作家向け記事強化週間ということで、今日も作家向けのお話です。

今日は、「キャラ設定を洗練させる方法」ということでお話ししてみましょう。

今日は、どちらかというと入門者向けのお話です。

 

キャラ設定を洗練させる方法

物語を作る場合、状況や場面を元に作るとか、キャラ設定を元に作ったり、テーマを元に作る、みたいにいろいろと「出発点」がありますよね。

で、キャラ設定を元に物語を作る場合、「なかなか物語としてうまく仕上げられない」、「うまく話の流れが作れない」、「うまく話が終えられない」という問題が出やすいかと思います。

それにはちゃんと理由があるんですが、今回はそんな理由も踏まえて、一つの解決策をご紹介しましょう。

 

それが、キャラクターの設定をより洗練させることですね。

それによって、物語を作りやすく、そして解決しやすくできます。

この方法であれば、プロット作りが苦手だったとしても、矛盾が生まれにくくて、つじつまを合わせやすい流れを作ることができます。

 

キャラ設定を洗練させる、3つのステップ

そのために、キャラ設定に対して、次の3つのステップを考えてみましょう。

  • (ステップ1) 特殊な設定は、主人公と相手とで、1つの軸において対極設定にする
  • (ステップ2) 特殊な設定以外の設定は、「(その世界では)普通」にする
  • (ステップ3) もしどうしても全く非関連の設定を加えたい場合、「特殊設定があることで、その設定が生まれた」という因果関係の形にする

この3つを考えることで、キャラ設定を洗練させて、物語の流れを作りやすくすることができます。

 

実際に、例を見ながら説明してみましょう。

今回参考にする作品(漫画)はこれです。

新戸(にいと)ちゃんとお兄ちゃん

上記リンクで第1話だけ見ておくと、以下の説明が分かりやすくなるかと思います。

なぜこれを選んだのかは、もう言うまでもなく好みの作品だからです(笑

 

内容はというと、世界観は現代で、少女漫画風な女性向けの恋愛物語になります。

主人公の少女は学校に行っていれば高校1年生になりますが、引きこもり(ニート)として家に閉じこもっています。

そんな少女の親が突然再婚することになり、いきなり兄ができてしまうことになります。

でも、その兄がイケメンなのに妹(主人公)を溺愛するという、性格的に難があるタイプで。

人づきあいが苦手な主人公は、そんな兄と同居生活をするようになってしまい、溺愛する兄から逃げつつも、恋をしてゆく……という流れになるんですが。

 

プロットの流れとしては、「無理にでも一緒にいざるを得ない状況になる」(「ストーリー作家のネタ帳」第2巻収録)に近いかなと思います。

まあおそらく、先日紹介したキャラ設定を元に物語を作る方法で作った形と同じような形になりそうな気がします。

 

で、この作品は、プロットの構成や流れは素晴らしいのに、キャラクターの設定軸にズレがあるんですよ。

いわゆる、キャラ設定が洗練されていない、ということですね。

この「キャラクターの軸」という考え方が理解できるようになると、物語になじんで、ストーリーを解決しやすいキャラクター設定を作ることができます。

逆を言うと、もしその軸を外してしまうと、物語が解決しにくくなる、ということです。

 

じゃあ実際に、以下でそれぞれのステップごとに、キャラクター設定を洗練させてみることにしましょう。

 

(ステップ1) 特殊な設定は、主人公と相手とで、1つの軸において対極設定にする

キャラ設定を洗練させる最初のステップは、「特殊なキャラ設定は、主人公と相手とで、1つの軸において対極設定にする」ということです。

主人公には、恋人役もしくは敵対者のような、対となる相手がいるものです。

その両者を、対極の設定にしましょう、ということです。

すると、物語が解決しやすくなります。

 

じゃあ、「新戸ちゃんとお兄ちゃん」で見てみましょう。

一見、「ニートの妹(主人公)と、過保護な兄」、というのは、魅力的で特徴のある設定に見えますよね。

でも、ここでは対極となる軸がずれているんですよ。

 

「妹と兄」という部分は、いい対極ですよね。

でも、「ニートと過保護」という部分で、軸がずれていることが分かります。

もし「ニートで、引きこもりで社交性がない妹」という設定をメインにするならば、兄は「実業家で、外交的で社交性がありすぎる成功中毒」という設定にする方が、軸が定まると分かります。

もし「過保護で愛情を与えまくる兄」という設定をメインにするならば、妹は「人に愛情を与えられない、冷たい性格」もしくは「愛情を素直に受け取れない、ひねくれた性格」にする方が、軸が定まると分かります。

どちらにしても、そんな両者が一緒にいざるを得なくなると、波乱が生まれそうですよね。

 

そういう風に、ちゃんと対極設定にできていればいるほど、分かりやすくなり、そして魅力的に見えるようになります。

 

