今日は恒例の、作家向けのお話です。

無意味な設定を排除する方法、ということでお話ししてみましょう。

 

なぜ「ご都合主義とハッピーエンドのジレンマ」に陥るのか

物語作りでは、よく「葛藤が大切だ」とか言いますよね。

確かにそうなんですが、無駄な設定を入れて葛藤を作ると、後々面倒なことを引き起こすことが多いんですよ。

その代表例が、以前も触れた「ご都合主義とハッピーエンドのジレンマ」ですね。

 

例えば恋愛物語でも、「結ばれない苦悩を入れよう」として、「主人公が人間、恋人役が幽霊」という設定を作っちゃったりするんですよ。

それで恋を達成しても、「恋人役が幽霊」という問題が残ってしまって、ハッピーエンドにできないわけです。

もし強引に人間に戻せば「ご都合主義だ」と言われて、結ばれずに終われば「ハッピーエンドじゃない」となって、結末に苦しむことになります。

 

で、実際のところ、そういう「恋人役が幽霊で、結ばれない葛藤」って、ほとんど本編では機能しないものなんですよ。

というのも、「主人公と恋人役の恋」という軸で物語を進めている場合、それ以外の軸は必要なくなるからですね。

メインプロット(軸)は一本だけで、十分に物語として機能します。

むしろ、「無駄な軸が増えるほど、面白くなくなる」とも言えます。

すなわちメインプロットをしっかり作れていれば、最初から恋人役が人間だったとしても、十分に面白い内容にできるわけです。

 

すると、「恋人役が幽霊」という設定は、完全に無駄な設定になってしまいます。

いわゆる、「さして効果もなく、むしろあるだけ無駄で、足を引っ張る設定」になってしまうと。

特殊な設定(葛藤の内容)はあればあるほどいいものではなくて、余計なものを入れると足を引っ張ることになります

 

冒頭で、「ご都合主義とハッピーエンドのジレンマ」にはまるかどうかは分かる

じゃあ、どうすればこういう「無駄な設定」を排除できるのか。

どれが必要な設定で、どれが邪魔な設定なのか。

今回はそれを、冒頭の作り方を通して説明してみようかと思います。

 

この「ご都合主義とハッピーエンドのジレンマ」を回避するのは、簡単です。

それは、「一つの問題を解決すれば、他の全ての問題が解決する」という形にできていればいいだけです。

 

そしてこれは冒頭で示す内容なので、冒頭でこのジレンマに引っかかるかどうかは見抜けます

この冒頭での見せ方が分かれば、失敗しない冒頭を作ることができますし、無駄な設定を排除することができるようになります。

 

失敗しない冒頭設定の作り方

その「失敗しない冒頭設定」は、次のような流れで作れます。

  • 「主人公が抱えることになる問題」を抽出する
  • 問題のそれぞれを「これが解決すれば、これも自然と解決する」という風に、階層化する
  • 全ての問題を解決する、1つの「根本的な問題」を設定する
  • 関連づけられない設定は「邪魔な設定」になるので、排除する

 

これは、図で見ると分かりやすいので、次図を参考にするといいでしょう。

blogimg-fig03-plot-eliminate-setting01

 

すなわち、「一つの根本的な問題を解決すれば、全ての問題が解決する」形にする、ということですね。

 

まずは上図の左のように、主人公が抱える問題を抽出します。

そして右のように、「根本的な問題」を頂点として、階層化します。

すなわち、「上側の問題が解決すれば、その下にある問題も同時に解決できる」という風に、関連づけるわけですね。

で、重要なのが、この階層に入れられないような、関連づけられない問題は排除することです。

すると、クライマックスで「根本的な問題」さえ解決できれば全ての問題が片付くことになるので、ラストで「ご都合主義とハッピーエンドのジレンマ」に陥ることはなくなります。

 

これは例で見る方が分かりやすいので、後ほど説明する具体例で改めて見ていくことにしましょう。

 

