最新作の電子書籍「ストーリー作家のネタ帳 イベント編2―世界観・状況の王道プロット15種」は、おかげさまでリリース中です。

買ってくださった方、お一人お一人に心から感謝ですよ。

ありがとうございます!

 

今日はその関連で、作家さん向けの話をしてみましょうか。

「世界観を魅力的に見せる方法」という、世界観についてのお話です。

 

世界観は、一つの物語に二つある方がいい

「物語の世界観を作る」というと、多くの人が「物語の中では、世界観は一つ」だと思うんじゃないでしょうか。

「世界観は一つである方が、統一されていて優れている」みたいな。

 

でも実際は、世界観は二つないと、世界観に意味が生まれないんですよ。

すなわち、世界観が一つだけだと、「あってもなくてもいい世界観」になってしまいます

 

例えば、写真で一枚の「部屋の写真」を見たとしましょうか。

それは、「普通の部屋」の写真なので、普通の人が見たら「普通の部屋だな」としか思わないわけです。

でも、その後で、「超汚い、ゴミの溜まった部屋」の写真を見せたらどうでしょう。

最初の写真がいきなり、「綺麗な部屋」に変わってしまうわけです。

 

すなわち、綺麗な部屋を見せるだけでは「綺麗さ」は表現できないんですよ。

「汚い部屋」があるからこそ、「綺麗か、汚いか」という軸や筋ができるわけです。

他にも、例えば別の写真として、「大勢で賑わっている部屋の写真」を見せたらどうでしょう。

最初の「普通の写真」が、急に「寂しい世界」と感じられるようになるものです。

 

そうすることで、「綺麗な部屋(世界観)」、「寂しい部屋(世界観)」という風になり、魅力的に演出されることになります。

世界観は、単体では理解できないわけですね。

 

キャラクターでも、対極の存在があると魅力的になる

昨日の記事でも触れましたが、これはキャラクターで考えると分かりやすいものです。

例えば、「臆病者」という性格の主人公がいたとしましょうか。

そんな場合、臆病な主人公だけがいても、よく分かりませんよね。

そこに「勇敢な人」という仲間や敵キャラクターがいることで、主人公の臆病さが引き立つわけです。

すなわち、「臆病か勇敢か」という軸や筋ができると。

 

「冷徹な主人公」には、「穏和で暖かい恋人役」がいることで、二人の違いが際だちますよね。

「几帳面な主人公」と「おおざっぱな仲間」

「暗い主人公」と「明るいヒロイン」

そういう対極があるからこそ、キャラクターが魅力的になるものです。

そしてその軸を中心として、物語が動いてゆくことになります。

 

世界観もこれと同じで、世界観を魅力的に見せるには、「対極となる世界観を、一つの物語の中に入れましょう」ということです。

「輝くような、純粋で素朴なアンティークの喫茶店」を描きたいならば、「濁って不純などす黒い場」が必要になると。

「ほのぼのしていて、穏やかな、田舎の温泉宿」を描きたいならば、「せわしなくて、殺伐としている、都会の競争の場」が必要になると。

そこから軸を作ることで、世界観に意味を持たせることができるようになります。

 

世界観の改善例「化野猫魔譚」

これのいい見本として、昨日の記事でも触れた、Web漫画での「化野猫魔譚」があります。

これが、「一つの物語で、一つの世界観しかない」という典型例です。

この物語での世界観は、「化野神社」という神社が舞台になってます。

そこで、猫又の神様と出会って、恋をしていく……という流れなんですが。

 

これを見たら分かると思うんですが、絵が上手くて、ギャグも面白くて、話の展開も素晴らしいわけです。

でも、「なんか足りない」って気になりますよね。

それが、「その世界(世界観)に意味がない」ということなんですよね。

 

「化野神社」は、世界観的に綺麗な世界になります。

でも、「化野神社」である意味がないわけです。

主人公は別に神社にいなくても、主人公が一人暮らしをしているアパートの自室に神様が来ても、学校の部室にやってきても、押し入れにいても、別にどれだっていいんですよ。

それに、世界観とキャラクターは連動しているので、キャラクターの意味もないわけです。

主人公は学生でなくてもいいですし、ヒロインは猫又でなくとも、犬神でも鳥の妖怪でも、何だって似たような物語にできると。

 

これは、軸がないからこうなってしまいます。

世界観が一つしかないから、「点」でしかないと。

でも、もう一つ何らかの世界観があれば、線、すなわち「軸」が生まれますよね。

その「軸」を中心として、物語を描くことで、物語が意味を持つようになります

 

実際に世界観を追加してみる:「のんびり気まま」対「忙しい成果至上主義者」

じゃあ、意味を追加したらこの物語はどうなるのか、実際に追加してみましょう。

今は点なので、いろんな軸を作れるものです。

例えばヒロインの「猫又(猫)」という性質を考えると、「のんびり気まま」、「わがまま」、「群れない」とかありますよね。

 

