今日は作家向けのお話です。

漫画「くまみこ」のメインプロットを復元する流れを説明してみましょう。

 

漫画「くまみこ」が抱えるプロット的な問題

数日前にも紹介しましたが、ここんとこ漫画「くまみこ」にはまっています。(ここで、第3話までの閲覧が可能です

 

内容はというと、主人公である中学生の少女「まち」は、東北のド田舎で、クマをあがめる神社の巫女をしています。

そして、恋人役であるヒグマの「ナツ」とは、幼い頃から一緒にいるので、心から信頼し合っている仲です。

でも、少女は田舎でしか生きられないような性格なのに、田舎にコンプレックスを抱えていて、「都会の高校に行きたい」というこじれた夢を持っています。

もし少女が都会に行くことになれば、恋人役のクマは主人公と別れなければなりません。

それでもクマは、本当は別れたくないのに、少女の夢のために都会の生活ができるように手助けしてゆく……という流れになります。

 

これはいいキャラクター設定で、物語としてもいい構造になっているんですよ。

で、最初(第3巻まで)はいいのに、第4巻あたりから急にペースダウンしてしまい、迷走が始まるんですよね。

そして、第6巻になっても、ほとんど第1巻から話が進んでいない状態になるわけです。

すると、「ああ、これはこの作者先生、メインプロットを見抜けていないな」というのが如実に見えたわけです。

なので、今回はこのメインプロットを見てみることで、迷走の原因を解き明かしてみましょう。

 

(注:なお、以降では吉元ますめ先生著「くまみこ」のネタバレ&展開予測が含まれます。楽しみを損なう恐れがあるので、吉元先生のファンの方であったり、「くまみこ」の続きを楽しみにしている方は、以降は閲覧しないようにお願いします)

 

メインプロットを復元する流れ

作家さんが多く抱える問題として、「ここからどう話を展開すればいいんだろう?」、「どう変化をつければ、盛り上がるんだろう?」、「描きたい場面はあるけど、どう場面と場面をつなげばいいんだろう?」みたいに悩むことがありますよね。

これはほとんどの場合、全体の筋を見抜けていないから起こることです。

「この物語は、最初はこうなって、次にこうなって、最後はこう終わらせる」、という流れがうまくできていないから、悩むわけですね。

その「全体を貫く一本の筋」のことを、「メインプロット」と呼びます。

 

そういう場合、細かいことを考えるんじゃなくて、一度シンプルに全体の筋考えてみるといいんですよ。

作者がメインプロットを見抜けていれば、行き詰まることはなく、ちゃんと一連の話として構成できるようになります。

そして、「最初から最後まで、面白い」と感じるお話を構成できるようになります。

 

じゃあ、どうすればそんなメインプロットを作れるのか。

それが、もう耳タコ状態かもしれませんが、その物語から「○○という問題を抱えた主人公が、△△を通して、その問題を解決する」という流れを見極めることです。

 

なら、「くまみこ」では、まずはどういう問題があるかを考えます。

すると、「主人公の少女が、都会に全く合わない性格なのに、都会の高校に行きたいという『叶うべきではない夢』を持っている」という問題を抱えていると分かります。

これさえ解決できれば、他の全ての問題は解決しますからね。

すると、メインプロットの基本的な流れ(テーマ)は次のようにできると分かります。

「都会の高校に行きたい」という叶うべきではない夢を持った主人公の少女が、恋人役であるクマとのやりとりを通して、その問題を解決する物語……になると。

 

王道プロットから、メインプロットを復元する

なら、後は簡単です。

「叶うべきではない夢」を持っていることから、これは王道プロットの「三角関係を持つ(願いが叶う)」(「ストーリー作家のネタ帳」第3巻収録)になると分かります。

それに当てはめれば、すぐにメインプロットを導き出せます。

細かい調整は必要なくて、もうそのままの王道構成でOKです。

 

すると、メインプロットは次のように構成できると分かります。

 

