今日は、時代の流れについてお話ししてみましょう。
情報に価値がなくなり、体験に価値が生まれる時代、というお話です。
情報に価値がなくなってきた時代
以前、とあるプロの漫画家さんが、「漫画は無料で見るものだという風潮ができてきて、苦しい」と言っていたんですよ。
実際に最近では、漫画はウェブで見る時代になりましたからね。
私自身、2~3年ぐらい前までは、「漫画はツタヤレンタルで見るもの」という感覚でした。
それが今では、もう完全に「漫画はウェブ連載で、無料で見るもの」という感覚になってます。
実はこれは漫画だけでなく、いろんな業界で起こっていることだったりします。
すなわち、「情報」に価値がなくなってきた、ということですね。
今日はそんな時代の流れと、これからどういう方向に重みを置けばいいのか、そんなお話をしてみましょう。
「ここ数年で、漫画のレベルが急に上がった」という現象
最近、「これ、面白そうだな」という無料配布のコミックをダウンロードして見ていると、時々驚くことがあるんですよ。
それが、すっごいレベルの高い漫画なのに、作者が後書きで「初の単行本で、嬉しいです」、「初の連載で、頑張ります!」とか書いているわけです。
「ええーっ、こんなにレベルの高いものを作るのに、ようやく初の単行本とか、初の連載なの!?」みたいな。
それが一度だけでなく、何度もあって。
実際、ここ数年で漫画のレベルもかなり上がりましたよね。
10年、20年前の一般的な漫画と比べてみても、明らかにストーリーも絵もよくなっていて。
そして、ウェブコミックサイトでは、毎日膨大な数の連載が流れていて。
もはや私たちは、「何を見ないか」という感覚で、「たとえ無料でも、無駄な漫画を切り捨てる」というスタイルになっています。
で、自分の感覚に合ったものだけをピックアップして、楽しむと。
あふれるようになると、どんどん価値は落ちていく
価値というものは、たとえそれが品質の高いものでも、それがあふれるようになると、どんどん価値が下がってゆくという性質があります。
例えば昔、きれいな浄水は高価なものでした。
でも、水道と大規模浄水場が整備されると、浄水がどんどん提供されるようになって、今では水はほぼ無料の感覚ですよね。
電気でも同じで、電気そのものが発明されたぐらいの時期では、とても高価なものでした。
でも、電線とか発電所が整備されると、電気がどんどん提供されて単価が落ちて、電気もさほど気にせず使うようになりました。
それと同じで、インターネットが出る前ぐらいまでは、情報に価値がありました。
「私はこれを知っている」というのが優位点になっていたわけですね。
でも、インターネットという基盤と、ウェブサイトというコンテンツが整備されると、情報がどんどん提供されるようになりました。
すると、水や電気と同じように、情報の価値も落ちていくわけです。
下手な専門家よりも、素人の方が詳しい時代
だから、今では下手な専門家よりも、情報検索能力がある素人の方が、専門的な知識を持っている時代です。
なので今では、「知りたい知識」は、検索すればすぐに見つかるようになりました。
それもそのはずで、多くの人が日常で使う情報ほど、日常的に調べて、wikiなりまとめサイトなりを作って仕上げているんですから。
しかも、ほぼ無料でそれらをまとめて、提供しているわけです。
また、情報は基本的にどんどん積み重なっていって、消えることがありません。
すると、インターネットが登場する以前では、「私は化粧品について詳しい」とか、「私は足の痛みを引き起こす原因に詳しい」とかで、知っていることそのものでビジネスができたものです。
でも今では、「化粧品 比較」とか、「足の痛み 原因」とかで検索すれば、その辺の専門家以上に詳しい解説が出てきますからね。
「情報としての作品」は価値が失われてゆく
そういうこともあって、例えばアフィリエイト系サイトでも、比較系サイトとか商品紹介サイト、単純な情報紹介サイト(開封の儀とか、使ってみたとか)のサイトはどんどんすごい競争率になって、立ちゆかなくなってきています。
だって、そういうのは買ったお客が喜んで、情報を無料で公開していますからね。
素人でも「開封の儀」とか「使ってみた」とか言って、動画を撮って、いくらでも動画サイトにアップできると。
それとか、データベース系サイト(詳しいノウハウを解説するサイト)とか、チュートリアル系サイト(作り方を教えるサイト)も、どんどんアクセス数は減ってゆくことでしょう。
それは、情報(「私はこれを知っている」)というものを売り物にしているからですね。
同じように、漫画とか小説でも、「情報としての作品」の価値は、どんどん失われていきます。
この「情報としての作品」とは、作者が「私は恋愛に詳しい」とか「サスペンスに詳しい」という風に、知識勝負で作品を作っている場合になります。
そんな知識で作ったとしても、今ではそういう情報にアクセスできる素人が山のようにいるわけですし、素人でも作れるような無料漫画作成ツールだってあるわけで。
