昨日の「メインプロットを知りたい」という作品募集について、いくつか教えてくださってありがとうございます。
まだ募集していますので、いい問題作品があれば、是非教えてくださいませ。
今日は、ビジネス戦略を心理学から解説してみましょう。
なぜ、メジャーでは「ファンへの裏切り行為」が起こりうるのか、というお話です。
なぜ、「ファンへの裏切り行為」が起きるのか?
メジャーの作品では、時々「これはファンへの裏切り行為だ!」みたいなことが起こりますよね。
例えば原作からの大きな改変をしたり、ひどい展開や結末だったり、有名人だからという理由だけでキャスティングしたりとか。
そういう風に、クオリティを度外視して、ファンをないがしろにすることがあるものです。
なら、なぜそんなことが起こるの?ということですよね。
実は、メジャーとニッチの違いを知れば、これは起きて当然のことだと分かります。
すなわち、メジャーはファンを重視しないということですね。
そしてこれが分かれば、メジャーとニッチのどちらを攻めればいいのかが分かるかと思います。
8割の「こだわらないタイプ」と、2割の「こだわるタイプ」
それを説明するために、まずは人間の性質を知っておく必要があります。
人には「こだわらないタイプ」と「こだわるタイプ」の2種類の人がいます。
こだわらないタイプというのは、だいたいが外向的で、浅く広く人づきあいをするような、体育会系な人です。
こだわるタイプは、だいたいが内向的で、特定の人とだけ密に接するような、文化系な人です。
精神科医の和田秀樹氏は、これを「シゾフレ人間」、「メランコ人間」と定義しているんですが。
で、こだわらないタイプ:こだわるタイプの比率は、8:2ぐらいです。
すなわち、この社会はほとんどの人が、「こだわらない人」たちで構成されているわけですね。
これが、メジャーとニッチという違いを生み出す要因です。
メジャーは「こだわらない人」向けに売り、ニッチは「こだわる人」向けに売る
メジャーというのは、そういう大多数の「こだわらない人」向けに売る人たちです。
世の中の8割を構成しているので、ものすごい規模のマーケットがあるわけです。
ここで売れたら、そりゃもう一気に莫大なお金が入ってくると。
ただし、彼らはこだわらないタイプなので、特定の「これがいい」という軸を持ちません。
そのため、彼らは周囲からの情報や話題性で、ふらふらーっと移り気に趣味趣向を変えてしまいます。
だから、メジャーというのは、クオリティよりも話題性を重視するわけですね。
だって、そもそも彼らは「こだわらない」んですから。
クオリティにもこだわりはありませんし、同じ話題でわいわいできれば、それでいいわけです。
一方でニッチは、逆に「こだわる人」向けに売る人たちです。
全体の2割しかいないので、マーケットは小さいものです。
たとえ売れても絶対的な顧客数が少ないので、一気に大金持ちになることはありません。
ですが、彼ら「こだわる人」たちは、「これがいい」という確固とした軸を持ちます。
そのため、彼らはファンとして継続して買うことで、作者に長期的な収益をもたらしてくれることになります。
だから、ニッチというのは、話題性よりもクオリティを重視するわけですね。
ファンはそのクオリティを信頼して、味わうと。
自分に合ったものを思う存分楽しめれば、それでいいわけです。
この両者の性質が分かれば、なぜ現実がこうなっているのかが見えてきます。
メジャー「多くの人を楽しませる」v.s.ニッチ「深く楽しませる」
なぜ、メジャーではファンを裏切るのか。
それは、そもそも彼らはファンをターゲットにしてはいないからですね。
彼らは移り気な日和見(ひよりみ)客に売ろうとしているので、特定のファンに向けて売っているわけではありません。
すなわち、彼らは「×深く楽しませる」ではなく、「○多くの人を楽しませる」という価値観で動いています。
一方で、ニッチはファンのために作ります。
ニッチな制作者たちは、「○深く楽しませる」で動いていて、「×多くの人を楽しませる」ことは捨てています。
ただ、メジャー作品では、こだわるタイプの人も触れます。
ですが、メジャー向けでは、こだわるタイプは顧客の中でも少数派です。
だから、メジャーではファンを裏切ることが多くあるわけですね。
メジャー「売り上げを重視」v.s.ニッチ「リピート率を重視」
すると、売り上げを重視するか、リピート率を重視するかという違いも理解できるようになります。
メジャーは「売り上げ数と量」を重視します。
それは、売り上げが多ければ多いほど、多くの人を楽しませたことになるからですね。