  • 第一幕:
    • (日常) 欠点を持つ主人公の日常。
      • 舞台は東北地方山中のド田舎。主人公は中学生の少女で、クマをあがめる神社の巫女をしている。恋人役はクマで、人間の言葉をしゃべり、人間と一緒に生活している。でも、そのことは村だけの秘密であることの説明。
      • 人間とクマが結ばれる世界観である、という前振り。実際に、人間とクマが結ばれて子どもを産んで、村の先祖になったという出来事の紹介。
      • 少女とクマは、幼い頃から一緒に生きてきたという過去の説明。だから誰よりも深い絆で結ばれている。
      • だけど、少女は田舎でしか暮らせないような性格なのに、「こんな田舎は嫌だ」と、田舎コンプレックスを抱えている。
    • (冒険への誘い) 少女が「都会の高校に行く」と言い出す。そして、恋人役のクマさえそれを認めれば、少女は都会の高校に行けるという状況になる。
    • (拒絶) クマは、「少女は都会には行ってはいけないタイプだ」と、少女の夢を拒絶する。
    • (メンター) クマがメンターとなり、状況を説明する。少女は田舎コンプレックスをこじらせているだけだということ。少女はろくに街まで服も買いに行けずに、機械音痴で、未だにかまどでご飯を炊いているような、都会には合わずに田舎に適した人だと。
    • 実際に少女に対して、都会人なら分かる問題や課題を出して少女を試すことで、「少女には都会は合わない」と示してゆく。(ここまでが試し読みできる第3話まで)
    • だから田舎の高校に進むように伝えるが、それでも少女は納得できずに食い下がり続ける。そして、奇跡的にもクマからの問題や課題を全て成功させてゆく。
    • (第一関門) あるとき少女は、クマの「都会で暮らしたいなら、これができなきゃだめ」という課題に挑むため、街のショッピングモールに向かう。そこで女の子向けのアクセサリーなどに触れて、「都会には可愛いものがいっぱいある。すてき」と、都会に魅了されてしまう。
    • でも、初めてクマの出した課題をクリアできずに終わってしまう。
    • クマは「ほら、ダメだろう」と突き放し、都会暮らしの夢を少女から取り上げてしまう。少女は夢が破れたことに対して、本気で泣き出し、絶望から風邪を引いて寝込んでしまう。
    • クマは「少女から夢を取り上げると、ここまで哀しむのか」と知り、渋々ながらも「少女の夢を応援する」と承諾する。
    • すると少女はすぐに元気を取り戻して、クマに抱きついて喜ぶ。クマも「しょうがない。少女が元気になるなら、いいか」と受け入れて、「少女が都会の高校に行く」という「叶うべきではない夢」に向けて、一緒に動き始めることになる。(この辺が第3巻まで。漫画本編は、ここから迷走開始)
  • 第二幕前半:
    • 改めて、少女の目標が設定される。都会で生きるために、都会の生活に慣れること。そのために、少女はクマと一緒に訓練を開始してゆく。
    • 少女はことあるごとに「自分に足りないもの」を突きつけられ、試練を得る。同年代の女の子との付き合い方や、電車の乗り方、電化製品や携帯電話の使い方などをこなさなければならなくなる。
    • だがクマに助けられることで、次第にその能力を身につけて、都会に住む能力を発揮してゆく。それによって、二人はさらに絆を深めてゆく。
    • 一方でクマは、「少女が都会の高校に行くと、自分とは離ればなれになる」と感じて、「なぜ自分はこんなことを手伝っているのか」と葛藤してゆく。でも、少女の笑顔のために、自分の欲求を押し殺して少女を助け続ける。
    • 少女の敵となる、同い年の女の子が登場する。その女の子は少女と同じ田舎に住んでいるが、少女よりもよっぽど都会の生活にふさわしい子になる。だが、不運が重なって田舎暮らしをせざるを得なくなっている状態。女の子は少女を敵視して、「貴方に都会は合わない」と突き放す。少女はそんな女の子の存在に苦しんでゆく。
  • 第二幕後半:
    • (ターニングポイント) クマは、「少女が都会の高校に行く場合、少女と一緒に田舎で暮らすことができなくなる」と分かる。電車通学ができないと分かり、少女は高校の寮に入らなければならないのだと。
    • また、巫女である少女が都会の高校に行けば、クマは神社を去らなければならずに、少女と永遠に別れることが決まる。また、別の熊が神社の主として赴任することになり、少女の代わりに女の子がその巫女をしなければならなくなる。
    • クマは、それを少女に言い出せない。ここまでで、クマは本気で「自分のわがままで、少女の夢を壊したくない」と思うようになっているため。
    • そしてクマは、「少女と一緒にいたい。少女の夢を叶えてあげたい。でも、夢を叶えてあげると、一緒にいられなくなる」という葛藤で苦しんでゆく。それでもクマは、少女を手助けしてゆく。
    • また、その高校には推薦枠の関係で、その田舎からは一人しか入れないことが判明する。そのため、少女は女の子と成績で競うことで、どちらが都会の高校にふさわしいかを決めることになる。そして両者は互いに準備をしつつ、対立を深めてゆく。