(上級者向け)上手な冒頭設定の作り方

以下は上級者向けですが、もう少し詳しく言うと、次のようにも表現できます。

blogimg-fig03-plot-eliminate-setting02

 

こういう風に、「根本的な問題」、「表面的な問題(スペシャルワールドの目的)」、「諸問題」と3階層に分けることで、各幕で扱う内容が決まります。

「根本的な問題」、「表面的な問題(スペシャルワールドの目的)」は、1つずつ設定します。

「諸問題」はいくつでもかまいませんが、子要素を3つずつで配置すると安定します。

この諸問題は、サブプロットで解決していきます。

 

第二幕前半では、主人公は諸問題に挑み、末端から順に解決してゆきます。

で、第二幕後半からは、表面的な問題に挑み、一時的な勝利、もしくは一時的な敗北をします。

その表面的な問題に挑んだ結果、「根本的な問題」が発覚して、第三幕でそれに挑む形になります。

「根本的な問題」は、主人公が持つ欠点として表現される場合もありますし、事件の黒幕として登場する場合もあります。

 

上手な風呂敷の広げ方

言うなれば、これは「上手な風呂敷の広げ方」とも表現できます。

冒頭で、既に物語の全体像を予告しているわけですね。

冒頭で一斉にまいた種を、本編で一つ一つ刈り取っていって、最後に根本的な問題を刈り取ってきれいに終了、ということです。

 

なので、「冒頭でその物語の面白さが出る」、「冒頭で全体が見通せる」というのは、事実です

なぜ私が冒頭場面だけからメインプロットを再構成できるのかというと、この情報にアクセスしているからですね。

優れた構成力を持つ人は、この部分をしっかりと冒頭(日常~冒険への誘いまで)で提示しています。

すなわち、第二幕以降の展開内容は、既に冒頭に織り込まれていると。

だから、私はその情報に従って、全体を再構成しているに過ぎません。

 

裏を返すと、この階層構造を冒頭で示すことで、「失敗しない冒頭」を作ることができます。

また、途中で矛盾が起きることもなく、素直に解決できる物語にできます。

これも、例を見ると分かりやすいので、早速具体例で見てみることにしましょう。

 

漫画「アゲイン!!」の例

じゃあ実際に、例で見てみましょう。

今回ご紹介する作品は、久保ミツロウ作の漫画「アゲイン!!」です。(第1話試し読みはこちら

 

注:以下では久保ミツロウ著「アゲイン!!」のネタバレと、プロット修正案が含まれます。楽しみを大きく損なう可能性があるため、久保先生のファンの方や、この作品を楽しみにしている方は、以下は閲覧しないようにお願いします

 

内容はというと、青年向けの「高校で廃部寸前の応援団を立て直して、勝ち進んで英雄になる」という部活復活系の人間ドラマ&ヒーロー物語です。

主人公の青年(今村金一郎)は高校生ですが、友人も恋人もおらずに、落ちこぼれで、悲惨な「できない人間」として、みじめな毎日を送っています。

だから主人公は、誰よりも「みじめで情けない側の気持ちを理解できる」という特殊能力を持っています。

 

そんな主人公がある日、高校で「応援団」という部活と出会い、「人を励ます」という活動に巻き込まれてしまいます。

主人公はその部活を通して、「頑張っていて能力はあるのに、苦難が続いて心がくじけそうになり、応援や励ましを必要としている人たち」に触れていきます。

彼らはいろんな事情で、苦しいことや哀しいこと、うちひしがれることを前にして、絶望しています。

そんな彼らに対して、主人公は自らの「惨めで情けない側の気持ちを理解できる」という特殊能力を生かして、時に熱く語り、時に自らが傷ついても彼らを守る盾となり、時に自らが嫌われ役になり、励ましてゆきます。

彼らはそれによって勇気を得て、勝利を得たり成功していきます。

そしていつしか、主人公はみんなから愛されて、みじめな状態からりりしい姿へと成長してゆく……という、熱い系の人間ドラマ&ヒーロー物語なんですが。

 

