さて、今日は昨日に引き続き、作家向けの内容で、「キャラ設定から物語を作る方法」というお話です。
昨日の内容を簡単におさらいしておくと、入門者の人ほど、「キャラ設定だけを作って、物語まで作り切れていない段階で、話を作ろうとしてしまう」というミスを犯しがちです。
物語とは、変化を描くものです。
言うなれば、「○○という問題を抱えた主人公が、△△を通して、その問題を解決する」という流れ(テーマ)を持つことです。
そのために、「その設定であるための、意味を考えましょうよ」と提案しています。
その「設定の意味」を元に、物語を作っていく、ということですね。
「うっかり姉ちゃん」の問題点
今日はもう一つ、前回と同じくガンガンの4コマバトルから、このミスの例を示してみましょう。
今回は、「うっかり姉ちゃん」(みなみかわ先生の作品)という4コマ漫画です。(2016年6月10日までなら、こちらで実際の作品を閲覧できます)
内容はと言うと、主人公は高校生の青年、裕太。
で、主人公には姉がいるんですが、その姉がドジっ子うっかりキャラなんですよ。
姉が「トイレから出てきたらスカートがめくれている」とか、「何もないところでこける」、「下着を着け忘れる」みたいなボケをかまして、そして主人公がツッコミを入れると。
でも、なぜか姉は成績がよくて、周囲から頼られている姿が描かれます。
そして最後に、成績の悪い主人公は、「なぜだ……」と打ち震えて終わり、という流れなんですが。
これも、キャラの設定だけで、物語まで仕上げられていない典型例ですね。
「ギャップを持つ」というキャラ設定だけで、話を作ろうとしてしまっていると。
なぜ、「姉弟」である必要があるのか?
繰り返しになりますが、物語とはそうではなくて、「○○という問題を抱えた主人公が、△△を通して、その問題を解決する」という流れのことです。
だから、ここで「その設定である意味」を考えてみましょう。
そもそも、なぜ「姉弟」である必要があるのでしょうか?
別に姉弟でなくても、近所の幼なじみでも、同性の友人でも、親戚でも、どれでも関係ないですよね。
いわゆる、「姉弟」という設定が全く無意味になっている、ということです。
一応言っておくと、私は姉弟設定とか兄妹設定は大好きです!(笑
姉弟設定大好きで、みなみかわ先生の絵も好みで、状況としてはもう最高なのに、なぜ物語になっていないんだ!みたいな(笑
むしろ姉弟じゃなくて、近所の幼なじみ設定にでもすれば、「二人が恋をする」という方向性を与えられて、恋愛物語としてうまくまとめられるように思います。
「しっかりしてるけど、勉強も人望も全くダメな主人公(青年)」と、「うっかりでドジキャラだけど、勉強も人望も全てうまくこなせる恋人役(少女)」という軸で、恋愛物語として進めていくわけですね。
その上で、恋人役の少女を年上にして、「親の仕事の都合で、幼い頃から互いに預けられっこをして一緒に住んでいたので、主人公は少女を『姉ちゃん』と呼ぶようになった」という程度でまとめるのでいいように思います。
すると、「しっかりしているのに報われない主人公が、少女との恋愛を通して、その問題を解決する物語」というテーマを作ることができます。
物語の構成
なら、テーマを元に、物語(メインプロット)の構成は次のようにできるでしょう。
- 第一幕
- 設定と日常の説明。
- 主人公は、高校生の青年。主人公には幼なじみの少女(恋人役)がいて、主人公よりも一つ年上にあたる。親の都合で幼い頃から互いに預けられっこをしていたので、昔も今も姉弟のように一緒に住んでいる。
- 主人公は「しっかりしているけど、勉強も人望も不運によって報われない」という状態。一方で少女は「うっかりドジキャラだけど、勉強も人望も、幸運で報われる」という状態の説明。
- 少女はいつも、余計なこと(できもしない料理とか、家事とか)をしようとするが、当然いつも失敗する。
- 主人公は性格柄、そんな少女を幼い頃からずっとフォローし続けている。だけど、ずっと少女(姉)だけが周囲から評価されて、自分は全く報われないことに納得がいかなくて、悔しさを感じている。
