昨日、小説家とシナリオライターの違いについてお話ししたので、そのつながりで今日は、作家入門者向けに、技術のお話をしてみましょうか。
物語において、「描写力」はどれぐらい必要なのか、というお話です。
「描写」でつまずく。どうしたらいい?
作家志望の方からこういう質問をいただいたんですよ。
私は小説家志望なんですが、たいていの小説家志望がつまづくのが、「描写」だと思うんです。
よく「説明でなく描写しろ」といいますが、描写について詳しく書かれた本が、ほとんどないんです。
もし『ミステリー「トリック」の作り方』の常識反転法みたいな感じで、描写文を簡単に書ける方法があったら、すごく助かります。
入門者の場合、こういうことを感じる人も多いかもしれません。
実際に、「貴方には描写力がありますか? プロの小説家になるには、描写力が必要ですよ」とか言われると、すっごい自信がなくて、不安になる方ばかりじゃないでしょうか。
そして、「描写力を鍛えなきゃ」とか思って、調べようとするわけです。
でも、多くの場合、不安から動くと、不安をどんどん増大させるんですよね。
すると楽しめなくなって、集中できなくなって、結果として身につかないことが多いんですが。
ちなみに、プロの作家さんに「貴方には描写力がありますか?」とか質問してみるといいでしょう。
おそらく、第一線で活躍しているような人ですら、9割5分ぐらいの率で「私は描写力などない」と答えるでしょう。
それぐらい、みんな自信がないものなんですよ(笑
これは描写力に限らず、専門的な技術について「貴方はこの技術を極めていますか?」とか言うと、実力がある人であればあるほど、「まだまだです」と答えるでしょう。
実際、どんな道だったとしても、深さは限りなくあるものなんですよね。
だから、まずは「自分には描写力がない」という不安は、持つ必要などない、ということです。
私から言わせると、そんな風に人を不安にさせて、「お前には能力がない」みたいなことを言う人の助言なんて、どんなにその人が成功していても聞き入れる必要はないと思います。
「貴方は既に、やりたいことを十分にできる力を持っていますよ」ということです。
なぜ、その技術が必要なのか
その上で、技術について語る場合、より大きな視野から入ることが重要になります。
「そもそも、なぜその技術が必要なの?」みたいなことから入る必要があると。
でないと、その努力というのは、全くの無意味なものになることが多いんですよね。
多いというか、ほぼ無意味なものになるものなんですが。
これは、こう言っている人がいると思うと、分かりやすいでしょう。
「私は大阪に行きたいという志望者です。できるだけ早く行くには、できるだけ速く走れなきゃいけません。大抵の志望者が、『速く走ること』でつまずくと思います。でも、速く走る方法を書いている本がないんです。どうすればいいでしょう?」
「いや、新幹線使えばええやん」
みたいな感じです(笑
確かに、速く走れれば、早く着けることも多いでしょう。
でも、より広い視野を失ってしまうと、その「速く走る能力」をいくら磨いたって、無駄になることが多そうですよね。
「描写力」も、それと同じです。
その技術は、どれぐらいの重要度のウェイトなのか
例えば、知り合いに第一線で活躍している作家さんがいたら、実際に質問してみるといいでしょう。
「プロとして活躍する上で、描写力は、ネタ作りからプロット作り、執筆、推敲、仕上げ、販売、人付き合い、健康管理、情熱、モチベーション、それらを含めた全ての技術の上で、どれぐらい重要なウェイトを占めますか?」みたいに。
おそらくきっと、「描写力にかけるウェイト」というのは、極めて小さなものになるんじゃないかと思います。
逆を言うと、入門者の多くの方は、そんな「必要なウェイト配分」に意識が回っていないんじゃないかな、とも思います。
だから、「描写力がありますか?」とか言われると、とたんに「それが全てだ」と勘違いしてしまうと。
そして道を踏み誤ってしまうわけですね。