メインプロットの流れは、「無能者が英雄になる」「ストーリー作家のネタ帳」第2巻収録)です。

で、「無能者が英雄になる」では、第二幕前半からクライマックスまではサブプロットで構成されますが、そのサブプロットとして「見下される」(ネタ帳1巻収録)を使っている形になります。

 

「アゲイン!!」が抱える問題点

で、この物語は最初はよかったんですが、途中から失速してしまって、中途半端に終わってしまいました。

その問題点として、「タイムスリップをして、高校生活をやりなおす」という妙な設定を追加してしまったことがあります。

 

中身を見たら分かりますが、この物語は部活立て直し系の、人間ドラマ&ヒーロー的なお話がメインになります。

そこで「もう少し葛藤を加えよう」として「タイムスリップをした」という設定を加えたとしても、実はほとんど意味がありません。

別にタイムスリップをしなくても、「中学時代に3年間みじめな思いをした」、「このままだと、未来はこうなるとありありと予想できる」でも、十分に通用する構成なんですよ。

むしろ、「タイムスリップをした」という余計な設定があるために、せっかく主人公が築き上げた人間関係や信頼関係を、最後に「全部夢でした」と放棄しなくちゃいけなくなったと。

それによって途中からうまく物語が回らなくなって、熱く物語を展開できなくなって、中途半端な流れで完結することになってしまいました。

 

すなわち、無駄に追加した設定が足を引っ張って、本編をダメにしてしまったわけですね。

 

「アゲイン!!」の設定を洗練させる

じゃあ実際に、どうすればこの無駄な設定を事前に排除できたのか。

それが、先にも触れたように、設定を階層化しておくことで防げます。

 

実際に問題を抽出すると、「タイプスリップをする問題」、「主人公がみじめな生き方をしている問題」、「応援団が廃部寸前な問題」、「主人公が団長の少女(恋人役)に片思いをしている問題」などがあります。

で、「これが解決すれば、これも自然と解決する」という階層を考えてみるわけですね。

 

すると、次図のように階層化できると分かります。

blogimg-fig03-plot-eliminate-setting03

例えば、「応援団団長の少女への片思い問題」は、「応援団が廃部寸前な問題」を解決したときに、一緒に解決できうると分かります。

主人公が団長の少女を励まして、応援団の存続が決まったタイミングで結ばれる、という流れにできますよね。

実際はクライマックス時に結びつかせるので、応援団存続のタイミングで二人を結び合わせる必要はありません。

 

すなわち、「何かのきっかけさえあれば、すぐにでも二人は結びつく」という待機状態にできると。

なら、クライマックスを乗りきったタイミングで告白させればいいわけです。

そういう風に、全ての問題を「クライマックスでのきっかけ待ち」にすることで、クライマックスで全ての問題を解決させる、ということですね。

それによって、クライマックスでは「この戦いで全てを得るか、全てを失うか」というドラマティックな演出ができるようになります。

 

無駄な設定を排除する

でも、「タイムスリップをする」という設定だけは、この中に組み込めません。

「応援団を復活させれば、タイムスリップ問題を解決できる」なんて関連づけは、ちょっと作りにくいものです。

「タイムスリップ問題を解決すれば、みじめな生き方を解決できる」というのも、ちょっと強引ですよね。

 

すると、「タイムスリップをする」という設定だけが関連づけられなくなって、これが無意味な設定だと判明します。

すなわち、この無意味な設定を残しておくと、後々「ご都合主義とハッピーエンドのジレンマ」を引き起こしてしまうことになります。

こうやって、無駄な設定を見つけて、排除することができます。

 

(上級者向け)冒頭の設定を作り込む

上級者向けになりますが、もう少し詳しく作り込むと、次のようにできるでしょう。

blogimg-fig03-plot-eliminate-setting04

 