すると、今では毎日のようにツイッターとかpixivで素人によるハイクオリティな漫画が公開されていて、しかもそれが無料で出てくるんですから。
よっぽどニッチなものでない限り、それは水とか電気と同じように、価値が失われていって当然ですよね。
「体験を売る」という発想
これは、そういう時代の流れということで、もはや止められません。
時代の流れに気づけない漫画家や小説家は、「時代が悪い」とか、「世の中が間違っている」とか嘆くかもしれません。
でも、時代の流れを見誤ると、確実に落ちていきます。
じゃあこれからどうすればいいのかというと、それが「体験を売る」ということですね。
情報はいくらでも保存して、コピーして他者に与えることができますが、体験は今のところウェブには保存できません。
例えば「あの店のラーメンがおいしい」、「あの店のラーメンはこういう盛り付け」という文字や画像はウェブに保存できても、「あそこで食べたラーメンの味」、「あの店の独特な雰囲気」という体験はウェブには保存できません。
それとか、「あのミュージシャンのライブがある」という情報は保存できても、「ライブ、すっごいよ゛がっだあぁぁぁあ゛あ゛!」という感動体験は、保存したり人に与えることはできませんよね。
それは、ラーメン屋に行って食べたり、ライブに参加しなくちゃ味わえないものなんですから。
「漫画の先にある体験」を考えよう
そういう意味でも、私が次世代の漫画家モデルとして注目しているのが、なぐも。さんですね。
まぁこのブログでもよくネタにしてますが、ピザとピッツァの違いを描いていた人です。
例えばこの人は、自分がソーセージを食べたいからと、ドイツまで行って食べてきたんですよ(笑
で、「ドイツのこういうソーセージ、こういうプレッツェルがおいしかった」というのを、漫画で紹介しているわけです。
すると、読み手は「そういうの食べてみたい!」と感じて、実際にソーセージを食べに行ったり、プレッツェルを味わったりすると。
実際、私もすっごいソーセージを食べたくなりましたから(笑
すなわち、読み手は漫画を楽しむのではなくて、漫画の先にある体験を楽しむわけですね。
言い換えると、漫画を楽しむのではなく、「漫画を通して、自分のライフスタイルを変えて楽しむ」ということです。
いや、もちろん漫画そのものも面白いんですよ。
だけど、漫画という情報そのものに価値を置くのではなくて、お客はその先にある体験を得たいから、漫画を見ているわけです。
「奥行きのセット」までも考える、ということ
ある意味、「漫画」だけでなく、「漫画から生まれる奥行きのセット」を考えましょうよ、ということです。
すると、漫画そのものにもガイドとしての価値が生まれて、漫画も売れるようになると。
これをビジネスの観点で言うと、これからの漫画は、フロントエンドの広告媒体にしかならない、ということです。
漫画を売っても利益にならないなら、何かしらのバックエンドの商品が必要になりますよね。
グッズを売ったり、関連商品を売ったりと、別部分で実際の利益を出すわけです。
そのバックエンドを「体験」として提供していく、ということです。
例えばホラー系漫画を描いている場合、ただ単純にホラー漫画を描くだけでは、情報になってしまいます。
でも、そういう恐怖を実際に現実で味わえる場所とか、部屋の工夫とか、それを実際に再体験できる何かがあれば、楽しみ方に奥行きが生まれますよね。
すなわち、漫画を通して、実際に現実で「うわ、本当だ、何これ怖い!」という体験を味わってもらうと。
漫画はコピーできても、そういう体験はコピーできません。
なら、体験を導くためのガイドとして、漫画が売れるようになる、ということです。
小説でも、イラストでも、商品紹介サイトでも同じです。
小説なら、そういう感情を実際に体験できる場所やシチュエーション、空想の楽しみ方、歴史の味わい方を教えることもできるでしょう。
イラストなら、例えば廃墟絵を描いていたら、実際の廃墟を味わえる場所とか、イラストの元となった場所とかに案内できるかもしれません。
商品紹介なら、どう使えばより楽しめるのか、工夫を教えることもできるでしょう。
まとめ
そんな風に、これからのお客は、単に情報ではなく、レベルがワンランクアップした「体験できるもの」を欲しているんだ、ということです。
ある意味、「情報を与える」ではなく、「作品を通して楽しみ方を与えて、実際の生活の中でそれを楽しんでもらう」という発想です。
「私はこれを知っている」という風に、知識を優位点にしたビジネスは、業界トップ3以内に入らなければ、どんどんダメになっていくでしょう。
そういう競争に勝てない場合、人のライフスタイルに影響するような、体験(楽しみ方)を与えるといいでしょう。
「私でもできた!」、「私でも味わえた!」そういう要素を加えて、立体的な商品にしてゆくといいんじゃないかと思います。
すると、より時代に合ったものを提供できて、利益にしてゆけるかと思います。
まぁ、もう少し分かりやすい例を思いついたら、また説明します(笑
ということで、今日は「情報に価値がなくなり、体験に価値が生まれる時代」、というお話をしてみました。
今日はここまで~。