    • (最後の晩餐) ついに、学校推薦を決めるための、決戦前夜を迎える。クマは「少女と一緒に都会を目指すことができて、よかった」と受け入れる。
    • これまでしてきたクマの支援のために、少女は既に、都会でも立派に生きられる状態になっている。だから、「少女がここまで都会になじめるようになるなんて、思いもしなかった。そういう都会的な少女もすてきで、いいかもしれない」と、少女が都会で生きること受け入れるようになっている。
    • だけど、当然クマは少女とは別れたくないので、本心では「推薦を得て欲しくない」と願っている。そんな葛藤を抱えながら、最後の夜を過ごしてゆく。
    • (中盤の盛り上がり) 推薦を決める勝負が始まる。成績だけでなく、都会での生活ができるかどうかも含めて勝負が始まる。クマや村役場の人も勝負内容の作成や判定に加わるとかで、コミカルな勝負にするとよさそう。
    • 少女は、今までのクマの教えもあって、女の子と互角のいい勝負をする。
    • 女の子は少女を陥れようとして前々から準備しているが、最後に肝心なところでミスをして自滅することで、自らチャンスを失ってしまう。
    • 結果として、少女が推薦枠を(譲られる形で)得ることが決定する。
    • (報酬) 少女は大喜びして、クマに飛びつく。クマも「おめでとう」と喜びつつも、別れが決まってしまい、涙を止めることができずにいる。少女は、クマと永遠の別れを迎えることに、この段階では気づいていない。
  • 第三幕:
    • (帰路) 3月を迎え、少女は「推薦入試面接」を受ける日付の通知を得る。推薦の面接は、絶対に合格する形式的なものだけど、それが決まったら地元の高校には行けなくなるので、撤回はできなくなる。それによって、本当に田舎から立ち去るまでに一時的な猶予があると分かる。
    • どうせ面接を受ければ合格するので、少女は一足早く、慣例通りに都会(最先端の設備を整えた、高校の学生寮)に移り住むことになる。
    • その別れの日、「これが永遠の別れだ」と分かっているクマは、少女に「何かあったら、この包みを開けてごらん」と、ある包みを渡す。一方の少女は「都会に住める」と有頂天になり、クマと別れることには全く気づかずに、「大丈夫、『何か』なんてない」と笑顔でいる。そして両者は別れる。
    • あこがれの都会にやってきた少女だが、ここから少しずつ異変に気づいてゆく。今までは都会のきらびやかな面にあこがれていたが、実際の負の側面を目の当たりにしてゆく。都会の高度なシステムを前に、田舎者の少女はろくに買い物もできずに、恐怖で電車やバスにも乗れなくなり、都会の人とも全然会話ができないと分かる。
    • そして、次第に「こんなはずじゃなかった」という気持ちを高めてゆく。だけど、この段階ではいとこが一緒に都会に出稼ぎにきているので、いとこが助けてくれて、「まだ大丈夫」と強がっている。
    • (クライマックス) 唯一の話し相手であり、助けてくれる人だったいとこが、田舎へと帰ってしまう。
    • 面接入試会場に入るが、面接の順番が回ってくる直前に、ついに少女は自分の無力さとさみしさに絶望する。そして田舎に電話をするが、電話に出た村役場の人から、クマとは永遠の別れになると知る。他の熊が神社に来て、女の子が泣く泣く巫女をせざるを得ないのだと。ここで少女はようやく、自分が間違っていたことに気づく。
    • 少女はクマからもらった「何かあったときに、この包みを開けてごらん」という包みを思い出し、開ける。すると、そこには巫女服が入っている。
    • ここからは、お約束の展開。田舎的で民族的な巫女服を身につけた少女は、都会のど真ん中で、入試会場から飛び出す。そして田舎へと、山へと向けて走り出す。恋人役であるクマの名前を叫びながら、巫女服姿の少女は、都会の人々から注目を集めつつ、大通りを走り抜けてゆく。
    • 視点を変えて、クマが神社から立ち去るために、準備を始めている姿を写す。早く少女が戻らないと、二度と会えなくなるという緊張感を演出する。
    • 偶然にいとこと都会で出会い、少女は田舎へと戻ってくる。そして神社に走って向かうが、たどり着いたときにはもぬけの殻。「遅かった……」と思って泣きそうになった直後、すぐ後ろにクマがいる。そして二人は再会する。後は適当に、少女に自分の間違いを告白させて、「ここにいたいの」とクマと結ばせる。
    • (エンディング) 少女は冒頭と同じような、巫女としての一日を過ごす。しかし、一つだけ変わったことがある。それが、少女は「田舎でいいんだ。自分は都会よりも、ここにいたい」と受け入れたこと。
    • 都会の高校へは、女の子が行くことになる。それによって、少女は女の子と和解をしたことを説明。
    • くまみこの少女は地元の高校に行くことになり、クマに「好き」と告白してキスをして、ずっと一緒にいることを約束して、ハッピーエンド。

