

 

たまに「正義は人の数だけある」みたいに、言うことあるでしょ。

より正確に言うと、「正義も悪も、社会にとって益となるか害となるかで決まるので、無数に存在する」と言えるかもしれません。

 

だから、例えば戦争でも、戦争は「正義と悪が戦うもの」ではないんですよ。

戦争は、「正義と正義が戦うもの」ですね。

 

一方で、私たちが普段使っている歴史的な「正義と悪」は、勝敗が決まった後で、初めて決まる概念です。

つまり、歴史的な正義と悪というのは、多くの場合で、「今の生命系統につながった勝者側が正義になる。その発展を阻害しようとした存在が、悪になる」ということです。

 

最終的に生き残った存在が、正義になる

簡単に言うと、「勝てば官軍」なわけですが、実際にこれは私たちの身近でもよくあることです。

実のところ、地球の歴史上、最も多くの生命を絶滅に追いやったのは、今の「植物」です

 

元々の地球は、二酸化炭素濃度が高く、二酸化炭素を利用して生きる嫌気(けんき)性生物ばかりでした。

ですが、光合成をできる植物が登場することで、大量に二酸化炭素を吸って、酸素をはき出すことで、地球の二酸化炭素濃度が一気に下がり、酸素濃度が上がりました。

それによって、地球上にいた大量の嫌気性生物(主に細菌類)がことごとく滅んで、大量絶滅したと。

 

で、今の私たちからすると、「植物は大切なもの」、「木々や森林を守ろう」とか言って、いいものですよね。

それは、私たちが酸素を吸って生きている、好気(こうき)性生物だからで。

すなわち、私たちは「過去に大量虐殺をした生命を、素晴らしいものとして尊んでいる」ということです。

なぜかというと、「自分にとって有益だから」ですね。

「植物はいいもの。自然で美しいもの」とか言うイメージがありますが、実のところは大量虐殺と大量絶滅をしているので、結局のところは「勝てば官軍」だと。

 

なら、「どんな手段を執ろうが、最終的に生き残った存在が、正義になる」と言えるように思います。

そこでは、無理に戦いで勝利をする必要はありません。

戦わずとも、相手が自分から滅びる可能性だってありますからね。

なので、ある意味、「滅びずに生き残ることが、勝利だ」と言えるかもしれません。

 

まとめ

なので、「絶対悪は存在するのか」と問われると、私ならこう感じるわけです。

「『絶対悪』って、『絶対』と『悪』という本来なら組み合わされないものが組み合った、奇妙な概念だよね」みたいに。

で、私が答えるならば、基準があるなら「悪」だけでいいし、基準がないなら「定義できない」になります。

 

これが分かると、「私って、価値のない人間だよね」、「私は人を傷つけてばかりだ」みたいな考え方に対しても、より俯瞰的に見られるかなと思います。

「価値」とか「善悪」、「正義と悪」なんて、社会によって変わりますからね。

 

すると、別の社会に移動するなり、どうでもいい思い込みを手放すなりできて、より自由に動けるかもしれません。

 

ということで今日は、「絶対悪は存在するのか」というお話をしてみました。

今日はここまで~。

 

おまけ

ちなみに、「絶対悪」を「人類の敵(人類全員にとっての悪)」とする場合、絶対悪は存在しうることになります。

それは、例えば地球外からエイリアンが攻めてきたりして、「人類」の外に脅威となる発生源があれば、そうなりえますよね。

 

ただ、「人類の内側」、すなわち「(現在生きている)個人や組織」を悪とする場合、絶対悪は存在しにくいと言えるでしょう。

というのも、前述したように、「自分は正義だと思っているから」ですね。

例えば「殺人鬼Aは、すべての人類にとって悪である」という命題が成り立つならば、背理法で「一人でも殺人鬼Aを悪だとは思わなければ、殺人鬼Aはすべての人類にとっての悪ではない」と言えます。

なら、例えば本人が「自分は悪ではない」と思っているなら、「殺人鬼Aは、すべての人類にとって悪である」という命題は否定されて、成り立たなくなります。

だいたい「自分が悪い」と思っていれば自殺をするので、殺人鬼な時点で「自分は悪ではない」と思っている率が高いと思われます。

 

まぁ、実際のところ、「すべての人類」には、善悪の区別のつかない子供や赤ん坊も含まれます。

なので、おそらく「殺人鬼Aは、すべての人類にとって悪である」という命題を成り立たせることは、実質的に不可能だろうなと思います。

 

すなわち、冒頭で触れた「この人や組織って、(すべての人類にとって)存在する価値は何一つとしてないよね」という命題は、個人では(現実的な問題で)成立を証明できないと。

だから、「この人や組織って、(すべての人類にとって)存在する価値は何一つとしてないよね」と論戦をふっかける人は、その命題自体が論理的に成立できていないように思います。

簡単に言うと、そういう人には、「なら、何一つ価値がないことを証明せよ」と言ってやればいい、ということです(笑

 

まぁこじれた人に対する心理学的、もしくは倫理的、社会的、政治的な回答としては、それは正しい回答ではないでしょうけどね(笑

でも、論理的な回答であれば、そういう回答も面白いかもしれません。

まぁ、健康的には、「そういう人には、一切関わらないこと」が一番かと思います(笑

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