今日は、作家向けのお話です。
「ストーリーの補助線」を引けば、簡単に整合性のある物語を作れる、というお話です。
なぜ、たった4~5日で1本のプロットを仕上げられるのか
物語を作っている作家さんの場合、プロットとか物語の流れを作るのって、時間がかかりますよね。
人によっては1本の物語を考えるのに1ヶ月とかかけたり、下手すると2~3ヶ月とかかかってしまうこともあるかもしれません。
「もっと早く物語を作れればいいのに」とか、思う人も多いかと思います。
一方で私は、今は他の人のプロットを作っているんですが、最近はだいたい4~5日ぐらいで一本のプロットを仕上げています。
全部、今までこのブログに書いてきたプロットのクオリティで、それがさらに詳細になっているもので。
これ、ストーリー関係者なら、思わず笑ってしまうようなスピードでしょ(笑
これがどれだけとんでもない速度なのか、分かる人には分かるかと思います。
だって、ノベルゲーム1本(4キャラ攻略)のプロットを、3週間程度で仕上げるスピードですから。
なら、なぜこんなスピードを出せるのか、今日はそのコツをご紹介しましょう。
それが、「ストーリーに補助線を引く」という考え方です。
「目に見える情報」だけでは、限界がある
他の人のプロットを作る上で、いろんな人の設定資料を見ていて、気づいたことがあるんですよ。
それが、ただ雑多に「目に見える情報だけ」を描いていることですね。
作家向けの教材本では、よく「キャラクターの設定を書きまくれ!」みたいな教えがあるじゃないですか。
性別、身長、体重、出身地、血液型、家族構成、所持品、宗教、思想、果ては腕の長さとか足の長さとか、「そんなもん物語に必要?」みたいなものまであったり。
中には「100項目書き出せ!」みたいな体育会系なノリもあったりだとか。
それはそれでいいのかもしれませんが、もっとスマートに、しかも楽に作ることができる、ということですね。
それが、「目に見えるものを手放して、目に見えない補助線を描きましょう」ということです。
「ストーリーでも、絵のようなパースを取る」という考え方
背景絵を描く場合、「パースを取る」という考え方があります。
これは背景を描くときに、背景の「見たまま」を描くのではなくて、「目に見えない補助線」を追加することで、簡単に全体の整合性を得られるようにする技術ですね。
当然補助線は目に見えないものなので、現実には存在しない、架空の理論です。
そして、背景を描くのにわざわざそんな理論を追加で学ぶ手間も増えるでしょう。
ですが、そのちょっとした補助線があるだけで、細かな位置の整合性を取らなくてすんで、膨大な手間を省けるわけです。
しかも、「見たそのままを正確に描こうとする」よりも、全体の整合性が得られるという優れもので。
この補助線があれば、細かい観察眼や能力がなくても、ほぼ素人でも整った背景が描けます。
ストーリー作りでも同じで、そういう「目に見えない補助線を描きましょうよ」というのが、私の提案していることです。
背景絵で言うと、「見たまま」の二次元世界ではなくて、「全ては立体である」という概念を持ち込んで、三次元にしています。
次元を増やして、立体的に把握することで、簡単に整合性をとれるようになると。
それと同じで、ストーリー作りでも、もう一つか二つ、架空の次元を追加して把握しましょうよ、ということですね。
「時間軸」という次元で補助線を引く
一つ分かりやすい次元は、「時間軸」という次元を追加することです。
これは入門者におすすめで、設定を作る際に、「物語が進むにつれて、その人物(もしくは人物同士の関係)はどう変化をしてゆくか」という次元で考えてみるといいでしょう。
「時間軸での変化」という、目に見えない補助線を引く、ということですね。
作った設定の中でも、どんどん変化していくものと、全然変わらないものがあります。
ここでは、「変化のない設定」はどんどん捨てていきます。
時間軸次元では、「時間と共に変わってゆくもの」が大切で、これをピックアップして、どう変わってゆくのかを見てゆく(設定してゆく)わけです。
一番変わりやすいのが、「キャラの動機」です。
例えば恋愛物語では、「最初は無関心」→「ちょっと好きになる」→「本気で好きになる」→「嫌われることにおびえるようになる」→「自分はふさわしくないと感じて落胆する」→「相手が自分を好きだと知って、安心する」みたいな流れがあるかもしれません。
すると、「ここは無関心状態だな」とか、「ここはちょっと好きな段階だな」とか分かって、動機で整合性がとれますよね。
すなわち、「ここはこういう行動要因で動いている」という補助線が引けると。
これはキャラごとに補助線を引けるので、それだけ様々な区切り(補助線)を引けることができます。
次に変わりやすいのが、「キャラ同士の関係」です。
これは特に人間ドラマとか、状況が刻々と変わるような緊張感のある物語で使われやすいものです。
例えばバトルものやサスペンスでは、「最初は敵対関係」→「一時的に、味方同士の関係」→「最大の相棒関係」→「互いに反目して別れた関係」→「ラスボスとしてその相手と戦う関係」みたいな流れがあるかもしれません。
