今日は、久しぶりに作家向けなお話です。
作家が陥る、プロット失敗のナンバーワン事例についてお話ししてみましょう。
久しぶりに、素晴らしい物語に出会いました
久しぶりに素晴らしい物語に出会ったので、ご紹介しましょう。
雨隠ギド「甘々と稲妻」
物語の内容はというと、心温まる、家族的な恋愛物語です。
主人公は二人いて、一人はまだ幼い子どもを残して妻に先立たれた男性教師、もう一人は幼い頃に父親を失った女子高生の少女です。
で、その教師と少女はある日、互いの打算から、一緒に料理を作って食べるようになります。
そして、料理を通して互いの心を癒やしてゆく……という流れになります。
少し専門的な説明方法で言うと、メインプロットは、「ストーリー作家のネタ帳 第3巻(人間ドラマ・人間関係)」で紹介した、「打算でつながる」の構成になります。
もうね、これ、私の好みのど真ん中です(笑
これは、身近にある小さな幸せに気づかせてくれる、優しい物語なんですよ。
普通では「そんなの普通やん」という小さな幸せが、大きな幸せに感じられるような、そんなささやかでも暖かいお話です。
私は「千の夏と、ひとつの冬」という家族的な恋愛物語を書きましたが、まさにそれと同種のものですね。
「他人である主人公たちが互いに出会い、他人同士なのに、家族のような、家族以上の深い絆を作ってゆく」という内容です。
私はこういう家族的な恋愛物語がドツボなんですよ!(笑
正直、ここ最近は好みの物語に出会うことがほとんどなくて、「他人の物語に触れること」そのものがつまらなくなっていたんですよね。
でも、この物語は、久しぶりにそんな気持ちを吹き飛ばしてくれて、「物語にのめり込む」という感覚にさせてもらった作品でした。
いや~、もう大好き!
あ、でも、単純に私の好みというか、私のツボなだけなので、他の人にはおすすめしません。
ただ、現時点では第3巻まで見ていますが、第3巻までの内容で言うと、私がここ10年で触れた物語(私が書いたものを除く)の中で、最も素晴らしい物語でした。
ちなみにここ10年で最もよかった物語の第2位は、ディズニー映画「カーズ」ですかね。
まあ、私は私が作った物語を一番愛する人なので、本当の意味では「自分の作品が最高」なんですが(笑
作家が最も陥りやすい、プロット失敗事例
ただし、第3巻まで見て、「ああ、この作者さん、これをやっちゃったか……」という、プロット上での重大なミスがあったんですよ。
なので、第4巻以降を見るのがとても怖い状態だという。
で、そのミスというのは、プロットがうまくいかなくなる失敗原因でダントツトップを飾る、作家が最も陥りやすい失敗内容だったりします。
その失敗原因ナンバーワンの内容というのが、「メインディッシュの先出し」です。
すなわち、「メインプロットのクライマックスで用いるはずの感動を、前倒しして使ってしまう」ということです。
料理で言うと、「前菜が終わったぐらいに、メインディッシュの料理を少し出してしまう」というような過ちです。
一番目立つメインディッシュを少しでも味わってしまうと、途中の料理がすべて「さっきの料理にはかなわないな」となって、さらには本当のメインが来ても「またこの料理か」となってしまうと。
だから、「メインディッシュを(たとえ少しだったとしても)先に出す」ということをしてしまった時点で、後のすべてがつまらなくなってしまうわけです。
これが、作家さんが陥りやすいプロット失敗のダントツナンバーワン原因です。
メインプロットの感動は、先出しすると緊張感がなくなる
メインプロットのクライマックスで使う対立とか葛藤、感動って、すっごい威力があるものなんですよ。
だから、作家さんはどうしても、「早くその感動を作りたい」と思ってしまいがちです。
で、その誘惑に負けてその感動を演出してしまうんですよね。
場合によっては、途中でどう盛り上げていいのか分からないから、先にメインディッシュを出してしまう……ということもあるでしょう。
