今日は、久しぶりに作家向けなお話です。

物語を「意味次元でとらえる」ということを、実際にどういう考え方をするのか、具体例で示してみましょう

今回はストーリー制作の新理論を紹介していて、実際にその威力を実演します。

そのため今日の記事はいつもの2.5倍ぐらいの量があるので、ご注意ください。

 

「物語を意味次元でとらえる」というテクニック

物語で、「つじつまが合わなくなった、どうしよう」とか、「矛盾や破綻が起きた、どうしよう」「なんかうまくまとまらないなぁ」ってことは、よくあるんじゃないかと思います。

で、私はストーリー構造を研究するのが好きなので、それに対処できるような理論を作ってきたわけですが。

 

その中でも、今の私にとって一番分かりやすくて、コツさえつかめば簡単に物語の整合性がとれるという方法があります。

それが、「物語を意味次元でとらえる」というテクニックですね。

以前は対立関係というモデルでプロットを考えていたんですが、今は「意味次元でとらえる」という考え方で一本化しています。

これが整合性を取るにはシンプルで強力な方法なので、おすすめです。

 

でも、まだちょっと理論としてまとめきれていないので、今日は「意味次元でとらえる」とはどういうことなのか、その考え方を具体例で示してみましょう。

 

「シスターミニッツ」という作品を、冒頭から全体を再構築してみる

じゃあ、ここで一つの作品(ウェブ漫画)をご紹介。

シスターミニッツ

今回は、この作品を元に、冒頭部分から全体を再構築してみましょう。

ちなみになぜこの作品を選んだのかというと、私がお兄ちゃんネタ大好きで、かつ家族的な恋愛物語が大好きだからです(笑

こんなにも私の好みをついた作品は、珍しいんですよ!

 

で、内容を簡単に説明すると、ジャンルとしては家族的な恋愛物語、もしくは家族的な人間ドラマになるかと思います。

主人公は高校生の男の子なんですが、この主人公はとっても臆病で、意気地なしなんですよ。

で、恋人役として、妹にあたる少女、樹里(じゅり)がいます。

この少女がトラブルメーカーなので、主人公は兄として少女を助けてあげたいと思っているんですが、勇気を出せずに全然助けられずにいます。

そんな主人公が、ある日「女の子になってしまう」という問題を抱えます。

そして、少女を陰から支えていく……という流れになるんだろうと思いますが。

 

見てみると分かりますが、この物語って結構独特な設定で、この先どうなるのか、なかなか展開が見通しにくいですよね。

なので、この物語がどういう構成になるのか、実際に「冒頭だけ」という部分的な状況だけから全体を再構築してみましょう

この記事を書いている現状では、第4話、全体で言うと第一幕の「冒険への誘いと拒絶」までしか公開されていません。

でも、たったこれだけの情報からでも、筋が通ったメインプロットを再構成できます。

そんなアホほど強力な理論が、「意味次元でとらえる」ということですね。

 

「意味次元でとらえる」を実際にやってみる

じゃあこの物語の構造を見抜くために、「意味次元でとらえる」という考え方を、実際にしてみましょう。

(注)以下では光田さの先生の漫画作品「シスターミニッツ」のネタバレ&展開予測があるので、光田先生のファンの方で、続きを楽しみにしている方は、閲覧しないようにお願いします。

 

まず最初に言うと、物語には「具体的にキャラがどうしたこうした」という次元とは別次元の、「意味」という次元の流れがあります。

意味次元というのは、「物語において、どういう意味を持つのか」という次元で考えることになります。

例えば「不審者から少女を助けられない」、「少女に主人公が作った弁当を受け取ってもらえない」とかいうのは、具体的な次元ですよね。

これを意味次元に引き上げると、「主人公は、男らしくない意気地なし」、「恋人役の少女から信頼されていない」、という物語の意味を持ちます。

 

実は意味次元の流れって、どれも似通っているんですよ。

10万本のオリジナルストーリーがあったとしても、意味次元の違いにすると、おそらく4x4x4前後の、全12~16要素程度の組み合わせに収斂できるかと思います。

それぐらい、物語って同じことを、同じ流れで語っています。

 

すると、シスターミニッツでは、「意気地なしの主人公が、力と出会うことで、戦う勇気を得ていく」という意味次元の流れがあると分かります。

そして、この流れはヒーローものの流れと同じだと分かります。

ほら、ヒーローものの主人公って、最初は意気地なしじゃないですか。

いじめられっ子だったり、自信がなかったり、か弱い男の子だったりするわけです。

そんな男の子が、武器や魔法の力を得たり、スーパーマンのような力を一時的に得て戦わざるを得なくなることで、次第に勇気を得てゆく流れになります。

 