一本の物語に二つのメインプロットがあると、「分かりにくい物語」になる

言い換えると、「ニートの妹と、過保護な兄」という設定では、二つのメインプロットがありえるわけです。

  • 一つは、「引きこもりで社交性がないという問題を抱えた主人公が、外交的で社交性のありすぎる兄との交流を通して、その問題を解決する物語」
  • もう一つは、「愛情を素直に受け取れないという問題を抱えた主人公が、過保護な兄との交流を通して、その問題を解決する物語」

この両者は、全くの別物語になります。

話の展開も、筋も、解決方法も全然違うわけですね。

 

「新戸ちゃんとお兄ちゃん」では、言うなればそういう二つのメインプロットが入り込んでしまっている、ということです。

メインプロットとは、一本の筋を指します。

で、どっちをメインにするのか決めないと、テーマがぶれるわけです。

テーマは、シンプルであればあるほど威力を持ちます。

だからメインプロット(テーマ)が複数個あると、読み手は「この物語は、何の物語なんだろう?」と、分かりにくくなると。

 

で、メインプロットが複数あると、最初はよくても、最後にうまく解決できなくなってしまうんですよ。

というのも、「ニートである」という問題を克服していく過程と、「愛情を受け取れない」という問題を克服していく過程は、全然必要なステップが違いますよね。

もし「ニートである」で話を主軸として進める場合、兄との恋を成就できてニートを克服した!と解決できても、まだ「愛情を素直に受け取れない」という問題が残ります。

逆もしかりで、もし「愛情を受け取れない」という主軸で話を進める場合、兄との恋を成就して愛情を素直に受け取れるようになった!とできても、まだ「ニートのまま」という問題が残ります。

残った方を強引に解決させると、「ご都合主義だ」と言われます。

 

こうして、構成で悩んでゆくことになるんですが。

これは、実際に流れを作ってみると分かります。

 

だからこそ、メインプロットは一本に絞り込む方がいいんですよ。

問題を一つに絞り込むことで、解決しきれない問題を残さないようにするわけです。

で、メインプロットを一本に絞り込むには、対極となる軸を一本に絞ればいいと。

「ニートの妹と、実業家で成功中毒の兄」もしくは「愛情を受け取れない妹と、過保護で愛情を与えまくる兄」のどちらかにするわけです。

すると、うまく物語が安定して、きちんと解決できるようになります。

 

(ステップ2) 特殊な設定以外の設定は、「(その世界では)普通」にする

次に重要なのが、特殊な設定以外の設定は、その世界観では「普通」にする、ということです。

言い換えると、キャラクターはシンプルに一つだけ大きな特徴を持たせましょう、ということです。

そうすることで、特徴が目立って、テーマが分かりやすくなります。

逆を言うと、あれやこれやと特徴を入れすぎると、読み手は何が重要な設定なのかが分からなくなる、ということですね。

 

「新戸ちゃんとお兄ちゃん」で言うと、どちらの軸を採用するかで、無駄な設定が出てくると分かります。

「ニートの妹と、実業家で成功中毒の兄」という軸で物語を作る場合、「愛情を受け取れない」という設定は無駄になりますよね。

それは、むしろ「普通に愛情を受け取れる」程度にしておく方が、問題を残すことなく、すっきり物語を解決できます。

一方で「愛情を素直に受け取れない妹と、過保護で愛情を与えまくる兄」の軸で物語を作る場合、「ニートである」という設定は無駄ですよね。

ニートでなくても、普通に学生だったとしても、何ら物語には影響しません。

 

すなわち、無意味な設定(無意味な欠点)をなくす、ということです。

無意味なものがない状態を、「洗練されている」と呼ぶんですからね。

洗練された物語や、洗練された設定というのは、「意味あるもの以外は排除する」ということです。

贅肉がない、スリムなものほど美しい、という感覚ですね。

物語やキャラ設定でも同じで、無意味なものはなくす方が洗練されたものになります。

 

なお、第二幕前半でサブプロットとして用いる設定は、必要なものです。

なので、これはちゃんと特殊な設定として作って、キャラクターに持たせておきましょう。

 

(ステップ3) もしどうしても全く非関連の設定を加えたい場合、「特殊設定があることで、その設定が生まれた」という因果関係の形にする

もし、どうしても余分な設定を加えたい場合、「特殊設定があることで、その設定が生まれた」という因果関係の形にしましょう

そうすると、軸が定まった上で好みの設定を加えられて、うまく解決できるようになります。

 

「新戸ちゃんとお兄ちゃん」で言うと、妹(主人公)は、「ニート」もしくは「愛情を素直に受け取れない」という特殊設定を持ちます。

一方で兄は、「成功中毒」もしくは「過保護」という特殊設定を持ちます。

なら、「どちらかの設定が、もう片方の設定を生んだ」という形にするわけです。

「ニートであることで、愛情を素直に受け取れなくなった」、もしくは「愛情を素直に受け取れないので、ニートになった」とします。

兄の方は、「成功中毒なので、過保護になった」、もしくは「過保護なので、成功中毒になった」とすると。

 

こういう風に因果関係を加えると、片方を解決できれば、もう片方は自然と解決します。

すると、ある程度の余計な設定でも加えることができます。

 