実際、「次が人生最後の作品になります。何を書きますか?」と言われて、描写力云々を考える人なんかいないでしょう。
なら、毎回毎回の作品を、「次が最後の作品」だと思って作るなら、もっと違う発想になるかと思います。
私はゲームシナリオを主体に書いていましたが、「描写力」なんて技術は、今までほとんど考えたことないんですよ(笑
昨日も触れましたが、ゲームシナリオをやっている人って、「情景描写」をする必要はさほどないんですよね。
それらは背景や立ち絵、全画面CGに任せればいいわけで、不要な説明はプレイヤーのストレスになるだけなので、とにかく「簡潔な説明」で済ませようとするようになります。
だから、シナリオライターが書く小説は、基本的に「説明」がメインになるんですよ(笑
シナリオライターが書くシナリオになると、もう「説明」しかないわけです(笑
それでも楽しめますし、ファンもできて、売れるんですよ。
描写力は重要なんですよ。
それは言うなれば、映画で言う「カメラアングル」、漫画で言う「コマの構図」になるでしょう。
ずーっと同じようなカメラアングルとか、構図だと、やっぱり飽きますよね。
でも、カメラアングルや構図というのは、映画や漫画の面白さの中では、その程度のウェイトだということです。
ジャンルによって、必要とされる能力は変わる
で、スポーツ漫画やアクション漫画なら構図は大切でしょうが、4コマ漫画とかは、構図ってさほど重要ではありませんよね。
ぱっと思いつくところで言うと、「賭博黙示録カイジ」とかも、さほどこった構図ではありませんし。
いや、ちゃんと恐怖感をあおるいい構図で、それなりの技術はあるんですが、スポーツ漫画などと比べると全然レベルが違いますよね。
すなわち、自分のジャンルによっても、必要とされる描写力や描写スキルっていうのは変わるものです。
そういう「大きな視野」をすっ飛ばして個別の技術を求めても、無駄になりやすいんですよね。
そんな枠組みを考えることなしに、技術論を語ることなんか、無意味でしかないと。
すると、次に「じゃあ、大きな視野で技術を身につけたいんです。どうすればいいですか?」という質問が来ると思うんですよ。
その究極の答えを一言で言うと、「楽しくやってりゃ、必要な技術は身につく」でしょうか(笑
「プロになるには、この技術が必要だと思うんです。だから、学ばなきゃいけない」っていうのは、なんか楽しくないですよね。
「しなきゃいけないからする」みたいな姿勢でしょ。
クリエイティブなことって、「苦しんで、頑張ってする」というものではないんですよ。
単調作業部分は「頑張る」でしょうが、「クリエイティビティーを発揮する根幹の部分」は、頑張ってするものではないと。
これは言うなれば、強烈な「楽しい」に乗っかって、どばーっとやっていたら、気がついたら高みにいた、みたいなノリです(笑
「結局のところ、何を書きたいのですか?」、ということですね。
それによって変わるんですよね。
それを究極に問い詰めると、「結局のところ、私はこの人生で、何をしたいのか」に行き着くと。
だから、このブログでも、そういう「人生とはうんぬん」みたいなことを多く触れているわけです。
そういう視点なんですよ。
まとめ
だから、質問の答えとしては、こんな感じでしょうか。
「描写力にこだわることはありませんよ。
それを学ぶのが面白そうなら、調べるといいでしょう。
もし世の中になければ、それを自分が研究して、新たな道、新たな新境地を造り出せばいいでしょう。
するとその分野では、貴方はパイオニアかつ第一人者になるでしょう。
そしてそれが、貴方の使命になるかもしれません」
こうやって、人は何らかのパイオニアになってゆくわけですね。
まあ、質問者の方は大丈夫かなと思います。
こういう疑問を言葉に表現できるだけで、実はすごい才能なんですよ。
その場、その場で自分なりの疑問を追いかけていれば、道は見えてくるかと思います。
ということで、今日は「描写力は必要なのか」ということについてお話ししてみました。
質問、ありがとうございました。
今日はここまで~。