今日はちょっと、思い出話でもしてみましょうかね~。

私がソフトウェア会社を辞めた時のお話です。

私は大学を出てソフトウェア会社に就職したんですが、雇われが嫌で嫌でたまらなくて、「独立しよう」と決意したんですよ。
で、運良く成果を出せたので、1年9ヶ月で会社をやめることになりました。

そのときは、ちょうど私はスタッフさんにも「褒めて動かす」という効力を実感していた頃だったんですよ。
相手を褒めると、喜んでくれて、しかもしっかりと仕事をしてくれると。

そういう「褒める力」が好きで好きでたまらない時期だったので、辞表が受理されてから退社までの「よし、どうせなら辞めるまでに会社の人たちを褒めてみよう」って思ったんですよね。

 

手始めに、同期の女の子を褒める

まず手始めに、同期で人事部に入った女性がいて、辞める時の人事関連でお世話になったので、その感謝をちょっと大げさにメールで伝えたんですよ。
すると、そのメールの返事がすぐに来て、もう文面からあふれ出んばかりの喜びと、やりがいと、充実感が出ていたんですよ。
「私、この仕事ができて誇りに思う!」みたいな。

そんな返事をもらえると、私も嬉しいですよね。
それに、その女性社員は、そんな風に感謝されたのは初めてだと思うんですよ。
というのも、だいたいその会社へはソフトウェア開発をするつもりで入社したはずで、でもその女性は人事部に回されたわけで、明らかに「意図しなかった配属」だったと思うんですよ。
でも、私の感謝でその人は今の仕事にやりがいと充実感を見つけて、精力的に仕事ができるようになったわけです。

これって、すごいことでしょ。
たった一通の感謝メールが、その人の人生や姿勢に大きく影響できるんですから。

私は昔から人に影響を与えることが多いタイプではありますが、このときに「褒めるのは、こんなにも人に幸せと喜びをもたらすのか!」と実感できたものなんですよね。

もうそれで気をよくした私は、「褒め魔神」と化したんですよ(笑

 

褒めるメインターゲットを決定、褒めるのはこの課長だ!

ちなみに私は営業、開発、研究の三部門の企画部を短期間で経験して経営陣との人脈を作るという、会社内でも「超エリートコース」にいたんですよ。
(そういう期待されていた人が「辞める」と言い出したので、それはまぁいろいろありましたが(笑))

どうせ褒めるなら、一番褒めるのに値する上司を褒めようということで、当時開発部の企画部署でK課長という上司がいて、この人は尊敬できる人だったんですよ。
「なら、この人を褒めよう」ということで、動き出しました。

会社を辞める時に、もう相当「上役」の人たちとやりとりせざるを得なかったり、人事部の人とやりとりしたんですが、そのときに言うんですよ。
「最後に、一つ私から言わせてもらっていいでしょうか」と。

すると、相手は「辞める人が最後に言いたいこと」だから、本音中の本音だと思いますよね。
そして相手が「何を言うんだろう。会社のひどいところを言うのか」と身構えるわけです。

そこで私は、「システム開発部の企画課のK課長は、とても素晴らしい上司だと思います。あの人は能力もあり、ビジョンもあり、部下をモチベートするスキルもあり、教育もしっかりしてくれる、素晴らしい上司です。私はあの人を尊敬しています」って言うわけです。

すると相手は、まさかそんなことを言われるとは思わなかったように、はっとした顔をして、「そうか」と言うわけです。

そういう風に、人事部やら会社のお偉いさん方に、ことあるごとに「K課長は素晴らしい」、「尊敬できる素晴らしい上司」と言いまくったわけです(笑
これでK課長の査定はうなぎ登りのはず!(笑

 