上図のように階層化することで、第二幕前半、第二幕後半、第三幕で何を主題にすればいいのかが分かります。

そしてこの内容を、冒頭(遅くともメンターの段階まで)で示すわけですね。

もし黒幕を設定する場合、第一幕メンターの段階で「誰かは分からないが、黒幕となる人物がいる」と明示しておきます。

これが、「美しい風呂敷の広げ方」です。

後で実際にメインプロットを再構成しますが、冒頭部分に着目してみるといいでしょう。

 

たったこれだけで、「ご都合主義とハッピーエンドのジレンマ」を防げます。

ほんと、たったこれだけの前振りです。

冒頭でのたったこれだけのミスで、全てを失敗させるとか、アホらしいですよね。

なので、メインプロットを作る場合、これはしっかりと考えておくといいでしょう。

 

メインプロットを再構成する

じゃあ実際に、この内容を元に、「アゲイン!!」のメインプロットを再構成してみましょう。

メインプロットは、次のように構成できると分かります。

 

  • 第一幕:
    • (日常) 欠点を持つ主人公の日常。
      • 世界観と登場人物の説明。世界観は現代の高校。主人公は高校に入学したばかりの青年(今村金一郎)で、「金髪で眉がなく、凶悪な人相」という、いかにも誰も付き合いたいとは思わないような風貌をしている。でも根はいい性格で、「誰かのためになりたい」と思っている。金髪なのは近所の美容室でジョークでされたことだし、眉が薄いのは天然で、凶悪な人相もただの遺伝だと分かる。
      • 主人公が持つ、「みじめな側の気持ちが分かる」という特殊能力の説明。主人公は中学校の三年間、ずっとひとりぼっちで、落ちこぼれで、頑張っても成果が出せないような、みじめな生き方をしていたこと。だから、誰よりも「励ましを必要とする側の気持ちを理解できる」という才能を持っている。
      • だけど、主人公は「こんな才能、必要ない」と、その才能を無駄なものとして扱っている。そして、「学校の成績で一番になったり、スポーツ大会で優勝したり、甲子園に出たりすることこそが大切だ」と思い込んでいる。でも、主人公にそんな能力などなく、「高校でも中学と同じようになるのか」と絶望している状態になる。
    • (冒険への誘い) そんな主人公が、高校入学式の時、応援団のパフォーマンスを見る。そこでは応援団の女団長(恋人役の少女、宇佐美良子)が、一人きりで古くさい応援をしている。周囲がそんな少女を「時代遅れだ」と嘲笑する中で、主人公だけは「一人きりでも、不器用でも、誰かを励まそうとしている」という少女の姿に魅了されてしまう。すなわち、主人公は少女の応援姿から「自分でも、誰かを励ませる」という可能性を知る。
    • 後ほど主人公がおそるおそる少女の元へと赴くと、少女から気に入られてしまい、(応援部が存続の危機という事情もあり)無理矢理応援団に連れ込まれてしまう。
    • (拒絶) 応援団に連れ込まれたのはいいものの、他に誰も団員はいないし、少女は主人公に古くさくて厳しい上下関係を強いる。主人公は善意で「それを変えれば、部員は来る」と少女に促すが、少女は変化を拒絶する。一方で主人公も、時代錯誤でしんどいだけで、「実質誰も励ましてなんかいない少女の応援方法」を拒絶する。
    • 結果として、主人公は「こんな応援部、やってられるか!」と拒絶して、少女も「お前なんか応援団にいらない!」と主人公を拒絶する。
    • (メンター) ここで主人公が置かれた状況の整理と、物語の目的が示される。主人公は今までみじめな生き方をしていたが、初めて「応援団で、人を励ませる」という可能性を知ったこと。実際に主人公は、少女から励まされて希望を持てたこと。
    • だが団員は少女一人しかおらず、廃部寸前であること。そして少女の古くさい方法論が、廃部寸前に導いていること。主人公も、そんな時代錯誤な応援方法を嫌っていて、少女と対立したこと。
    • 少女は自分が問題であることを自覚していて、ふとした折に、主人公の前で悔し涙を流してしまう。それによって主人公は、「自分はこの団長の少女を励ませる。それで応援団を復活できるのではないか」と、自分の役割を知る。
    • 応援団の目的は、「頑張っていて能力はあるのに、苦難やプレッシャーで心がくじけそうになり、応援や励ましを必要としている人たち」を励ますこと。その頂点が、「誰よりも大きな期待とプレッシャーを背負う野球部を励まし、甲子園に導くこと」だと示される。
    • 応援団で、少女が一人きりになった事情が明かされる。それはちょっとしたすれ違いで、実は旧メンバーの数人は「応援団に戻りたい」と思っていると判明する。だけど、戻るきっかけがない。