 

……と、こんな流れになります。

 

プロットと照らし合わせると、漫画本編のミスが分かる

かなりしっかりとした展開になりましたよね。

これでも、「ストーリー作家のネタ帳」第3巻の「三角関係を持つ(願いが叶う)」を、ほぼそのもので適用した形になります。

王道プロットというのは、これぐらい柔軟に姿を変える、といういい例かなと思います。

 

この「三角関係を持つ(願いが叶う)」は、ラストでドレスを身にまとった主人公が、恋人役の元へと走る場面が一番の見せ場となります。

ほら、昔のドラマでは、よく「ウェディングドレス姿で、結婚式場から飛び出して、恋人役の元へと走る」みたいな展開がありましたよね。

あれと同じです。

 

今回は、そのウェディングドレスが、巫女装束になったということですね。

ここはメインテーマを交えながら、映像で表現すると見栄えがよくなる場面だったりします。

そして、相手がいる場所まで戻ってきて、「遅かった」と見せかけて、すぐ後ろに相手がいる……という流れまでが、もうお約束中のお約束展開です。

 

細かいことを言うと、「くまみこ」漫画版の第4巻から迷走を始めたのは、第3巻の展開で問題があったからです。

第一幕第一関門で、少女がクマからの試練(ヴィレッジヴァンガードで買い物をしてくること)に失敗して、風邪で倒れた時の対処が失敗ポイントでした。

あそこでは、本当はクマが少女の落ち込み具合と涙を見て、少女の夢に協力的にならなければいけない場面だったんですよ。

クマは「少女が都会の生活をあきらめると、ここまで落ち込むのか」と苦しんで、そして少女を元気づけるために「分かった、協力しよう」と態度を変えるのが正解でした。

 

でも、それをせずに、今までのように「少女の都会生活には反対」という態度を取ってしまうことで、第一幕から第二幕へと移行できずに、話が停滞してしまったわけですね。

ここの展開ミスが、後の4~6巻までの長期停滞につながります。(というか、現在も停滞中ですが)

 

まとめ

こういう風に、ちゃんとしたプロットで見てみると、問題点がどこにあるのか分かりますよね。

メインプロットを復元するのは、難しいことではないんだと。

ちゃんと「キャラクターが抱える問題」を見つけて、そこから王道プロットに照らし合わせると、ストーリーの流れは見えてきます。

すると、きちんとしたストーリーを、しかも面白く展開できるようになるでしょう。

 

ということで、今日は漫画「くまみこ」のメインプロットを復元する流れを説明してみました。

今日はここまで~。

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