例えばヒーローものでは、次のような普遍的な構造があるものです。

  • 第一幕: 意気地なしの主人公が力を得て、大切な人を守るために、敵と戦うことを決意する
  • 第二幕前半: 敵と戦って、勝利によって自信を培ってゆく
  • 第二幕後半: 敵と戦って、敗北によって自信を失う出来事が起こる
  • 第三幕: 弱さの根源と向き合うことで、意気地なしを克服して、敵を倒す

 

だったら、シスターミニッツでも、これに当てはめればいいだけです。

ここでの「力」が「女の子に変身する」ことになり、「大切な人」が「少女(妹)」になります。

  • 第一幕: 意気地なしの主人公が「女の子に変身する」という力を得て、少女を助けることを決意する
  • 第二幕前半: 変身する力を使って少女を助けてゆき、助けることによって自信を培ってゆく
  • 第二幕後半: それでも助けられない出来事が起こり、主人公は自信を失う
  • 第三幕: 問題の根源と戦うことで、意気地なしを克服して、少女を助けきる

 

こういう全体の流れが分かると、「あ、ここが流れに逆行しているんだ」と、問題部分が分かるようになります。

つじつまが合わない部分とか、矛盾が起きている原因を突き止めることができるわけですね。

 

これが、「意味次元でとらえる」ということです。

具体的な出来事ではなくて、一段階上の次元で、流れを考えてみましょう、ということです。

 

「主人公が女の子に変身する」という問題に隠された意図

これが全体の流れなんですが、シスターミニッツではあとはもう一つ、大きな特徴があります。

それが、「主人公が女の子に変身する」という問題ですね。

普通、ヒーローものでは、男性的な力を得るものです。

スパイダーマンにしろスーパーマンにしろ、男性的で圧倒的な力を得ることで、主人公は戦う勇気を得るのが普通じゃないですか。

 

ですがこの物語で特徴的なのは、主人公が逆に男性性を捨ててしまう、ということです。

元々主人公は、家事をしていたり、年の離れた弟になつかれていたりと、女性性の強いキャラクターです。

そんな主人公が、さらに「女の子に変身する」ならば、変身しても戦えないというか、むしろ戦うには弱くなってしまうわけです。

すると、戦う勇気を得られなくなってしまいますよね。

これが、この物語で一番トリッキーな構造だと言えるでしょう。

 

でも、作者の光田先生は、これを使いたかったと。

じゃあ、これをどう意味次元で処理するのかというと、ここで「動機」を考えます。

よく、「キャラの動機を一貫しろ」とか言いますよね。

それはある意味、意味次元を考えることと同義です。

 

動機を元に、流れを構築する

じゃあ、実際に動機を考えてみましょう。

そもそも、なぜ主人公は、意気地なしなんでしょうか?

男の子が普通に育ったならば、もし弱い女の子が哀しんでいれば、守ってあげるようになるものです。

それができないということは、過去にそれができなくなった何らかの要因がある、ということですよね。

 

すると、「主人公が少女を助けられなくなる、過去の出来事」を設定できると分かります。

例えば、「家族の中で少女だけが、誰とも血がつながっていない」としましょうか。

だったら、幼い頃に少女は、母親から邪険にされることで、「兄に迷惑をかけると、家から追い出すよ」と言われたとしましょう。

そして少女は、兄(主人公)に対して、幼い頃に「私を助けないで! 私を助けたら、私が出て行かなきゃいけないの!」と強く非難したとしましょう。

すると、主人公は少女を助けたくても、助けられなくなってしまいます。

後は主人公がその出来事を忘れれば、「少女を助けたいのに、体が動かない」という、ちゃんとした原因(動機)を作れますよね。

 

だったら、主人公が「兄ではない人物(女の子)になる」ことで、少女を救うことができる、という意味を与えられます。

主人公が兄以外の、「家族ではない誰か」になれば、助けられるわけですから。

そして、少女は「自分だけがこの家の子ではない」ということから、主人公や弟になつこうとせずに、同時に優しくされることも拒み、自ら嫌われようとするような態度を取ってしまう……という動機が設定できます。

こうやって動機を設定すれば、見事に設定をかみ合わせることができます。

その上、合わない設定を排除することができます。

 