    • 主人公は本心では「少女を励ましたい、人を励ましたい」と思うが、少女の高圧的な態度から、「あの態度が気に入らない」と応援団に入ることを拒絶したままでいる。少女もまた、少女を否定するばかりの主人公を拒絶したままでいる。
    • (第一関門) あるとき、応援団とチア部、吹奏楽部の合同練習が行われることになる。しかし少女は体調を崩して参加できなくなり、なぜか主人公が団長代理で、一人で応援団代表として参加することになる。
    • 当然何も分からない主人公は何もできず、みじめな思いを味わう。主人公はそこで、「励ましを必要とする人を、誰も励まそうとしていない」という事実に気づく。応援団もチア部も、本来は苦しんでいる人を励ますためにいる。そしてここで主人公という一人の人が苦しんでいるのに、チア部も応援団の旧メンバーたちも、誰もそんな「苦しんでいる人」を助けようとはしないし、むしろ嘲笑して傷つけている。
    • 同時に主人公は、周囲から「団長の少女と大差ない」と笑われる。すなわち、少女もずっと嘲笑されていて助けを必要としていたのだと。それなのに、応援団の旧メンバーもチア部も、誰も少女を励まそうともしなかったし、助けようともしなかったのだと。むしろみんなが少女をあざ笑い、傷つけていたのだと。
    • その事実を知って主人公は怒りを持ち、「何が応援だ! こんなクソみたいな集まり、励ましでも応援でも何でもない! 伝え方は下手でも、一人きりでも、心のこもった応援していた少女の方が、百倍かっこいい!」と叫び、周囲の全員を敵に回してでも、たった一人で少女の味方をする。
    • 少女は主人公のそんな姿を陰から見ることで、主人公から励まされ、「自分は主人公から否定されていたわけではなかった」と知る。そして少女は主人公を受け入れる。主人公もまた、少女がずっと強がらざるを得なかった気持ちを理解する。「少女はずっと、誰も応援してくれる人がいない中で、高圧的になることで、うちひしがれそうな弱い心を必死で保っていたんだ」と分かり、少女を受け入れる。
    • その言葉に感化されて、少女と旧メンバーたちが主人公の前に出てきて、「悪かった」と主人公に謝る。主人公は、自分の言葉が少女や旧メンバーたちを励ましたのだと知る。そして力を合わせて、見事に合同演習を成功させる。
    • 結果として応援団の旧メンバーたちが戻ってきて、応援団が復活することになる。主人公もまた、「自分でも、人を励ますことができる」と知り、自らの意思で応援団に入部することになる。
  • 第二幕前半:
    • ここから主人公は、応援団として新たな日常を送ってゆく。そして、新たな目標が設定される。最終目標は、「野球部を甲子園に導く」になる。野球部は期待度が大きいだけに大きなプレッシャーを得て、応援や励ましを必要とするのだと。そして野球部のエースは努力家で、超高校級の技術を持っているのに、マインドが豆腐のように弱いのだとも知る。だから、応援や励ましが絶対に必要なのだと。
    • 励ましを実現するために、主人公たちは「応援団を結束する」、「新しい応援方法を作る」、「チア部と協力できるようにする」という小目標に向かって動いてゆく。
    • まずは合宿を通してメンバーと絆を結ぶことで、応援団を結束してゆく。それと同時に、主人公は少女の思いや事情を知り、少女との恋も進めてゆく。
    • 応援方法を馬鹿にされたことをきっかけに、主人公たちは新しい応援方法も策定してゆく。軽快な振り付けに変えたり、流行のアイドル曲を取り入れたり、テンポを変えることで、親しみやすい応援を作ってゆく。
    • チア部からは馬鹿にされてばかりだったが、そのチア部のリーダーを励まし助けることで、主人公だけはチア部を従えることができるようになる。
    • こうして主人公は多くの人から頼りにされてゆき、応援団と、「応援する活動」の中心的な存在となってゆく。
    • その一方で、敵となる学校も登場する。その学校は主人公たちや少女の応援方法を馬鹿にして、野球部やエースをもこき下ろす。それによって主人公たちは、「こいつらにだけは負けたくない」という気持ちを持つようになる。
    • また、その敵校応援団長は、主人公や少女と少なからず因縁を持つと分かる。主人公は過去に、その敵団長から見下されたことで、中学時代にみじめな生き方をするようになったこと。一方で少女は、本来は応援を心から愛していたのに、敵団長から悪意を持ってたぶらかされることで、応援に集中できなくなってしまったこと。それが、廃部寸前へとなるきっかけになったと分かる。
    • 結果として、主人公たちは「敵校を倒して、少女の気持ちを奪い返し、野球部を甲子園に導く」という方向に動いてゆく。
  • 第二幕後半:
    • (ターニングポイント) ついに甲子園への予選が始まる。主人公は野球部のエースと親しくなり、どれだけメンタルが弱いのかを知ってゆく。
