今日は、完全に作家さん向けの話です。
「物語の普遍的構造」と「物語の普遍的な面白さ」の関係について、お話ししてみましょう。
今回は、ちょっと専門的なお話になります。
「物語の普遍的構造」と「物語の普遍的な面白さ」の関係
先日、こういう質問をいただいたんですよ。
「自分の漫画は何が欠けているのか?」を考えてみまして、
「三度の飯よりそれが好き」を入れれば良いのでは無いか?と考えました。一つ疑問があるのです。
「三度の飯よりそれが好き」なことって、興味が無い人からしたら、
全く面白くないのではないでしょうか?
「普遍的な面白さ」を持った作品は、客層を限定しないのでは?
と思うのです。そして…ここまで来て、考えが詰まってしまいました(笑)
「普遍的な面白さ」の正体が分からないのです。
ちなみにこの質問者の方はWeb漫画家さんなんですが、実際にWeb漫画を拝見してみると、ここ1~2年で飛躍的に成長しているんですよ。
それは同一人物が作っているとは思えないほど、成長していて。
そんな人が、うちのサイトや教材からも学んで、さらに悩んで、向上しようと考えているわけで。
「このまま成長したら、この人、数年後にはどんなすごい人になっているんだ!?」とか思わないでもないですが(笑
で、質問の内容に移りましょうか。
私はよく「大好きなことを重ね合わせよう」って言っていますが、物語で言うと、同時に「物語には普遍的な構造がある」って言ってますよね。
これは言うなれば、「大好きなこと(=自分独自のもの)」と、「普遍的な構造(=万人が受け入れるもの)」とが対立しているわけです。
物語に「普遍的な面白さ」があるのなら、それを使えば、誰にでもウケるものができると。
なら、わざわざジャンルを制限したり、ニッチなものにする必要なんかなさそうですよね。
「結局、独自のものと、万人受けするもの、どっちがええねん!?」とか思う人も、ひょっとすると結構いるかもしれません。
「普遍的構造」と「万人向けジャンル」は、別のもの
この回答を結論から言うと、これは一つの誤解から生まれています。
それは、「物語の普遍的構造」と、「物語の普遍的な面白さ(万人受けするジャンル)」は、別のものである、ということです。
「物語の普遍的構造」っていうのは、全ての物語に適応できるものです。
ディズニー映画みたいな万人向け物語から、超マイナーでニッチな猟奇物語まで、全ての物語において、普遍的な構造は適用することができます。
だから、万人受けするものでも、ニッチなものでも、どっちでも普遍的構造を用いることができる、ということですね。
で、ジャンルに限って言うと、ジャンルは限った方が売れ行きはよくなる傾向にあります。
これを正確に言うと、「市場占有率が高い強者や大手ほど、万人受けする方が売れる」、「市場占有率が低い、弱者や弱小チームほど、ニッチなものに絞り込む方が売れる」と言えます。
というのも、万人受けするものは、大手の方が何かと有利なんですよ。
巨大な広告費も使えるので、話題にしやすいですし、知ってる人も多いので、他の人と「あれ、面白いよね」みたいな会話もできますよね。
弱小チームが大手の真似をして、たとえ作品が同じクオリティだったとしても、広告費で負けてしまうと。
同じクオリティでどちらかを選ぶなら、多くの人が、他の人とわいわい話題にできる方を選びますよね。
ましてや弱小チームは、開発費が少ないので、「同じクオリティ」を出すことすら難しいわけで。
一方で、ニッチな業界には、大手は入り込めません。
大手は開発費がかかるので、組織を維持できるほどの高い売り上げが見込まれるような広いジャンルでしか、作品を出せないわけです。
すると、そういう場所では弱小チームの方が有利になるわけです。
ごく限られたジャンルで有名になれば、そのニッチな趣向を持つ人たちの間では、有名になるわけです。
今ではインターネットなどで、同じ趣味を持っている人って、SNSなどでつながっているんですよ。
だから、一人のその趣味を持っている人に知られるだけで、その人がSNSに「こんな作品見つけたよ!」と言うと、同じ趣味を持っている多くの人に、瞬く間に伝わっていくわけです。
なぜ、独自性が必要になるのか
質問には「三度の飯より好きなことを入れると、興味がない人からすると、全く面白くないのではないでしょうか」とありますが、実はまさにその通りです。
ニッチを攻める(ジャンルを絞る)ということは、今は100人ほどアクセスしてくれる「万人」がいるとすると、そのたった1人しか受け入れられないようなことをする、ということです。
ただし、その1人には、他のどこでも味わえないような体験をしてもらう、ということですね。
それが、独自性を出す、ということです。
で、その1人は、だいたい他のSNSみたいなコミュニティにもつながっているんですよ。
そこで、その1人が、「こういうすっごい作品があった!」とSNSに書き込んで、紹介するわけです。
作品がとがっていればいるほど、他の人に教えたくなるものですから。
すると、そのSNSコミュニティにいる100人が、訪れて買っていってくれるわけです。
でも、もし「平凡な万人受け」や、「大手よりも弱い万人受け」作品を作っていたらどうでしょう。
誰一人として話題にしない、ということです。
だから、人も来ない。
来たとしても、「大手の方がいいよな」ってなると、ファンも定着しないと。
で、100人の「万人」が来るよりも、100人の「それが大好きな人」が来る方が、より売れますよね。
「万人」は、来たとしても「同じお金を出すなら、大手の方がよさそうだな」って買っていかないことがほとんどですから。
でも、ニッチを攻めた場合、「それが大好きな人」にとっては、「ここでしか買えない」ものになるわけです。
他で買えないから、どんどん買っていくと。
ひょっとすると、1000人の「万人」が来るよりも、10人の「それが大好きな人」が来るぐらいの方が、売り上げは伸びるかもしれません。
ざっくり言うと、こんな感じでしょうか。
まとめ
だから、「普遍的面白さ(万人受けするジャンル)」と、「物語の普遍的な構造」は別種のものだということです。
その上で、弱小チームの場合、ジャンルを限る方が有利になりやすい、ってことですね。
まあ、理屈では何とでも言えますからね(笑
こういうのは何事も実践なので、「万人受けする作品」と「超ニッチを攻める作品」の二種類を作ってみるのもいいかもしれません。
それで比較検討してみると、自分の方向性が分かることでしょう。
私自身、これで実際にやってみましたが、やっぱりニッチ狙いの方が売れた経験がほとんどなんですよね。
ウケ狙いをしたものは、大抵失敗したものです。
あ、あと、これは余談ですが、アクセス数や評判が落ちていく場合、「どこに公開するか」という問題があります。
人が来る流れというのは、時代と共に変わるんですよ。
例えば私の場合、少し前までは電子書籍はパブーというサイトを使って公開してました。
でも、AmazonのKindleで出版できるようになると、パブーは完全に廃れてしまい、人はAmazonを見るようになったわけです。
技術力は上がっているのにアクセス数や評判が落ちていく場合、「入り口が古くなっている」という可能性も多いものです。
Web漫画を描いている場合、「今、人はWeb漫画をどうやって見るようになったのか」、その主流を見直してみるのもいいかもしれません。
例えばみんながスマホで見るようになっているならば、ひょっとすると「スマホでの表示や操作に対応していない」とか、そういう技術的な部分がネックになっていることもあるかもしれません。
ということで、今回は「物語の普遍的構造」と「物語の普遍的な面白さ」の関係についてお話ししてみました。
質問、ありがとうございました。
今日はここまで~。