この作品では、そんな風に動機を過去の謎として作り、それを判明させてゆく流れで構成することになるかと思います。

言うなればこれは、名探偵コナンと同じです。

コナンは子どもに変身して、第三者として主人公を取り巻く環境に接することで、問題を解決してゆく、という流れになります。

その「子どもに変身する」が「女の子に変身する」になっただけですね。

 

なので、次のようなミステリー的なサブ構造があると分かります。

  • 第一幕: 主人公が「女の子に変身する」という力を得て、「なぜ自分が意気地なしなのか」という問題に立ち向かうことになる
  • 第二幕前半: 変身することで、第三者として少女や自分の過去に接して、解決へのヒントを得てゆく
  • 第二幕後半: 変身することで、問題の根源(少女と血縁ではなかったこと、過去の出来事)を突き止める
  • 第三幕: 問題の根源(血縁ではないこと)と戦い、勇気を持って行動することで、変身する力を手放して、問題を解決する

 

メインプロットを再構成する

こういう情報があれば、メインプロットを再構築できるようになります。

メインプロットは、次のようにできるでしょう。

  • 第一幕:
    • (日常) 主人公が、恋人役の少女(妹)となじめない日常の説明。
      • 主人公は、勇気が出せないことで、今までずっと少女を助けられなかったことの説明。
      • 少女は兄である主人公を頼りにしておらずに、兄からの優しさを拒絶して、家でも誰ともなじもうとしない性格説明。また、少女はトラブルメーカーだという説明。
      • 母親と兄、弟はそっくりなのに、少女だけが家族の中で全く似ていない、という非血縁の前振り。
      • 母親が再婚を繰り返している、という非血縁の前振り。
    • (冒険への誘い) 少女が再びトラブルを起こしたとき、「助けたいのに助けられない」という主人公は、なぜか女の子に変身してしまう。
    • そして女の子になることで、なぜかすんなり少女を助けることができる。また、少女と新たな接点を持ち、親しくなることができる。(ここまでが第4話)
    • だけど主人公は、女の子の状態で少女の「兄に知られたくない秘密」を共有するなどをしてしまい、自分が女の子に変身しているとは言い出せなくなる。
    • (拒絶) 主人公は女の子に変身する力に対して、「こんな力はダメだ」、「自分が勇気を出して少女を助けなきゃ、意味がない」と拒絶する。でも、なぜか「兄としての主人公」では、呪縛のように体が動かずに少女を助けられない。
    • (メンター) 主人公は、高屋という同じクラスの男子生徒に変身のことを悟られてしまう。だけど、高屋は主人公に理解を示して、メンターとして「女の子として少女に接することで、分かることもある」と主人公に伝える。だけど、ここでの主人公は、「兄(男)じゃないと意味がない」と、それを拒絶したままでいる。
    • 少女は「女の子としての主人公」に対して、兄に打ち解けられないには事情があること、そして誰とも仲良くできないことにも事情があることをほのめかす。だけど、主人公はそれが何かを理解できないし、思い出せない。
    • (第一関門) 少女を助けたい出来事が起こるけれども、兄としての主人公では助けられない状況になってしまう。そこで自ら女の子に変身することで、少女を助けることに成功する。
    • こうして主人公は、女の子に変身することで、なぜ少女が兄と打ち解けられないのか、誰とも打ち解けられないのか、少女を救うためにその事情を突き止めることを決意する。
  • 第二幕前半:
    • 「兄としての主人公」と、「女の子(少女の友人)としての主人公」という、二足のわらじを履く日常を送る。
    • 正体がばれないように少女と接して、仲良くなることで過去を探ってゆき、「少女だけが血縁ではない」、「少女が幼い頃に母親から言われたこと」に対するヒントを得てゆく。
    • 同時に主人公は、「少女は表面では反抗的だが、本当は優しい性質で、思いやりがある人だ」と分かってゆく。
    • その過程を通して、主人公(兄として、女の子としての両方)は少女と絆を深めてゆく。
    • この部分は、サブプロットを用いて構成する。
  • 第二幕後半:
    • (ターニングポイント) 「兄としての主人公」が、少女を助けてしまう。それによって、少女から「どうして助けたの!?」と拒絶されて、決定的に嫌われてしまう。同時に少女は、家を出ようと準備をし始める。
    • 主人公は「兄としての主人公」をどんどん拒絶されてゆき、兄としての無力さを募らせてゆく。
    • (最後の晩餐) ついに、少女が家を出る日が決まり、最後の日を迎える。最後だからと無理矢理夕食を一緒にすることで、同じ時間を過ごす。少女も最後なので、少しだけ本心の優しい表情を見せて、心地よい時間を過ごす。
    • (中盤の盛り上がり) 少女が家を出る日が訪れる。「兄としての主人公」ではどうしようもなく、最後に「女の子としての主人公」で少女と接する。
    • そこで、ちょっとしたきっかけを経ることで、少女は「自分だけがこの家の子じゃない」、「兄のために、出て行かなきゃいけない」と、過去の出来事と境遇を打ち明ける。
    • また、過去に母親から「兄に迷惑をかけると、家から追い出すよ」と言われたこと。そこから兄(主人公)に対して「私を助けないで! 助けたら、出て行かなきゃいけないの!」と言い、兄が少女を助けられないように呪縛をかけたこと。そして「主人公は私(少女)のために、助けたいのを助けずにいてくれたことで、私を助けてくれていた」と、本当は兄(主人公)を信頼していたことと、それを封じていた自分の罪を語る。
    • (報酬) 主人公は、少女への思いを決定的なものにする。同時に、少女が自分の幸せよりも、主人公の幸せを大切にしていることも知る。だから少女は、あえて家族や周囲になじもうとせずに、今も家を出ようとしているのだと。
    • 主人公は過去の事情を全て知り、今までの悩みを全て解決する。その代償として、女の子に変身する能力を失ってしまう。(ここで、女の子と主人公が同一人物であると、少女に悟られる流れでもOK)
    • だけど、結果として主人公は、少女と別れることになってしまう。
  • 第三幕:
    • (帰路) 少女と別れた主人公だが、少女を家族として連れ戻すまでに、一刻の猶予があると分かる。
    • 主人公は「兄としての主人公」で、少女を取り戻すために動いてゆく。しかし、「兄としての主人公」では力不足で、しかも、もはや変身できないので、少女を取り戻せない。
    • 全てを失った絶望から少女は自暴自棄になり、自ら望んで破滅的なトラブルを作り出してゆく。
    • (クライマックス) 主人公は、少女の「一人だけ血縁でない」という問題に立ち向かい、戦って少女の居場所を確保する。そして少女が作った破滅的な状況を、勇気を出して全て肩代わりして助けることで、兄として少女を守る。
    • 主人公は深く傷つきながらも、「あの問題は解決した。もう突っ張ることはない」と少女に伝えて、家族として少女を受け入れる。少女は「兄に迷惑をかけてはいけない」という枷から解放されることで、ようやく素直になって、泣きながら兄に「今までごめんなさい」と謝り、和解する。
    • (エンディング) 冒頭の日常が繰り返される。だけど、一つだけ変わったことがある。それが、少女が主人公を信頼するようになった、ということ。
    • そして二人が仲のいい兄妹として、新たな日々を送り始めるところで、ハッピーエンド。