例えば最近話題になったテレビドラマ「重版出来!」は、出版社の物語で、主人公は新人編集者として作家や販売店を支えて、雑誌をブレイクさせていく話になるかと思います。
私の周囲でも、「感動した!」、「よかった!」という作家さんが多くいたんですが。
私はサイトで第3話までのあらすじしか見ていないんですが、おそらく彼ら主人公たちは、ドラマ中でも「売り上げ部数を上げること」しか考えていなくて、「ファンを楽しませること」はほとんど考えていないんじゃないかと思います。
もしファンの存在を考えていたとしても、「売り上げを伸ばすこと」が前提にあって、その手段としての「ファンを満たすこと」という位置づけになっているはずです。
その逆はないと。
というのも、メジャーは「多くの人を楽しませる」という価値観が根本にあるからですね。
一方でニッチは、「リピート率」を重視します。
それは、深く楽しませたほど、リピートするからですね。
長期的に利益を得ることを目指すので、必要に応じて、あえて目先の売り上げを切り捨てることも多いものです。
例えば京都の「一見さんお断り」システムだって、高級ホテルの会員制クラブだって、そんな制限がない方が多くの客を得られますよね。
でも、彼らは何かのきっかけで話題になって、どっと日和見客が来ると、今までのファンに安定したクオリティが提供できなくなります。
すると、ファンは満足できなくなるので、消えます。
そして日和見客も消えると、誰も残らない……という惨劇に見舞われてしまいます。
だから、ニッチは目先の売り上げを手放したとしても、あえて日和見客を排除して、ファンの確保(リピート率)とクオリティを重視します。
メジャー「話題性が大切」v.s.ニッチ「クオリティが大切」
で、メジャーとニッチでは、売れるための要因も変わってきます。
実のところ、メジャーで売れる一番の要素は、「話題性」です。
だから、広告費が高ければ高いほど売れますし、話題性の高い俳優やアイドルを使ったり、SNSなどで話題になればなるほど売れます。
「開発費何億ドル!」とか、「このスター俳優を採用!」、「この人気声優を採用!」、「この人気シリーズの続編!」、「夢の共演!」というのは、全て話題性を作るためのものです。
クオリティが低くなろうが、話題性をとれればOKだということですね。
そして、内容が破綻しようが、クオリティが低くなろうが、「売れればOK」です。
また、メジャーでは「クオリティが高ければ売れるわけではない」、「低いクオリティでも、話題になれば売れる」という現象があります。
これも、こだわらない人向けに売っているからですね。
すなわち、「クオリティを上げる」というのは、正確に言うと「話題性を確保できるのであれば、クオリティを上げる」という形になります。
「話題性」が主であって、「クオリティ」が従だということです。
一方で、ニッチではクオリティが重要になります。
それは、こだわる人に売っているからですね。
彼らはちゃんと質に目を向けて、質で評価します。
なので、「クオリティ」が主になって、「話題性」は従、すなわち「クオリティを確保できるのであれば、話題性や流行を採用する」という形になります。
メジャーとニッチ、どちらを目指した方がいいのか
これらが分かれば、私たちに合った戦略も見えてきます。
メジャーを目指す人にとっては、「どうやって話題性を確保するか(どうやってウケを取るか)」が至上命題です。
メジャーを目指す人で、「売れるためにクオリティを高めたい」と考えるのは、少し的外れになります。
メジャーでは、クオリティは求められますが、クオリティが高いだけで売れる世界ではない、ということです。
クオリティを上げるのは、話題性を得るための一つの手段でしかないと。
逆に、ニッチを目指す人にとっては、クオリティの確保が至上命題です。
ニッチを目指す人で、「売れるためには膨大な広告費を使わなきゃいけない」、「話題性を持たせなきゃいけない」、「流行に合わせなきゃいけない」と考えるのも、少々的外れです。
実際に、例えば同人誌即売会で宣伝しても、無意味です。
というのも、同人誌即売会というのはこだわる人たちばかりが集まるから、どんなに広告費をかけても、クオリティが低ければ全く売れません。
すなわち、こだわるタイプの人は、メジャーを目指さない方がいいわけですね。
私の周囲には、結構「こういうのじゃなきゃダメ!」っていうこだわりタイプの作家さんが多くいます。
彼らに編集者がつくと、一様に苦しむんですよ。
というのも、彼らにとって、編集者は「自分のしたいことを制限する人」になるからですね。
そして売れるために、好きでもないことをしなければならないわけです。
