今日は作家向けのお話です。
「テーマのない作品にテーマを作る」とはどういうことなのか、というのを、具体例を用いて実際にやってみましょう。
テーマとは、「意味」のこと
「テーマ」って、よく聞きますよね。
「テーマを持たせなさい」とか、よく言われるわけですが。
でも、「じゃあ、テーマを持たせるって、どういうことなの?」って言いたくなりますよね。
「そもそも、テーマって何?」みたいな。
とりあえず結論から言うと、「テーマ」というのは、「意味」なんですよね。
「その作品の意味」と思うといいでしょう。
言い換えると、「何のために、それにしたの?」という、その「何のために?」という部分がテーマになります。
で、「テーマがある」というのは、「何のために」がある、ということです。
「何のために、この作品があるのか」が明快になっている作品を、「テーマがある作品」と呼ぶわけですね。
例えば「ピノキオ」という作品では、「親の言うことを聞きなさい。でないと、ピノキオみたいに苦しみますよ」という、「親が子をしつけるための本」という明快な目的があるわけです。
私が好きなディズニー映画で「カーズ」という作品がありますが、あれは「ファストライフ(早く生きること)だけではなくて、スローライフ(ゆっくり生きること)の両方が必要ですよ、ということを伝えたい」という目的があると。
他にも、「読み手にこの恋心を疑似体験してもらいたい」とか、「読み手に楽しんでもらいたい」、「読み手に怖がってもらいたい」、「読み手に笑ってもらいたい」とか、いろいろありますよね。
そういう「何のために」が、テーマになる、ということです。
意味がかみ合っているから、「作品の意義」が生まれる
「テーマがしっかりしている」というのは、その「何のため」がしっかりかみ合っている、ということです。
例えば主人公が青年と少女だったとしましょうか。
だったら、「なんで主人公は青年なの? なんで恋人役は少女なの?」ということです。
「なんでその設定なの? なんで主人公はその学校に通う必要があるの? ファンタジーでもおとぎ話でも中世ヨーロッパでも時代物でもいいのに、なんでわざわざ現代の学校を舞台にしたの?」
「なんで主人公はそんな性格なの? なんで主人公はその服を着ているの? なんでそんな口調なの?」
それに「意味」があるかどうか、ということです。
意味がない作品ほど、まさに無意味な作品になります。
なんかよく分からないけど、主人公の青年が少女と出会った。
なんかよく分からないけど、恋をして、結ばれた。
無意味であればあるほど、つまらないものですよね。
だって、まさに「意味がない」んですから。
人は、意味があることほど、重要視します。
でも、意味がないことほど、「無駄だった」と感じます。
なら、物語に価値を与えたいなら、「意味を作ればいい」わけです。
この、「作品でキャラがどうするこうする」という次元とは別に、「意味があるない」という次元のことを、「意味次元」と呼ぶことにしましょう。
これは私がよく言っていることですが、たとえナンセンス作品だったとしても、ナンセンス作品は「ナンセンスで笑って欲しい」という、意味次元での意味を持つわけですね。
登場キャラは無意味なことをしていたとしても、意味次元では「読み手に笑って欲しい」という意味があると。
でも、多くの作品で、登場キャラがいろんなことをしているのに、「意味次元での意味がない」ということがあるんですよ。
これが、「テーマのない作品」になります。
まあ、テーマがないことは現実ではありえないので、正確に言うと「テーマ性の薄い作品」でしょうかね。
実際に、テーマの薄い作品に、テーマを加えてみる
じゃあ、実際にテーマが薄い作品に、テーマを加えてみるとどうなるのか、実演してみましょう。
以前も紹介しましたが、「老女的(おばあちゃん)少女ひなたちゃん」という漫画があるんですよ。
「なんで電子書籍版で出ないんだ!」ということで、電子書籍版が出るのを待っている状態なんですが。
で、第1話のお試し版で見た限りですが、実際にテーマを加えてみましょう。
まずは実際に、第1話のお試し版を見てみましょう。
あらすじを簡単に言うと、主人公の女の子「ひなたちゃん」は、88歳で死んだお婆ちゃんが、過去の記憶を持ちつつ、子どもとして再び生まれ変わっちゃったわけです。