退社が迫ってきた時の、K課長とのやりとり

で、会社を退社する日が迫ったある日、仕事が終わる定時間際にそのK課長から呼び出されたんですよ。

「この後、ちょっと一緒に出よう。どこか店に飲みに行こう」と。

私は当時、独立前で激務だったわけですが、さすがに「いいえ」とは言えない雰囲気で、一緒に行ったわけです。
そして二人で飲んで、でもこの時は、他愛もない話で終わったんですが。

さらにその数日後、K課長と一緒に、ちょっとした大手会社(PCを使っている人なら誰でも知っているような世界的に有名な会社)のパーティーみたいなのに参加したんですよ。
そこで、その会社の超重役に「この人がこの会社でこれこれこういう仕事をしてくれた人です」と、私を紹介してくれて、その重役と握手したわけです。

そのすぐ後に、ぽろっとそのK課長がもらしたんですよ。

「俺には、これぐらいしかしてやれないからな」と。

K課長は、私が影で人事部やらお偉いさん方に褒めまくっていたのを知っていたんですよ。

なので、K課長にできうる最大の報いとして、その超有名な会社の重役、いわゆる「普通では会えないようなすごい立場の人」に会わせてくれたんだと。
まぁ私はそんなオッサンと握手をしても面白くも何ともないんですが(笑

でも、そのK課長の一言が、とても心に残ったんですよね。
そっか、そこまでして、私に礼を尽くしてくれたのか、と。

 

ついに退社、ひとりぼっちの独立

私が退社するその当日、私は1年9ヶ月という短い期間で辞めるということもあって、逆風はそれなりにあったんですよ。
古い体質の、いわゆる「年功序列制度」が強烈に残っている日本の典型的企業でしたし、私自身も会社を辞めることを前提で仕事をしていたので、同僚とかともあまり仲良くせずにいました。

だから、私は会社内ではひとりぼっちでした
一人で荷物を片付けて、引き継ぎを終わらせて、「今までありがとうございました」と簡単に挨拶をして。

「これで最後か」と、希望と不安とを胸に、誰の見送りもない、たった一人きりで始まる独立。
その日は私だけ午前だけで終わったので、門の周囲には、守衛以外は誰もいないわけです。
でも、やっぱり少しだけ、寂しいものですよね。

 

K課長からの、最後の電話

門を出て、「もう二度とこの門を通ることはないんだな」と思ってしばらくしたら、携帯が鳴ったんですよ。

K課長からでした。
「そういや、念のために、この書類にサインしておいてくれるかな。まだ近くにいるだろう?」と。

で、門まで戻って、K課長と会うわけです。
その書類っていうのは、本当にどうでもいい書類だったんですよ(笑

でも、そのときに、K課長が励ましてくれたんですよ。
「君の人生は、君のものだ。信じた道を歩きなさい。いい人生になることを祈っているよ」と。
そんな風に、私の門出を祝福してくれたわけです。

K課長は、わざわざそのためだけに、そういう用事を作って、見送りに来てくれたわけですね。

私はそれが分かってもう目頭が熱くなるのをこらえながら、深々と頭を下げて、「今までありがとうございました」と感謝して。
そしてその課長に見送られて、私は独立したわけです。

 

人の冷たさ、人の温もり

独立がらみでは、いろいろありました。

信頼していたと思っていた直属の係長が、私が会社を辞めると聞いたら手のひらを返したように冷たくあしらうようになったり、私の陰口を言っていたと知った時は、やはりやりきれない寂しさがあったものです。
「組織から出る」ということを通して、人間の裏側を垣間見ることもありました。

でも、あのたった一人だけ見送ってくれたK課長の暖かさは、今でも感謝していて、私の中でも暖かい思い出の一つですね。
それ以来、うちのスタッフさんが独立したり、プロになったりする時は、できるだけ祝福して送り出すようになりました。

そういう、人の冷たさと、温もりを感じた、独立をした時の思い出でした。

 

ってことで、最後はちょっとしんみりしましたが、そんな私が会社を辞めた時のお話でした。

今日のお話はここまで!

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