逆に、さほどこだわりがないのであれば、メジャーを目指す方がいいでしょう。
こういう作家さんに編集者がつくと、編集者は「道を示してくれる、最良のパートナー」になります。
というのも、その作家さんはこだわりがないから、どの道でもいいからですね。
むしろ、どういうものがいいのかを教えてくれるので、頼りがいのあるパートナーになります。
だからストレスなく、大衆が求めるものを作れるようになります。
ニッチ向けの人がいきなりメジャーでブレイクすると、破滅しやすい
メジャーとニッチでは、売れるための戦略が全く変わってきます。
で、ニッチ向けの人が下手にメジャーで成功してしまうと、不幸なことになりやすいんですよね。
ニッチに向いている人がいきなりメジャー向けで売れることを目指すなら、多くの場合、自分の好きなことができずに、他人がウケるものを作らなければなりません。
そして売れた後で少し余裕ができて、「私は本当はこれをしたい」と思っても、それをしても売れないどころか、今までのファンから「そんなの求めてない!」と否定されます。
だんだんと「何のために作っているんだろう?」と思うようになって、大好きだったはずの作ることが嫌になってきます。
しかもメジャーの成功法則に慣れてしまって、ニッチの成功法則には合わなくなり、ニッチにも行けなくなると。
こうやって「メジャーの成功で破滅する」という作家さんは、結構いたりします。
特に最初の作品で大ブレイクしたような人は、破滅しやすいんですよね。
正常な流れというのは、まずはニッチでファンを確保して、そのファンの支えによって、ファンに与えるためにメジャーな流通会社を利用する流れです。
ニッチ向けなクリエイターにとって、流通会社とは「自分を使ってもらうもの」ではなくて、「相手を使ってあげるもの」だということですね。
ニッチでは、どの流通会社を使うのかという選択肢は、クリエイター側にあるのが正常な立ち位置です。
まとめ
こう考えると、メジャーとニッチの違いが分かるかと思います。
全ては、8割を占める「こだわらない人」と、2割を占める「こだわる人」の存在によって起こります。
前者をターゲットに売る人をメジャーと呼んで、後者をターゲットに売る人をニッチと呼びます。
だから、メジャーは「話題性」を、ニッチは「クオリティ」を重視する、ということですね。
クリエイターさん側に必要なのは、自分がどちらに合いそうかで選ぶことかと思います。
メジャーがいいとか悪いとかではなくて、そういう相性で選びましょうよ、ということですね。
もちろん、メジャーとニッチは「度合い」です。
メジャーの中でもニッチ寄りのポジショニングもありますし、ニッチでもメジャー寄りなポジショニングもあります。
自分の特性に合わせて、最適な場所を選ぶのがいいでしょう。
とにかく、私の周囲でも、「あんたはすっごいこだわりタイプなのに、なんでメジャーを目指すねん!」という人がとても多いんですよ。
そしてそれでプロになったほとんどの人が、やっぱり編集者の存在で苦しんでいると。
その根底には、「メジャーが優れている。ニッチは劣っている」という思い込みみたいなものがあるんじゃないかな、と思います。
もしくは、ニッチで有名になって、売る方法を知らないんじゃないかな、と。
ニッチでも、長期的に安定した売り上げが得られるという、強みがあります。
確固としたファンができるので、チヤホヤもされますし、セルフイメージを上げることもできます。
同じ趣味趣向の制作仲間もできるので、ディープな話で盛り上がることもできます。
そもそもこだわりタイプの人は、多数の人とやりとりするのは苦手で、少数の人と深くわかり合える方が心地よく感じるものです。
こだわりタイプの人は、そういう安定した収益と、多くはなくても深くわかり合える仲間やファンの存在がいる方が、幸せになれるんじゃないかと思います。
メジャーでなければ売れないわけではないし、むしろニッチの方が安定して安らげることも多いと。
今は、大量生産大量消費時代の名残で、メジャーでしか通用しない方法論ばかりがあふれていて、ニッチ向けの方法論が少なかったり、ごっちゃになっていたりします。
作家向けの教材でも、だいたいがテレビドラマの脚本家とか、メジャー映画会社の脚本家だったりして、ニッチな戦い方は全然語っていません。
だから、私は「ニッチっていいよ! ニッチで生きる場合、こうしたらいいよ!」と、ここでいろいろと書いているわけですね。
そういう観点で見ると、こだわりタイプの人ほど、このブログが役立つかなと思います。
ということで今日は、なぜメジャーでは「ファンへの裏切り行為」が起こりうるのか、というお話をしてみました。
今日はここまで~。