恋愛物語では、「ただの幼なじみ関係」→「片思いの関係」→「互いに意識し始めている関係」→「片方が片方を拒絶する関係」→「両思いの関係」みたいな流れがあるかもしれません。
これは、動機とは別の、もう一つの補助線になります。
もっと細かいことになると、容姿の変化だったり、武器の変化とか、メタファー(暗喩)となる持ち物の変化などがあるかもしれません。
そういう風に、補助線をいくつか組み合わせていくことで、パースのようにアバウトな枠組みを作ることができるようになります。
パースでは、補助線があれば、「この空間はビルを描く」、「ここはビルと空とを区切る、その境界となる線を入れればいい」というのがぱっと見で分かりますよね。
それと同じように、「この時間は、主人公は片思いをしているけど、恋人役は無関心だな」、「ここはその区切りで、恋人役が主人公を好きになるきっかけを入れればいいんだな」と、時間軸で何を描けばいいのかが、分かるようになります。
すると、物語の最初から最後まで、「ああ、ここはこういう状況を描けばいいんだ」、「ここはこういう変化を起こす、変化のきっかけを配置すればいいんだ」と簡単に分かるので、矛盾なく、整合性のあるプロットを簡単に作れる、ということです。
「意味次元」という高度な次元で補助線を引く
そういう時間軸での補助線もありますが、でもこれは「整合性をつける」程度でしかなく、「面白さ」を作ることはできません。
物語を作る場合には、「矛盾していないか」よりも、「面白いと感じるかどうか」が重要になります。
そこで、「時間軸」よりもさらに高度な次元として、「意味次元」を考えます。
これは私がよく言っているので、聞き覚えがある人もいるかもしれません。
空間+時間軸を含めたものを4次元空間だとすると、意味次元を考えるのは5次元空間で考えるのと同じです。
これを考えることで、物語に意味を与えられて、読み手は「面白い」と感じるものになります。
この辺から、だいぶ思考力やイメージ力を問われる概念になるんですが(笑
これは、空間に時間軸という次元を加えたのと同じ要領で、「時間軸を持つもの」に対して、さらに「意味」の変化を考えてみましょうよ、ということです。
その物語の「意味」がどれだけ変化をするか、そこを見るわけですね。
読み手は意味があるから「面白い(価値がある)」と感じて、意味がないものには「つまらない(価値がない)」と感じます。
例えば恋愛物語でも、ただ意味もなく主人公と恋人役が出会って、意味もなくキスをして、意味もなく結ばれても、面白くないじゃないですか。
でも、そこで読み手が、「これは私と同じ境遇だ」、「私はこの物語に触れることで、過去の傷を癒やせる」とか感じたら、強烈な意味が生まれて、「面白い(価値がある)」と感じるものです。
で、「意味」とは「問題」を指します。
すなわち、「問題」がどれだけ変化するかを見てゆくことになります。
問題が変化しないような時間軸の変化は、重要ではないと。
じゃあそこで、例えば「主人公は以前に痛い失恋をして、恋ができなくなっている」という意味(主人公が抱える問題)を追加するわけです。
すると、「主人公が問題を持っているが、それで安定している」→「事件が起こることで、問題を持っていることが発覚して、問題を自覚する」→「問題への対処に拒絶する」→……みたいな流れになります。
そんな風に、時間軸での変化に対して、「意味(問題)」という次元で様々な補助線を引いていくこともできます。
いや、ほとんどの人が、ここまで読んで「あんた何言ってんの?」みたいに意味不明状態だろうとは思いますが(笑
まとめ
そういう風に補助線を引けば、細かな具体的なことを考えなくても、整合性のあるプロットを簡単に作れることができます。
その「ストーリーにおけるパース」みたいな補助線の理論をマスターすればいいだけです。
背景絵師さんがパースを引くのと同じように、作家さんもストーリーのパースを引きましょうと。
これができれば、「整合性のあるプロットを、4~5日で仕上げる」という驚異的なスピードも普通にできるようになります。
まあ「意味次元」は上級者向けなので置いておくとしても、「時間軸」という次元を考えるだけでも、だいぶ変わるかと思います。
だいたい、ほとんどの時系列変化って、結構パターンがあって、似通っているんですよね。
意味次元ともなると、もうどの物語もほとんど同じです。
絵でも、パースの補助線だけを見れば、一点透視法だとか、二点透視法だとか、いくつかのパターンがありますよね。
それと同じで、ストーリーの補助線も、ほぼ似たようなパターンです。
実際に、私が書いた「ストーリー作家のネタ帳」シリーズは、キャラクターの設定を山ほど描いているわけではないのに、物語として機能しています。
これはある意味、補助線だけで物語を描いた、シンプルな物語です。
そんな風に、設定を100個も書き出す必要なんかなくて、補助線だけでも十分に整った物語として作ることもできます。
その補助線を認識できるようになれば、プロットレベルで悩むことはなくなります。
これは少しコツを学ぶだけで大きく変わるテクニックなので、是非やってみるといいでしょう。
ということで、今日は「ストーリーの補助線」を引けば、簡単に整合性のある物語を作れる、というお話をしてみました。
今日はここまで~。