    • また、エースだけでなく、野球部や甲子園に関わる多くの人が、様々な苦しみを抱えていることが分かってゆく。
    • そのたびごとに、主人公が励まして支えてゆく。そして、勝利へと導いてゆく。
    • (最後の晩餐) ついに、甲子園への出場をかけた、予選決勝までたどり着く。敵は、主人公たちの宿敵である敵校になる。決戦を前にして、主人公たちは最後の休日を得る。
    • 主人公は団長の少女と一緒に時間を過ごす。そして少女から「主人公が応援団に来てくれて、よかった」と言われる。しかし、少女は未だに敵団長からたぶらかされていて、主人公は「絶対に勝って、少女の目を覚ましてやる」と決意する。
    • そして決戦当日が訪れる。主人公は仲間たちと連携を確認して、決戦の場へと旅立つ。
    • (中盤の盛り上がり) 決勝戦が始まる。いくつかの逆転劇を繰り返すが、肝心なところで、主人公たちは大きな不運に見舞われてしまう。
    • エースは恋人を失い、団長の少女はチア部リーダーからの傷つく言葉で自信を失い、団員や野球部員もそれぞれちょっとした苦痛となる出来事を背負ってしまう。そんな中で主人公は、大好きだった祖母を失うというひときわ大きな不幸を背負う。それによって主人公は、応援するどころではなくなってしまう。
    • それでも主人公は頑張り、限界まで努力している。それなのに、主人公は周囲から「しっかりしろ」、「頑張れ」と、「愛情のない、形だけの励ましの言葉」を押しつけられてしまう。
    • 主人公は「俺は苦しい中でもこんなにも頑張っているのに、お前たちはただ『頑張れ』と言ってるだけじゃないか!」と、周囲の幸せをねたんでしまう。そしてそれがきっかけで、みんなの心が離れてしまう。
    • (報酬) エースは打ち込まれて、大量リードを許してしまう。応援団の心は離れてしまい、応援席では誰も応援ができなくなる。
    • ひとりぼっちでみじめな状態になった主人公は、応援の場から逃げ出してしまう。そして昔の自分を思い出して、「結局自分は、変わわれなかったんだ」と絶望する。
  • 第三幕:
    • (帰路) 敗北が決したかのように見えたが、大雨などのトラブルを抱えることで、試合が一時中断する。それによって主人公たちは、一時的な猶予を得る。
    • ここから主人公たちは、関係の復旧に向けて動き出してゆく。そして、主人公がいなくなることで、周囲の人たちはどれだけ自分が主人公を必要としていたのかに気づいてゆく。
    • エースも、団長の少女も、団員も、野球部員も、「主人公が祖母を失った」という不幸を知らされて、「自分は小さなことで悩んでいた」と気づく。そして誰もが主人公から励まされるばかりで、主人公を励ましてはいなかったと気づき、後悔する。
    • みんなは再び集まり、主人公不在でうまくかみ合わない中でも、なんとか連携を保ってゆく。試合が再開され、みんなは主人公が帰ってくることだけを希望にして、厳しい状況を耐えてゆく。そして「試合終了までに主人公に帰ってきてもらわなければ、全てが無に帰す」とタイムリミットが設定される。
    • 主人公はそんな中、一人自責の念を抱えて、閉じこもってしまっている。
    • (クライマックス) ついに最終回が訪れる。主人公は知人によってようやく見つけ出されて、連れ出される。
    • 団長の少女の前で、主人公は「こんな俺なんか、いない方がいい」と、弱音を吐く。そこで少女は主人公に「馬鹿かお前は!」と激しくしかり、「お前がいない方がいいわけなんて、ありえない!」と主人公を励ます。そして感謝の気持ちや恋心、愛情などを、全員の前で、我を忘れてぶちまける。
    • その主人公への励ましは、少女から団員、チア部、そして試合会場全体へと広がる。そして全員が愛情を持って「フレー、フレー、主人公!」と主人公を応援する。主人公は、みじめだった自分が、いつしかみんなから愛されていることを知り、涙を流し、嫉妬もねたみも、全て消し去ってしまう。
    • そして主人公は、力を取り戻す。祖母の死も、「ばあちゃん、俺の勇姿を見ていてくれ」と力に変えることで、克服する。結果として全員が一致団結することで、逆転勝利を得る。
    • (エンディング) 戦いを終え、甲子園も初戦敗退し、主人公は冒頭のような日常に戻る。しかし、一つだけ変わったことがある。それが応援団として活動するようになったこと。
    • 主人公は人々を励まして、それが喜びになっている。また、団長の少女の引退に伴って、主人公は団長を引き受ける。同時に主人公は少女に告白して、二人は恋人同士になる。こうして全ての問題が解決して、ハッピーエンドへと導かれる。