そして、そんな「体は5歳の子どもだけど、心は88+5歳のお婆ちゃん」が、その智恵で周囲の人たちを助けていく、というお話です。
キャラはすっごく可愛くて、設定も素晴らしくて、面白いですよね。
ストーリー構成も抜群で、絵もお話作りも上手いと。
ただ、全体的なプロットとして「何か足りない」もしくは「何かおかしい」って気がする人もいるんじゃないかと思います。
意味次元で考えると、この「設定の違和感」に気づけるようになります。
じゃあ実際に、ちょっと以下の問題に考えてみましょう。
「なんで、お婆ちゃんだった主人公は生まれ変わったんでしょう?」
「なんで、記憶を持ち続けているんでしょう?」
これらの中核となる設定に、意味があるかどうか、ということなんですよ。
例えば、本来あるべき姿ってのは、ひなたちゃんの体には「別の子どもの魂」が宿るはずだったわけです。
その魂を押しのけて、お婆ちゃんが子どもの体を乗っ取ってしまったと。
意味次元で考えると、こういう問題が出てきてしまうわけです。
だったら、こういうものがテーマに関わってくるものなんですよ。
ただ、第1話だけから予想するに、おそらくその意味は作れていないかと思います。
それは、「何のために生まれ変わったの?」が明快にされていないからですね。
もしそれが明快にされていれば、おそらく商品説明でも「このために生まれ変わったひなたちゃんが、こうしてゆく」というテーマが説明されるはずですから。
まあ本当は第2話を見ないと、これは分からないんですけどね。
テーマを加えるには、どう考えればいいのか
じゃあ実際に、私がこの作品にテーマを与えるならばどうするか、実演してみましょう。
「なぜ、生まれ変わったのか?」、「なぜ、記憶を持ち続ける必要があったのか?」という、意味次元の問題がありますよね。
こういうのは、だいたい成仏できない幽霊とかと一緒なんですよ。
そこで、意味を持たせるとするなら、これは「思い残したことがあるから」とできるでしょう。
すると、ひなたちゃんは、「思い残したことがあるから、生まれ変わった」と意味を作れます。
ひなたちゃんは、子どもの状態で、一つ一つその「思い残したこと」を実現してゆきます。
そして全ての「思い残したこと」を実現した時に、ひなたちゃんの中にある「お婆ちゃん」は成仏して消えて、元の「子どもとしてのひなたちゃん」に戻る……という流れを作れるでしょう。
幽霊と一緒ですね。
どうでしょう、今まで方向性(目的)がなかった作品が、ぐっと方向性(目的)を持って、緊張感が出ましたよね。
その場合、私なら物語の第2話辺りで、「ひなたちゃんは、思い残したことをするために生まれ変わった」と、誰かに使命を説明させるでしょう。
それを伝えるのは、占い師とか、僧侶とか、イタコでもいいでしょう。
ひなたちゃんは、自分が成仏するために、周囲の人を助けてゆくと。
きっとラストでは、「身内の中で、一番心配していたこと」を手助けして、実現することでしょう。
そしてみんなの笑顔の中で、お婆ちゃんは今度こそ本当に、満足して死んでいくと。
その後、「子どもとしてのひなたちゃん」に戻って、あるべき姿に戻る、という流れになります。
最後はちょっと切ない終わり方になりますが、こうすると、物語が方向性を持って、まとまりますよね。
これが、「テーマ」になります。
すなわち、「設定に意味を持たせる」ことが「テーマ」を作る、ということにもなると。
実際にプロットを作ると、こうなる
実際に私がこのプロットを構成するならどうするかを、実際に作ってみましょう。
最後はハッピーエンドにするために、先に触れた「元の子の魂」は考えないようにする、としましょう。
また、「おばあちゃんが笑った」という短編読み切り作品があるので、この作品との整合性もつけることもしてみましょう。
(第一幕)
- 冒頭では、主人公であるお婆ちゃんが事故で死んだと思ったら、記憶を持ちつつも、孫の子ども(ひ孫)として生まれ変わってしまいます。
- お婆ちゃんは「ひなた」という名を与えられて、すくすくと育っていき、5歳になります。
- 周囲には、自分がお婆ちゃんの記憶を持つことを、秘密にしています。生まれた子がお婆ちゃんだとか知ると、きっとがっかりするからです。
