今日は作家向けの内容です。

Kindle無料配布漫画のストーリーを解説してみましょうか。

 

最近、気分転換がてらに、Kindleの無料配布漫画をちょくちょく見てるんですよ。

で、参考になる部分とか、勉強になる部分があったので、その内容をご紹介してみましょう。

(ちなみにここで紹介している多くの作品が、期間限定での無料配布です。なので期間が過ぎると有料になっているため、実物を見てみたい場合、価格にご注意くださいませ)

 

今回は、以下の作品について語ってみましょう。

  • 東京喰種トーキョーグール
  • イエスタデイをうたって
  • 執事様のお気に入り
  • 喰いしん坊!

 

石田スイ「東京喰種トーキョーグール」:「主人公の拒絶」が上手い作品

まず最初が、「東京喰種トーキョーグール」(1巻2巻3巻)です。

アニメ化もされているので、知っている人も多いかもしれません。

私は見ての通り、あんまり血みどろなものとかは得意ではないんですよ(笑

タイトルだけは知ってたんですが、ずっと敬遠してたんですよね。

でも、これを見て「あ、これはしっかりしたお話だ」と感じたり。

 

物語の内容はと言うと、「喰種(グール)」という、人肉を食べる、人そっくりな生命が世の中に潜んでいる世界でのお話です。

主人公の男の子がある日、その喰種に襲われてしまい、ひょんなことから自分自身が「半喰種」になってしまいます。

喰種たちにも生きてゆかなければならない理由があるわけで、人間たちから迫害されつつも、必死に生きようとしていることを主人公は知ってゆきます。

そして、主人公は喰種の世界と人間の世界を行き来することで、両者の対立を止めようとしてゆく……という内容です。

第3巻までで、全体の第1幕までのちょうど区切りのいい場所で終わります。

 

これは「ストーリー作家のネタ帳」の1巻で紹介した、「人間以外のものが意志を持つ」というイベントの典型例ですね。

このイベントを、バトルとサスペンスで実現したら、この作品のようになります。

同種のイベントを用いた作品としては、「寄生獣」があるでしょう。

寄生獣が好きな人は、この作品も楽しめるかなと思います。

 

この作品のすごいところは、第1巻から起こる主人公の「拒絶」の部分なんですよ。

物語の第1幕では、「日常」があって、次に「冒険への誘い」があって、「主人公の拒絶」、「メンター」、「第一関門」と続きますよね。

その拒絶の部分が、「これでもか!」というほど強烈に演出されているんですよ。

 

まあ元々が、「喰種になると、人の肉しか食べられなくなる」という設定なので、これも強烈なんですが、ここでの主人公の拒絶ぶりがすごいことすごいこと。

「拒絶」部分のよさで言うと、ピカイチですね。

「物語で起こった事件の重大さ」というのは、「主人公の拒絶」において、主人公がどれだけ大きな拒絶をするかで認識される、というのが分かるいい例だと思います。

 

すなわち、物語冒頭で読み手に「とんでもないことが起こった」と思わせれば思わせるほど、読み手を物語に引き込むことができますよね。

その「とんでもないこと」の度合いというのは、「主人公がどれだけ強烈に、それを拒絶するのか」で決まる、ということです。

この物語の主人公のように、襲いかかる「冒険への誘い」に対して、拒絶すればするほど、逃げれば逃げるほど、あがけばあがくほど、読み手を引き込むことができる……という、いい事例かと思います。

 

ただ、「人肉を食う」という結構えぐい設定なので、見てみたい場合はその辺にご注意ください。

 

曽田正人「昴」:「無能者が英雄になる」の典型例

お次が「」(1巻2巻3巻)です。

「め組の大吾」、「capeta」で有名なお方の作品ですね。

物語としては、主人公の女の子「昴(すばる)」が、ダンスを通して英雄になってゆく、という英雄譚です。

 