こうして、後のすべてが盛り上がらなくなってしまう……となってしまうわけです。
「甘々と稲妻」でも、第3巻のラストで、このプロットミスをやっちゃってしまったんですよ。
すなわち、メインディッシュを先出ししてしまったと。
細かいことを言うと、本来は、この第3巻のラストはメインプロット第一幕の第一関門になるので、ここでは教師は自発的ではなく、別要因で「仕方なく」一緒にいるような流れにするのが正解です。
すると、第4巻からの第二幕で、「二人がそれぞれ料理ができるようになることが目的。目的を果たせば、二人は別れることになる」とか、「料理する場を使えるのは、期限付き。その期限が来るまでしか、一緒にいることができない」みたいに、物語に目的と期限を設定できます。
それによって、「料理を味わえば味わうほど、一緒の時間を過ごせば過ごすほど、別れが近づく」みたいな緊張感を持たせることができます。
緊張感があるから、全体が引き締まる
物語を連載する場合、物語の中にある一番の葛藤(メインプロットの葛藤)は、最後まで残しておく必要があります。
でないと、緊張感がなくなってしまうんですよね。
たとえば「日常の小さな幸せ」を味わう場合、「少しでも風が吹けば、その小さな幸せが消えてしまう」という緊張感があるから、その幸せが大きなものとして感じられるわけです。
他の例で言うと、恋をしている二人がいたとしましょうか。
すると、「二人はいつか、別れる運命である」とか「二人は別れるような、誤解をしている」みたいな緊張感があることで、親密になってゆくことにも、心をふれあわせることにも、葛藤と感動が生まれるわけです。
でも、そこでそれらの緊張感を奪ってしまうと、張りがなくなってしまうんですよ。
「いつでも幸せな中の、小さな幸せ」を演出したって、ありがたみは感じられないと。
小さな幸せですら得られない状況だからこそ、もしくは小さな幸せですら得られなくなると分かっているからこそ、小さな幸せが得られた時に、感動するわけです。
一緒に居続けることができない状況だからこそ、一緒にいる一瞬が輝くと。
たとえば「ドラえもん」でも、「ドラえもんの最終回」ってネタがありますよね。
ドラえもんは「不必要な力を得る」(ネタ帳第4巻)の王道プロットなんですが、だいたいあのプロット構成では、ああいう最終回になるものなんですよ。
でも、それを先に出しちゃうと、後が面白くなくなると。
だから、どんなに感動できる最終回だったとしても、連載を続けている限り、たとえ作者が死んだとしても、公式では最終回を出してはいけないと。
そうすることで、毎回毎回の面白さを保っているわけですね。
まとめ
そんな風に、作家が陥りやすいプロット失敗原因ナンバーワンは、「メインディッシュの先出し」になります。
これは、とにかく気をつけるといいでしょう。
これをしてしまうと、その後のすべてが機能しなくなってしまいます。
これを回避するには、しっかりと「メインプロットはこれを使う」と設計しておくことです。
そうすることで、「この葛藤とこの感動は、最後まで出してはならない」と分かって、最後まで緊張感を保つことができます。
「甘々と稲妻」では、第3巻のラストでそれをやっちゃっていて、続きを見たいんですが、ある意味見たくないという葛藤を抱えていたりします(笑
「ああ、ここからメインプロットが発散してしまい、物語の目的が散漫になるんだろうな」と落胆を予測しつつも、「でもひょっとすると、自分が知らない新たな解決策があるのかも」とかいうわずかな希望を持っていたりして。
まあ、どのみち続きはしっかりと見るんですけどね(笑
プロットを作る場合、こういうミスが一番多いんですよ。
これはもう、ダントツナンバーワンのミスなので、作家さんは注意するといいでしょう。
ということで、今日は「作家が最もやってしまう、プロット失敗事例」ということでお話ししてみました。
今日はここまで~。