冒頭では、問題の因果関係を説明しておくこと

物語の冒頭では、問題の因果関係説明が重要になります。

というのも、読み手は、わかりやすさを求めます。

特に冒頭では、いろんなことを覚えたくはないんですよ。

冒頭で覚えなきゃいけない物語って、嫌でしょ。

逆にシンプルに「こういう物語です」と分かりやすいほど、読み手はすんなりと冒頭を乗り越えることができます。

 

で、究極に分かりやすい冒頭というのが、一つの対極設定を見せることです。

それさえ把握していれば、読み手は「これはどういう物語か」が理解できます。

そして、特殊な設定が多かったとしても、因果関係を説明できさえすれば、一つの対極設定にまとめることができます。

 

ほら、冒頭でよくあるでしょ。

「そもそも全部、これのせいだ」とか、「こんなに自分が苦しむのも、それもこれもみんな、これが原因なんだ」っていうセリフが。

これは冒頭ではきわめて重要なセリフで、それがあることで、雑多な設定と、一番重要な中核設定(対極の軸)とを区別しているわけです。

読み手はこれがあることで、「ああ、一番重要な問題はこれだな」と理解できて、キャラが抱える問題点と物語の全体像を把握できます。

長編になるほど特殊な設定が多く必要になるので、こういうセリフでまとめることで中核となる問題を明示して、分かりやすくしていることになります。

 

「新戸ちゃんとお兄ちゃん」で言うと、冒頭でその因果関係が作れていませんよね。

ニートなのがそもそもの問題なのか、素直になれないこと(逃げ癖があること)がそもそもの問題なのか、分からないと。

すると、読み手は「二つの別種の問題を抱えている」と分かります。

これが、後半で「ご都合主義になる」か「ハッピーエンドにできない」と苦しむ原因になるわけです。

 

だから、「ニートである」という問題をメインにする場合、冒頭で「愛情を素直に受け取れなくなったのは、そもそも自分がニートだからだ」と説明しておく必要があります。

一方で「愛情を受け取れない」という問題をメインにする場合、「ニートにもなってしまったのも、逃げ癖もついてしまったのも、そもそも愛情を素直に受け取れないことが原因だ」と冒頭で示すと。

すると、読み手はそれだけで「これが根本的な問題なんだ」と、最も中心となる設定が理解できます。

そして、その問題を解決すれば、自動的にもう片方の問題も解決できるようになって、「ご都合主義だ」と言われることもなくなります。

 

先日も触れましたが、こういう「ご都合主義と言われること」と「ハッピーエンドにできない」という作家のジレンマは、冒頭の前振りでほぼ決まります。

それぐらい、冒頭は重要だということですね。

何も考えずに冒頭を進めるから、後半でそういうジレンマを抱えてしまうわけです。(まあ冒頭で失敗したとしても、第一幕メンターの段階までならフォローできますが)

 

で、中心となる設定が分かれば、読み手は物語の主軸(メインテーマ)を理解して、「意味ある物語だ」と分かります。

人はその作品に意味を見いだすほど、面白く感じます。

だから、しっかりと対極となる軸を作る方が、読み手は「面白い」と感じるようになる、ということです。

 

まとめ

なので、キャラクター設定を洗練させるために次の3つを考えるといいでしょう。

  • (ステップ1) 特殊な設定は、主人公と相手とで、1つの軸において対極設定にする
  • (ステップ2) 特殊な設定以外の設定は、「(その世界では)普通」にする
  • (ステップ3) もしどうしてもさらに設定を加えたい場合、「特殊設定があることで、その設定が生まれた」という因果関係の形にする

 

これをちゃんとできれば、無意味な設定がなくなって、分かりやすい物語にできます。

冒頭を分かりやすくできて、しかも矛盾が起きにくく、終盤では解決しやすい設定になります。

キャラ設定を洗練すればするほど、解決しやすくなる、ということですね。

 

そういう観点で、この「あかいろ交差点」という作品の第一話を見てみるといいでしょう。

ここでは、「犬系男子と猫系女子」、すなわち「消極的だけど他者との調和ができるタイプと、積極的だけど自分中心的な(他者との調和ができない)タイプ」という一本の対極軸で洗練されています。

それ以外は、いたって平凡な設定ですよね。

こういうのが、洗練されたキャラ設定だということです。

こういう作品は、矛盾がおきにくく、まとめやすい流れになります。

 

もちろん、世界観とキャラ設定は別ですからね。

これを剣と魔法のファンタジー世界にしてもいいし、和風でも、近未来風でも、何でもかまいません。

世界観は別次元の話なので、無理に現代風にする必要はない、ということです。

 

その上でこういう風に考えると、うまく魅力的なキャラ設定を作ることができて、物語も構成しやすくなるかと思います。

何でもかんでも特殊な設定を加えればいいというわけではありません。

本当に必要な設定のみを残すことで、その設定が輝く、ということですね。

 

ということで、今日は、「キャラ設定を洗練させる方法」ということでお話ししてみました。

今日はここまで~。

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