じゃあ、ここで「のんびり気まま」という性質から対極を作ってみましょう。

ここでは、対極を「忙しい成果至上主義者」だとしてみましょう。

で、「のんびり気まま」を象徴する世界として「化野神社」「忙しい成果至上主義」を象徴する世界である「学校」を作ったとします。

そして、今回の新作本で紹介している「英雄が無能者になる」というイベントを使ってみましょう。

 

すると、主人公は学校で成績競争に明け暮れている、成績至上主義な学生になります。

「成績が全てだ!」、「それが将来の地位にもなり、収入にもなる!」、「だから競争で勝たなければならない!」とか言っていて、実際に成績ではトップに君臨しているような英雄です。

実際に、多くの人から「すごい」と言われていることでしょう。

でも、主人公は競争に明け暮れているので、敵が多くて、安らげることはありません。

この「学校」という世界が、一つの世界観になるわけですね。

 

その対極が、「化野神社」になります。

この場合、化野神社では、のんびり気ままな人たちが集まることになります。

主人公は、そんなで化野神社で時間を過ごさなければならなくなります。

何らかの事情で家や学校にいられなくなり、夏休みにでも、ここで過ごすことになったとしましょう。

 

すると、そこでは猫のように気ままな人たちが、戦いや競争なんか知らずに、のーんびり過ごしているわけです。

主人公はそんな世界に入って、「ありえない!」と思うわけですね。

でも、そんなのんびりとした人たちと過ごしたり、猫又の神様と時間を過ごして恋をしてゆくことで、「競争だけが全てじゃない」と知っていくことになります。

 

こうすると、軸が生まれて物語が魅力的になりますよね。

そして、「化野神社」という世界観が、「のんびりした場」という意味を持つわけです。

逆に、「学校」という世界観が、「競争の場」という意味を持つと。

で、物語のテーマが「競争世界で安らぐことができないという問題を抱えた主人公が、化野神社での生活を通して、その問題を解決する物語」とできます。

「もう一つの世界観」を追加することで、世界観もキャラクターも、テーマも安定したわけです。

 

実際に世界観を追加してみる:「わがまま」対「他の人のためになる」

別の例では、猫が持つ「わがまま」という性質から対極を作ってみましょう。

この場合、対極として「他の人のためになる」という性質を作れるでしょう。

そこで、「わがまま」を象徴する世界として「化野神社」「他の人のためになる」を象徴する世界として「学校の生徒会」という世界観を作ったとしましょう。

で、ここでも「英雄が無能者になる」のイベントを使ったとすると、主人公は生徒会長で、「みんなのためになる方がいい」という思想の持ち主です。

だから、多くの人から受け入れられて、孤独を癒せているとしましょう。

でも、自分の好きなことができないわけです。

生徒会の仕事が忙しいので、自分の時間が取れなかったり、趣味の活動ができないと。

 

そんなとき、主人公は化野神社という、新たな世界で過ごさなくてはならなくなります。

そこでは、「わがまま」を象徴するかのような、猫又の神様であるヒロインがいるわけです。

主人公は、そんなヒロインに対して「そんなにわがままを言うなんて、ありえない! 許せない!」となるでしょう。

でも、そんなわがままなヒロインと付き合ってゆくことで、主人公も自分の好きなことができるようになってゆく、という流れになります。

 

この場合、ヒロインはわがままでいることで、周囲から好かれずに、孤独を抱えているかもしれません。

主人公は、好きなことをしないことで、みんなから受け入れられる。

ヒロインは、好きなことができるが、みんなから受け入れられない。

そういう軸ができて、物語が動いてゆくわけですね。

 

すると、「化野神社」は「自由にできるが、人から受け入れられない場」となり、「学校の生徒会」が「自由にできないが、人から受け入れられる場」となると。

そんな風に、場(世界観)に意味を持たせることができる、ということですね。

 

まとめ

こんな感じで、世界観を二つ持たせることで、軸が生まれて、世界観に意味を持たせることができます

すなわち、世界観が魅力的になる、ということですね。

このプロットは典型的な流れなので、どんな展開、どんな結末になるのかは「ストーリー作家のネタ帳 イベント編2―世界観・状況の王道プロット15種」を読むと分かります

なので、是非そちらを読んでください(笑

 

世界観も、キャラクターと同じように、対極となるものを同一物語中に配置しましょう、ということですね。

そして、良質な象徴を用いて、世界観とキャラクターをリンクさせることで、「全ての設定が意味を持つ」とすることができます。

これが、良質な世界観を作るコツですね。

 

ということで、今日は「世界観を魅力的に見せる方法」というお話をしてみました。

今日はここまで~。

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