- 主人公は、「姉ちゃん(少女)さえいなければ、もっと報われて、楽になれるのに」と感じている。
- あるとき主人公は、少女がいつも余計なことをしているのは、「主人公に恩返しをしたいから」だと知る。同時に、少女に対する特別な想いに気づく。
- 主人公はその事実(少女の優しさと、少女への恋心)を受け入れようとしないが、それを示す証拠が次々と出てくる。
- 「少女が主人公を大切にしていて、なんとか報いたいと努力している」と分かる決定的な出来事に触れることで、主人公は「姉ちゃん(少女)のことが好きだ」と受け入れざるを得なくなる。
- 設定と日常の説明。
- 第二幕前半
- 今まで姉としか思っていなかった少女に対して、意識をし始める新たな日常が描かれる。
- 少女と青年に襲いかかる問題を、二人が力を合わせて解決してゆく。主人公のしっかりさと、少女の幸運とで、二人は一緒にいい思いをしてゆく。
- それによって、二人は少しずつ絆を深めてゆく。少女も、いつも助けてくれる主人公に恋心を寄せてゆく。
- 第二幕後半
- 少女に対して、圧倒的に幸運となる出来事が起こる。地位も金も名誉も持つ若者から好かれることで、その社会では最大級の地位や名誉、安全や安泰が得られることになる。
- 一方で主人公に対しては、少女をフォローした結果、圧倒的に不運となる出来事が起こる。地位も金も名誉も住む場所も全てを失い、その社会では最下層まで落ちることになってしまう。
- 主人公は不運を嘆き、少女への嫉妬心を膨らませるが、少女を自分の不運に巻き込ませないためにも、少女と別れることを決意する。
- 少女と一緒にいられる、最後の時間を楽しむ。そして「少女のことが心から好きだ」と感じる。同時に、嫉妬心も解決できずにいる。
- そして少女が若者に返答をする日、少女は主人公への想いから、若者からの幸運を拒絶しようとする。だけど主人公は「姉ちゃん(少女)のせいで、俺の人生は台無しだ」と怒りをぶつける。そして無理矢理少女を若者に押しつけて、少女の幸せのために、全ての不幸を自分一人で負う決断をして、別れる。
- 少女も主人公から拒絶されて落ち込み、結果として若者に身を預けざるを得なくなる。
- 第三幕
- 少女も主人公も、互いが和解して元の状態に戻るまでに、一時の猶予があることを知る。
- 最高の幸運を得た少女だが、主人公がいないことで、日常に幸せと感じることがなくなってしまう。それによって、「どんな幸運よりも、主人公の存在が一番の幸せだった」と気づいてゆく。
- 一方で主人公も、一度はどん底まで落ちたが、少女がいなくなったことで幸運が巡ってきて、すぐに復活して生活は楽になる。でも、「少女がいなくなれば、楽になる」と思っていたのに、そして多くの幸運を得たのに、世話を焼ける相手がいなくて全然面白くない。そこから、「どんなに周囲から報われなくても、少女が笑ってくれることが、自分にとっての一番の幸せだった」と気づいてゆく。
- 和解できる期限が訪れて、二人は再び出会う。そして主人公は、主人公がいないことで、少女が苦しんでいることを知る。同時に少女も、少女がいないことで、主人公が苦しんでいることを知る。
- 二人にそれぞれ、ちょっとした危機が起きる。それを契機に互いは自分の幸運を手放して、互いを助ける。二人は自分の気持ちに素直になって、告白し合い、結ばれる。
- 二人は以前と同じような日常に戻るが、主人公も少女も互いに「これでいいんだ。これがいいんだ」と受け入れて、恋人同士として過ごしてゆくところでハッピーエンド。
このプロット構成は、第二幕前半までは「ストーリー作家のネタ帳」第1巻の「好きになる」、第二幕後半からは第3巻の「打算で付き合う」あたりを参考にすると作れるでしょう。
複合型の、ちょっとトリッキーな構成にしてます。
ちなみに「好きになる」は王道プロットの中でも、特に万能プロットです。