- そんなあるとき、ひなたちゃんは「自分が生まれ変わった」のだとようやく気づきます。でも、なぜ生まれ変わったのかは分かりません。(ここまでが第1話とほぼ同じ設定です)
- そんなとき、メンターとなるうさんくさい僧侶と出会い、「君は生まれ変わりだね」と見抜かれてしまいます。
- そしてその僧侶から、「思い残したことをしなさい。すると、君は成仏できますよ」と言われます。
- 最初はひなたちゃんは、「思い残したことなんかないはずだ」と思うでしょう。
- そんなあるとき、一つの思い残したことを思い出します。それは、何か身内の苦しみがあるとしましょう。
- ひなたちゃんがそれを陰から助けることで、自分が少しすっきりしたことが分かるでしょう。そして、「確かに思い残したことがあった」と受け入れることになります。
- こうしてひなたちゃんは、自分を成仏させるために、お婆ちゃんの智恵を使って、「思い残したこと」である周囲の人たちを幸せにしてゆくことになるのです。
(第二幕前半)
- ひなたちゃんは、一つ一つ、思い残したことを実現してゆきます。
- 我が子の問題を解決して、孫の問題を解決して、親戚の問題を解決して、知人の問題を解決するでしょう。お婆ちゃんだった頃の友人である他の老婆を、見送ることもあるかもしれません。
- そのたびごとに、ひなたちゃんはみんなから感謝されて、愛されるようになっていきます。
- 同時に、ひなたちゃんは、思い残すことが少なくなっていって、次第に「成仏する時が近いかな」と予感していきます。
(第二幕後半)
- そしてついに、ひなたちゃんにとって、「おそらくこれが一番の心残り」という問題に取り組み始めます。
- それが解決する前夜には、ひなたちゃんはみんなから、盛大に6歳の誕生パーティーをしてもらうでしょう。
- それによって、ひなたちゃんはみんながかけがえのない存在だったと気づくのです。みんなへの感謝も、ここで伝えきっておくことでしょう。
- そしてついに、当日が訪れます。
- ひなたちゃんは、一番心残りだったその身内の問題に対処して、困難を乗り越えつつも、見事に成し遂げるでしょう。
(第三幕)
- ひなたちゃんは、「後は成仏するのを待つだけだ」と思い、日々を安らかに暮らし始めるでしょう。
- でも、いつまで経っても成仏しません。なので僧侶に会いに行って問いかけると、「最後に思い残したことがあるはずだ。それは君が16歳の誕生日になったら分かる」と言われてしまいます。
- ひなたちゃんはその後も育ち、周囲の人々を助けつつ、ついにタイムリミットである16歳の誕生日を迎えます。
- その日、ある青年と出会います。そしてその青年は、おじいさん(生前のお婆ちゃんの夫)の生まれ変わりだと分かるのです。
- そしてひなたちゃんは思い出します。「おじいさんとは結婚して子を宿した後すぐに、運命によって引き裂かれてしまった。生前も好きだったのに、恋らしい恋の交流ができなかった」のだと。
- ひなたちゃんは若い青年(おじいさん)の手を取り、頬を赤らめながらも、「今度こそ、最後まで添い遂げます」と約束します。青年(おじいさん)も恥ずかしがりながらも、微笑んで受け入れるでしょう。
- 僧侶は「今度こそ、最後までしっかりと二人で生きなさい」と微笑んで、ハッピーエンドへと導かれます。
どうでしょ、ぐっと方向性が出てきて、魅力的になりましたよね。
しかも、意味次元での整合性も取れた上に、ちゃんとハッピーエンドにできてますし。
まとめ
こういう、物語に意味を持たせることが、「テーマを持たせる」ということになります。
こうすると、一つ一つの設定が「必要なもの」になりますよね。
生まれ変わったことも、お婆ちゃんの記憶を持ち続けていることも、全てに意味を持たせられると。
すると、筋が生まれて、引き締まる、ということです。
「原稿用紙は多くとも9枚以内に収める」とか言いながら、余裕で今回も12枚オーバーしてしまいましたが(笑
テーマ作りの参考にしてくださいませ。
ということで、今日は「テーマのない作品にテーマを作る」とはどういうことなのか、というのを、具体例を用いて実際にやってみました。
今日はここまで~。