この作者さんは、「ストーリー作家のネタ帳」第2巻で示した「無能者が英雄になる」というイベントで物語を構成する人なんですよ。

これは主人公が社会的なヒーローになるので、男の子向けになりやすいんですが、この漫画もまさにそのイベントで構成されています。

この作品は主人公が女の子なので、最初はちょっと違和感がありますが、慣れれば男の子向けの内容と同じなので分かりやすいかと思います。

もうね、まさに「無能者が英雄になる」の典型なので、「ストーリー作家のネタ帳」の第2巻と見比べてみると面白いでしょう。

 

ちなみにこの漫画の1巻まるまるで、私が提案している「ストーリー十四のステップ」での、「喪失と抑圧」という部分が用いられています。

「神話の法則」の12のステージでは、この喪失部分が定義されていないんですよ。

なので、「神話の法則」で物語を解析しようとすると、解析に不具合が出てしまう典型例ですね。

そういうこともあって、「ストーリー十四のステップ」で解析すると、この物語の構成が分かるでしょう。

 

漫画では、第3巻の最初で、物語の第1幕が終わる、ぐらいの展開です。

かなりストイックで悲壮感が強いお話なので、これもご注意くださいませ。

 

冬目景「イエスタデイをうたって」:「詩」を作るとこうなる

お次は、「イエスタデイをうたって」(1巻2巻3巻)です。

いつ見ても、この人の絵はすごいですよね。

「カイダンにっき」とか「アルフール小国物語」の晴十ナツメグさんの絵も素敵ですが、この方の絵も、見ていてため息が出るようないい絵で。

第1巻は15年前にもなる作品なのに、確かに多少の時代は感じつつも、今でも十分に通用する絵で。

 

物語としては、現代風味な恋愛物語で、過去の痛手を引きずる主人公や登場人物たちが、不器用ながらも生きてゆく、というお話です。

この記事を書いている時点で、私は1巻までしか見てません。

 

この作品に限らず、この作者さんの物語を解析しようとすると、多くの人が戸惑うかと思います。

というのも、この作者さんの物語は「解析できない」んですよ(笑

 

それはなぜかというと、この作者さんは「物語」を作ってないんですよね。

なら何を作っているのかというと、これは「詩」になります。

実際に、第1巻の最初から最後までを見てみるといいでしょう。

最初と最後で、主人公や周囲の人物の状態は、「何も変わっていない」ことが分かります。

 

「物語」とは、変化してゆくものを描きます。

一方で、「詩」とは、情景を描きます。

言うなれば、物語は動画で、詩は写真、ということですね。

で、この人は、詩を描いている、ということです。

だから、物語の構造では解析できないわけですね。

 

これは裏を返すと、詩だけで漫画何冊も描いているわけで、とんでもないことなんですよ。

普通、詩っていうのは、短いものですよね。

それは、例えば1枚の写真でも、見て感動を味わったら、それで終わりじゃないですか。

一場面の面白さというのは、所詮その程度しか続けられないわけですね。

それを、この作者さんは、緊張感を途切れさせずに何冊も描いているわけです。

 

なぜこんな芸当ができるのか。

それは、この作品では、第1幕での「冒険への誘い」と「拒絶」を延々と繰り返している……とも言えるでしょう。

そうすることで、主人公や周囲の人物は、ずっと同じ状況に居続けているわけですね。

 

変化へのきっかけが訪れる。だけど変化が怖くて、動けずに終わってしまう。

そうして決めゼリフは、「やっぱり僕(私)は、いつまで経っても同じことを繰り返してしまう」ですね。

そして緊張とその解放、希望と自己嫌悪を繰り返し、退廃的で変化ができない場所に居続けながら、同じ心境を何度も何度も語ると。

 

詩のように、一つの情景をメインに構成する場合、そういう構成法もある、ということです。

そんな風に、1つの心情や情景を描写したい場合、「日常」→「冒険への誘い」→「拒絶」→「冒険への誘い」→「拒絶」→……→「拒絶」→「メンター」→「第一関門」と構成することで、奥行きが出せるでしょう。

で、クライマックスで、主人公たちが変化への一歩を踏み出すことになります。

すなわち第一関門を乗り越える部分がエンディングになると。

 