 

……と、こんな流れを作ることができるでしょう。

これは本来の流れとは結構変えていて、私好みに仕上げてます(笑

 

タイムスリップ要素なしでも、十分に面白くできる

今回は、野球メインで作ってみました。

なので、これで構成すると、半分ぐらい野球漫画になっちゃいそうですが。

 

「無能者が英雄になる」(ネタ帳2巻収録)では、何らかの勝敗が決まる戦いを必要とするんですよね。

「応援」は本来競うものではないんですが、野球部とか他の戦いに転化することで、戦いを組み込むことができます。

こうすることで、熱い展開にできるんじゃないかと思います。

 

こんな風に、タイムスリップ要素なしでも、十分に面白く構成することができます。

むしろ、タイムスリップ要素を排除することで、本来描きたかった青春部活ものを前面に出して演出できると分かるでしょう。

無駄な要素を省くことで、見せたい要素を前面に出せる、ということですね。

何でも詰め込めばいいってものではない、ってことです。

 

まとめ

こんな流れで、無意味な設定を排除することができます。

 

ちなみにこの作品は、女性キャラがとても魅力的でよかったです。

こんなに魅力的な女性キャラというのは、ここ数年見たことがなかったな、というぐらい見事に描かれていて。

そういう点で、とてもいい作品でした。

この作者さんは、「モテキ」というドラマ化された漫画も出されているようで。

私はこの「アゲイン!!」で初めてこの作者さんを知ったんですけど、こんなにいいキャラクターを作れるのなら、「モテキ」も見てみようかな、とか思ったり。

 

まあそんな感じで、今日は「無意味な設定を排除する方法」、ということでお話ししてみました。

今日はここまで~。

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