 

まとめ

思わず細かく説明してみましたが、こういう流れを作れるかと思います。

すなわち、冒頭第4話までの情報で、ここまでメインプロットを再構成できる、ということですね。

ここまでで追加で考えたのは、「構造の種類(ヒーローものの構造)」と「動機」の2つの要素だけです。

この2つの設定によって全体は大きく影響は受けますが、逆を言うとこのケースではこの2つを押さえておくだけで、部分から全体を復元できる、ということです。

 

今回は冒頭のみから全体を復元しましたが、これは冒頭だけでなく、部分的な状況からでも全体を構築可能になります。

例えば、「中盤の盛り上がりだけのアイデアはある」とか、「クライマックスはこうしたいな」というアイデアが単発であるとしましょうか。

なら、意味次元を利用することで、たった少しの部分から全体を構成することも可能になるわけです。

 

もちろん、既にできている物語で、つじつまが合わない部分を見つけることにも対応できます。

「意味次元でとらえる」というのは、これぐらいの威力を持ちます。

この理論が仕上がれば、理論さえ学べば誰でもそういう整合性をとれるようになります。

すごい威力でしょ。

 

イメージをするのにはちょっとしたコツは必要ですが、対立関係を考えるよりも、よっぽどシンプルで、分かりやすい構造になるように思います。

まだ理論としては確立できていないんですが、これは強力なので、とりあえず考え方を紹介してみました。

この革新性と、威力とインパクトの大きさは、分かる人には分かるんじゃないかな~と思います。

 

ってことで、長くなりましたが、今日は物語を「意味次元でとらえる」ということを、実際にどういう考え方をするのか、具体例で示してみました。

今日はここまで~。

この記事をシェア:
Share