詩なので、本編(第2幕以降)は必要ないわけですね。

これも、物語技術を応用した、一つの詩的技法かなと思います。

 

伊沢玲、津山冬「執事様のお気に入り」:古くて懐かしいキャラ設定

次は、「執事様のお気に入り」(1巻2巻3巻)です。

見ての通り、普通の少女漫画です。

物語の内容としては、普通の主人公である少女がある日突然、超リッチな人たちが通うお嬢様学校に転校することになります。

そこには主人公が通うお嬢様コースとは別に、「執事コース」という執事養成コースがあります。

普通の女の子である主人公が、その執事コースでの優等生であり、すっごい家柄の御曹司で、かつ全校の女子からあこがれるような青年と恋をしてゆく、というお話です。

もう王道でしょ(笑

 

最初の数ページを見ただけで、「ああ、こういう展開になるんだろうな」と先が見えて、やっぱりそういう展開になると(笑

使い古された手法がこれでもか!と、使われています。

15~20年ぐらい前の作品かと思いきや、2007年から出された作品のようで。

「今でもこういうコテコテなものはあるんだ」と、ちょっと驚きだったり。

 

まあ幼い子は物語を味わっている絶対数が少ないですからね。

なので、幼い子向けの少女漫画はどれも、基本的に見た目重視の同じ手法が使われるんですよね。

 

王道を研究したい場合、はっきり言ってこういう「正統派」が一番分かりやすいんですよ。

大人向けよりも、幼年向けの方が、構造がシンプルですからね。

そういう点でも、しっかりとしたプロットを作っている、安心して見ていられる作品ですね。

ストーリーを作っている人も、おそらくベテランさんでしょう。

 

ちなみにこの主人公は、いわゆる「長屋のオバチャンタイプ」という、鈍感で図太い系の性格なんですよ。

こういう図太い系の主人公って、久しぶりに見たような気がします。

最近は繊細な気持ちを持つ主人公が多いので、こういう図太い系は絶滅危惧種ですよね(笑

ちなみにこの記事を書いている時点で、私は1巻までしか見てません。

 

土山しげる「喰いしん坊!」:物語構成が上手いベテラン作品

最後が、「喰いしん坊!」です。

見ての通り、ブルーカラー(肉体労働者)というか中高年男性向けの、グルメ系漫画ですね。

物語としては、グルメ好きサラリーマンである主人公の青年が、大食いで活躍してゆく英雄譚でしょうかね。

可愛い女の子など一人も出てこずに、むさいオッサンばかり出てきます(笑

少女漫画からブルーカラー向けまで何でも見るという、私の節操なさが見て取れますが(笑

 

これも、「ストーリー作家のネタ帳」第2巻の「無能者が英雄になる」の派生版と言えるでしょう。

 

もうね、内容はさほどないんですよ(笑

「出されたものを、美味しく食べる」みたいなコツはあるんですが、ただただ美味しそうに食べる、みたいなノリで(笑

でも実際のところ、物語構成としては、今回紹介した中で、この作品が一番素晴らしかったですね。

1話1話の完成度と、次につなげる余韻、そして全体のストーリーホイールを回していく流れとか、もう圧倒的なクオリティです。

 

作者さんも相当なベテラン漫画家のようですが、見ていて安心するクオリティですね。

メジャーになればなるほど、「どの話もコンスタントに面白い」が大切になるんですよ。

いわゆる、「時折出る飛び抜けたよさ」みたいな「最高得点の高さ」が求められるのではなくて、「最低限これだけはいつでも出せる」という「最低得点の高さ」が重要なわけですね。

で、この作者さんは、その最低得点が圧倒的に高いと。

だから、コンスタントに面白いものを作り続けられると。

 

久しぶりに、「この人のストーリーは素晴らしい」と感じた人でした。

 

まとめ

そんな感じで、今日はだらだらと、一般向け漫画についてお話ししてみました。

参考になるかどうかは分かりませんが、まあこういう見方もありますよ、ということでどうぞ。

 

ということで、今日はKindle無料配布漫画のストーリーを解説してみました。

今日はここまで~。

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