恋愛要素を含む場合、これ一つをマスターしておくだけで、すごく使い勝手がいいものになることでしょう。(無料で内容を見られる具体例がこれ:「プロット作成例:「片思い」」)
実際の4コマ漫画に落とし込む
ならば、今回の4コマバトルの漫画投稿形式では、次のような構成で投稿できるでしょう。
細かく作り込むのは面倒なので、今回は概要を触れるだけにしておきます。
- 1~4コマ目:
- しっかり者の主人公が、ドジを踏む少女の失敗をフォローする。
- だけど、なぜか姉だけが幸運に恵まれて報われ、主人公は誤解されて報われずに、「なぜだ……」と悔しがる部分でオチ。
- 5~8コマ目:
- 少女の紹介と、主人公との関係を説明。「幼い頃から姉弟のように付き合ってきたけど、しっかりしている主人公がフォローして報われずに、ドジな少女が報われる」という問題と、主人公の嫉妬を説明。
- 実際に、まさにそれを具現化するように周囲から誤解されて、主人公が「なぜだ……」と悔しがってオチ。
- 9~12コマ目:
- 主人公は「姉ちゃん(少女)さえいなければ、もっと楽になれるのに」と感じている。そんなとき、主人公は偶然、少女が友人と話している場面に出くわして、少女が「主人公に恩返ししたいのに、できない」と落ち込んでいることを知る。
- 主人公は少女の思いを知って一瞬ときめくが、やっぱり周囲から少女が持ち上げられて、主人公が誤解されて落とされ、「なぜだ……」と悔しがってオチ。
- 13~16コマ目:
- 主人公は、少女が今までしてきたことが、主人公を手助けしようとしていたことだという事実に気づく。
- 再び少女がドジを踏んで、主人公にフォローされる。だけどそのドジは主人公を思って行動しようとしたことだと分かり、主人公は今までとは違って「仕方ないな」と微笑んでフォローをして、恋心を受け入れる。
- でもやっぱり周囲からは盛大に誤解されて、「なぜだ……」と悔しがってオチ。
これで、メインプロットの第一幕を示したことになります。
「ドジキャラの姉(恋人役)」のドジをしっかりと描けて、なおかつ恋愛物語にできていますよね。
こういう風に、「設定の意味」を考えることで、物語を作り出せる、ということです。
「設定に意味があるか」という観点で、作品を見てみる
昨日紹介した「瀬名くんはエロ本に守られている」も、今回紹介した「うっかり姉ちゃん」も、設定そのものはいいんですよ。
ただ、それを物語形式にできていないだけ、ということです。
だから、どちらも物語形式にすることができさえすれば、例で示したような、きちんとした物語にすることができます。
そういう観点で、今回のガンガンオンラインの4コマバトル作品で、ケルベロス先生の「古城さんはこじらせガール」、泉すずしろ先生の「花子さんとあそびたい」、ほしな先生の「高比良さんの恩返し」を見てみましょう。
すると、無意味な設定がほとんどないことが分かります。
こういうのが、「(設定という枠組みにおいて)余分な贅肉がない、洗練された物語」だと言えます。
逆を言うと、例えば「古城さんはこじらせガール」で、「自分は獣耳が好きだから、主人公を獣耳設定にしよう!」とかしたらどうでしょう。
「獣耳設定」というのは、全く無意味になってしまいますよね。
獣耳である意味がないと。
もしその設定を追加したい場合、獣耳である意味を考えて、それを主人公に要素として追加する必要があります。
まとめ
設定から物語を作るというのは、こういうことを意味します。
中核となる設定からテーマを作り、テーマを元にそれぞれの設定を詰めていくと。
その段階で、無意味な設定は省いて、テーマに合う設定にしてゆくと。
そうすることで、それぞれのキャラ設定から、洗練された物語を作ることができます。
一流の作家さんは、洗練されたものを当たり前に作るので、なかなか気づきにくいんですよね。
でもこういう新人作家さんの作品を見ると、問題点が分かりやすいんじゃないかと思います。
ということで、昨日と今日とで、「キャラ設定から物語を作る方法」というお話をしてみました。
今回はここまで~。